第2話 ギリギリ鑑定

 お医者様に平謝りの末、診察費はロハにしていただきました。

 異常の見当がつかなかったこともあるが。

 優しいお医者様にもらったオチツキ草を噛みながら、教えてもらった黒い建物を目指す。

 ちょっと歩くだけで、目的地はすぐにわかった。

 小さな村と不釣り合いに思える、黒く小綺麗で小洒落た建物。

 所々に描かれているマークは、この店のシンボルだろうか。

 なにを表しているのかよくわからないが、今の俺には簡略化された女体にも見えてしまう。

「ぬぐぅ!」

 もはやこんなマークにも反応してしまうなんて情けない。

 脳まで支配されているような気分だ。

 一刻も早くこの状態から開放されるため、扉を押して中へと入っていく。


「いらっしゃいませ」

 入ってすぐ正面の受付の女性から声をかけられる。

「はうわぁ!」

 当然のようにモノが反応し、その場にうずくまってしまう。

 長い黒髪の綺麗な若い女性。白の制服に包まれていてもわかる胸の大きさが、俺の体には刺激がすぎる。

 なんでこんなにかわいい子を受付にするんだよバカ野郎。

「あのっ、大丈夫ですか?」

 八つ当たりなクレームを心でつけていると、受付の女性は俺の元へと駆け寄り、心配そうに顔を覗き込んでくれた。

 まんまるで真っ直ぐな瞳、柔らかそうな唇、きめ細やかな肌にどんどん目が奪われていく。

 幸福の詰まった胸元、聖女を感じさせるなめらかな腰元、夢のようなふとももの奥には、神秘を包む夢世界がちらりと覗いて。

「うおおおおおおおおおおおお!」

 激しい動悸と熱が蘇り、俺は再びのたうち回った。

「だ、大丈夫ですか? お医者さん呼んできます」

 女性は立ち上がり、助けを呼ぼうとしてくれるが、

「いや、待ってください。あんな医者じゃ、ダメなんです」

 俺はもらったオチツキ草を口にぶち込み、血沸き踊る肉体にどうにか耐えようと力を込め噛みしめる。

「わ、わかりました」

 女性はこちらの奇行に若干引いているように見えたが、致し方がない。

 さっさと目的を果たすだけだ。

「こちらで潜在ポテンシャルだかなんだかが、ってのを聞いたんですけど」

「はい、こちらでは潜在鑑定ポテンシャルルックを行っています。えーっと、始めての方ですか?」

「おそらく」

 ピンときてないのでたぶん。

「そうなんですね。では先に簡単な説明からさせていただきます」

 女性は改まると、マニュアルのような口調で話し始める。

「現在、世界ではあらゆる生き物に潜在と呼ばれる個別能力が発現されているのはご存知かと思います」

「すみません、知らないです」

「……こほん。えーっと、潜在というのは、

 身体能力の強化、ですとか、

 道具の取り扱いや専門的な分野の習得効率、ですとか、

 性格や性質の特徴、ですとか、

 そういった各人が持つ素質のことを示します。」

「それらがわかってしまうと」

 こんな立派な建物を田舎村に建てられるくらいだ。占いや性格診断の類いとはまた違うのだろう。

「ですがご安心ください。素質と言っても潜在には、先天性のものから後天性のものまでございます。得ようという道があるならば、きっと潜在に恵まれることもあるでしょう。」

「失うことはないんですか?」

「えー、基本的にはそういったことはありませんね」

 なんてこった。この体が潜在に寄るものだとしたら、非常に厄介なことになるのではないだろうか。

「また、鑑定結果はこちらで厳重に管理されますので、私共のほうから外へ漏れることはございませんのでそちらもご安心ください。

 鑑定は無料ですので、自身のことを知るためにも鑑定を受けていただくことをおすすめします」

 眩しい汚れなき笑顔で女性は俺に語りかけてくれる。

 純粋な体であれば惚れてしまいそうな微笑みだが、今は情欲を抑えることに精一杯だ。

「鑑定お願いします」

 ともかく自分のことを知らなければ始まらない。

「わかりました。ではこちらに付いてきてください」

 俺は、女性の後について歩いて行く。

 目前の魅惑のお尻に耐えながら。


 ひとつの個室へと通される。

 窓もなく二脚の椅子が置かれているだけの部屋だ。

「どうぞ、お座りください」

 女性に促され、俺は手前の椅子へと座った。

 膨らみがわからぬよう十分にオチツキ草を添えて。

 女性はそのまま対面へと座る。

 ついついふとももの上に置かれたクリップボードの奥に気が向いてしまう。

「担当させていただきます、プシュケと申します。よろしくお願いします」

 改めて礼儀よくご挨拶いただく。背筋のピンとした育ちの良さそうな所作だ。

「まずお客様のお名前教えていただいてもよろしいですか?」

「あー、はい。えー……匿名で」

 隠したかったわけじゃない。名前すらも思い出せなかった。

「トクメイ様ですね」

 なにか勘違いされたような気がするが、まあいいか。

「お住いはどちらですか?」

「あー、どこにも住んでないといいますか」

「旅の方なんですね」

 勝手に解釈してくれるが、まあいいか。

「大都のほうから来られたんですか?」

「大都?」

「はい。えーっと、そのローブ、大都のメズラシルク製品ですよね」

 なんの変哲もないローブかと思っていたが、そんなヒントが隠されていた。

「あー、そうなんですかね」

「なるほど」

 プシュケは、俺のいい加減な情報を真剣にクリップボード上の用紙へと記入していった。

「ありがとうございます。では、鑑定の方始めさせていただきます」

 ようやく、いきり立ったコイツのことがわかるはず。わからなければ困る。

「あの、私まだ新人でして、新人だからってわけではないんですけれど、鑑定の際に潜在が関わっていそうな部分を手で触れさせていただくとわかりやすいので、お客様の方でどこか心当たりがあったりしますか?」

 ビクッとモノが反応する。

「あーあるにはあるんですけども」

「はい、どのようなものでしょう」

 こちらです、とはさすがに言いづらい。

 いやいや、真面目な話だ。邪な考えでここに来たわけではない。

 医者には言えたんだ。新人とはいえプロであろうこの子に言えないなんて理由があろうか。逆に失礼な話ではないだろうか。

 そもそも原因をハッキリさせに来たのだ。恥じらいで真実がわかるものか。

 そう自分を奮い立たせていき、俺は心当たりを口にした。

「……股間です」

「え? なんですか?」

 俺の小さな声に、プシュケは真面目な顔で聞き返す。

 半ばやけくそ気味に俺は腹をくくる。

「股間です!」

「え、ふぇ? こか、え? え? え?」

 彼女は唐突なシモの話に困惑し、チラチラと視線が上下する。

「すみません、やっぱりそんな潜在なんてないですよね」

 これだけ動揺しているのだ。医者とは違う場所のようだ。

「いや、あのあのあのあの、そんなことはないです。まだ見ぬ潜在も新たな潜在もこの世にはあって、それを知ることも仕事の一貫なので、お客様に不安を与えぬよう堂々と振る舞ってください」

 なぜか、お仕事の心得を教えていただけた。

「あっ、すみません。だから、あの鑑定させてください」

 まじか。

「えと、えーっと。失礼でなければ、腰、腰のあたりを触れさせていただけるとわかるかと思いますので」

 動揺しつつも業務をこなそうとする彼女の姿勢に、申し訳ない気分になってくる。

 まあ腰であればなんとか、唸る俺のモノも噛み付いたりはしないだろう。

「よろしくお願いします」

 彼女のプロ意識に答えよう。

 俺は煮るなり焼くなりの覚悟で後ろに手を回した。

「はい。ではちょっと足を広げていただけますか」

 言われた通りに足を広げると、彼女は足の間へ入るようにして床へ膝を降ろした。

 この姿勢は……ってか正面から触るんですか。

 モノがビクンビクンとはやる鼓動を伝える。

「ふう、では鑑定させていただきますね」

 彼女の綺麗な手が、ローブの中へと侵入していく。

「へぶらっ!」

「ひゃいっ! って中なんでなにも着てないんですか!?」

 お互いがお互いに驚きの声をあげ、更に驚きの連鎖となる。

「ごほっ、事情があって、すみません。今度は死ぬ気で我慢するんで」

 一度深呼吸をし、残りのオチツキ草を口いっぱいに詰め込んで再び後ろに手を回す。

「す、すみません、私の方こそ取り乱してしまって。目、つむってやります」

 彼女は目をつぶって呼吸を整え落ち着き、再度ローブへと手を入れていく。

 冷たい指がふとももの内側へと当たる。

 そして、ツーっと撫でるようにして上部へと登っていく。

 足の付け根にたどり着き、更に上部、腰の部分を包み込んだ。

 彼女の腕によって露出されてしまった俺のモノが、目をつぶる彼女の真剣な顔と触れ合いそうな距離まで近づいている。

 彼女の吐息にモノが震えた。

 歯を食いしばり、オチツキ草をすり潰しながら耐え忍ぶ。

 その時、彼女の指から不思議な暖かさが流れてくる。

 これが鑑定なのだろうか。

 不思議な暖かさは、腰から徐々に全身へと広がっていった。

「これは……」

 彼女が呟き、手で丁寧に探っていくように指を動かす。

「すごい、なにれ……」

 動かす指が腰回りを撫で、じわじわと中心へと擦っていく。

「こんなの初めて……」

 ゆっくり動いていく彼女の指が、俺のモノに当たろうかというところで、

「ふんぬっ」

 俺は咄嗟にモノを振り下ろして指をかわす。

 ふう、危機一髪だ。

 モノはプシュケの鼻をかすめ、そのままの反動で戻ってくるとピトッと彼女の鼻下へと着地した。

「ぐはっ!!!」

「きゃっ!」

 俺の体が飛び跳ね、彼女の顔と体をたっぷり汚していく。

「え、これ、ふえええええええええ!」

 白い液体にまみれたプシュケは、目も開けることもできず気が動転しているようだ。

 そんな彼女の姿を開放感に包まれながら眺める俺のモノは、とても嬉しそうに跳ねている。

 ふう、最低だなこいつ。

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