救星
「来たか……」
黄色ローブはこちらの存在に気が付くと、男とも女とも分からない中性的な声でそうつぶやく。
そして肝心の顔だが、右胸に描かれているのと同じ歪な逆さ五芒星が大きく描かれた白い仮面を被っており、やはり分からなかった。
「君かい、このダンジョンをめちゃくちゃにしたのは。まったく……僕の大事なSランク昇格がかかっているというのに厄介なことをしてくれたよ」
アーサーはいつものようにキザったらしく髪の毛をかき上げると、剣の切っ先を黄色ローブへと向ける。
「……愚かな。何がSランクだ。お前達は、侵略者どもの手のひらの上で躍らされてる無知蒙昧な哀れな存在だ」
「おいおい、中二病かよ」
侵略者、という言葉にドキリともしながら俺はそう返す。
「好きに言ってるがいい。だが、いずれわかる時が来るだろう。ダンジョンは我らを食い物にする恐ろしい存在だと。そして、侵略者どもはいずれ我らが崇拝する神に駆逐されるのだ」
黄色ローブはまるで舞台の上で演技でもしているかのように大げさな動きでそう話す。
「我らは
「知らないのか? 自分から正義だと名乗る奴には碌な奴がいないんだぞ。そういうのはフィクションの中だけにしてくれ」
「……」
俺の軽口に対し、黄色ローブは意に介した様子はなくアーサーの方を向く。
そして、腕をアーサーの方へ向けようとしたところで、いきなりカイが飛び出し黄色ローブの方へと襲い掛かる。
「カイ⁉」
「こいつは……危険……!」
普段の彼女らしくなく険しい表情で黄色ローブに向かうと、カイは自身の右手を無数の刃物へと変貌させ相手に切りかかる。
「なるほど。お前は危険だな」
「あぐっ⁉」
黄色ローブが腕を振れば、見えない何かがカイにぶつかりカイは俺の方まで吹き飛ばされてきた。
「カイ、大丈夫か⁉」
「なん……とか……」
そう言うカイだったが、腹部には大穴が空いており明らかに致命的なダメージだと分かる。
だが、体内には内臓らしきものは見当たらずウゾウゾと黒い肉塊がうごめいたかと思えば、すぐに腹の穴は塞がった。
そんな光景を見て、改めてカイは人じゃないんだと実感する。
「動けそうか……?」
「ダメ。あいつが私に攻撃したとき、力が抜けた。回復で精いっぱいでしばらく動けない……」
おいおい、カイを一撃でここまで追い詰めるなんて、マジで何者なんだあいつ。
「殺す気で攻撃したのだが、存外丈夫なようだな」
カイの腹の穴と回復するところは見えなかったらしく、黄色ローブは呑気にそんなことを言っている。
「とはいえ、しばらくは動けないようだな。ならば、本来の目的を遂行するとしよう」
黄色ローブはそう言うと、アーサーへと近づいていく。
「おっと、あんまり近づかない方がいいよ。僕にはこのゾ=タ・カリバーがあるんだ。君くらいなら一瞬で細切れさ」
「無駄だ。その剣はこちらに害をなさない」
「何……?」
怪訝そうな表情を浮かべるアーサーだったが、黄色ローブは気にせず話を続ける。
「お前は覚えていないだろうが、その剣は我らがお前に託したものだ。身の丈を知らない欲望。自己顕示欲。そして向上心。貴様が数多の神敵を屠ってくれたおかげで充分に育った」
「何を……何を言っている⁉ この剣は僕がダンジョンで見つけたものだ! 僕自身の力で! 喰らえ、ゾ=タ・カリ……『目覚めよ』ぐあっ⁉」
黄色ローブの言葉に激高するアーサーは奴に斬りかかるが、黄色ローブが何かつぶやいたと思えば、突如剣がどくどくと脈打ち始める。
「目覚めよ。時は満ちた。暴食なる欲望を解放せよ。愚かなる神敵どもを喰らいつくせ……ゾタグァよ」
――瞬間、アーサーの持つ剣が変貌する。
ぼこぼこと、剣から肉があふれ出し異形を形作る。
「ひ、あ……な、なんだこれ……⁉」
アーサーが悲痛な叫び声を上げるが、ソレは容赦なく彼を飲み込んでいく。
"アーサー様!"
"なにあれ……"
リスナー達も目の前の光景に阿鼻叫喚だ。
そうしてその場が混乱している間にも、それは姿を現した。
カエルの頭に、ずんぐりとした体。
背中には、お前それ飛べるんかとツッコみたくなる1対の蝙蝠の羽。
『――――――』
この世に突如として生まれ出でた異形は言葉にならない産声を上げる。
その声に俺の体はまるで凍ってしまったかのような錯覚に襲われた。
また、その声の影響かわからないが配信用のドローンも動きを停止する。
ともすれば、意識を手放してしまいたい欲求に駆られるが、隣に居る不安そうなカイの顔を見て何とか持ち直す。
もし、俺1人であればとっくに逃げ出していただろう。
「暴食の夜獣ゾタグァよ。ダンジョンに魅了されし哀れな子羊どもを救うのだ」
その言葉に反応するようにゾタグァと呼ばれたモンスターは身の毛もよだつような叫び声を上げると、その大きな目をこちらに向ける。
「目的は果たされた。私は次の土地へと向かう」
「! 待て!」
その場を立ち去ろうとする黄色ローブを追いかけようとするが、ゾタグァの伸ばした舌によって阻まれる。
どうやら、完全に俺をロックオンしたようだ。
「……上等だ。まずはお前から相手してやるよバケモン。Sランクの実力を見せてやる」
俺は戦闘態勢に入り、ゾタグァと対峙する。
「まずは小手調べだ、ストーンアロー!」
どの程度の実力かを見極めるため、俺はまずは出の速いストーンアローでけん制する。
いくつもの石の矢が空中に現れると、ゾタグァを射殺さんと奴へと向かっていく。
が、ゾタグァはそれらを一瞥すればその長い舌を振り回し、すべて平らげてしまう。
「んなっ、魔法を喰うとかマジかよ!」
そういえば、暴食の夜獣とか言っていたが、もしや魔法すらも喰うってことか?
「なら、普通に攻撃するまでだ!」
俺はすぐさま体勢を立て直すと、大剣を構え奴の舌攻撃をかいくぐりながら近づきデカい的であるでっぷりした腹に深く突き刺した。
『――っ! ぐごご♪』
一瞬表情を強張らせるゾタグァだったが、すぐにニタリといやらしい笑みを浮かべれば、刺さった大剣をそのままズブズブと体内に取り込んでいってしまう。
「普通の攻撃もダメなのかよ!」
俺は飲み込まれていく大剣を手放し、すぐにその場から離れる。
魔法もダメ、普通の攻撃もダメって……これ、普通に詰んでない?
「ホーセン、あれただのモンスターじゃない」
俺が次の手をどうしようか考えていると、復活したのかカイが近づいてきてそんなことを言う。
「あれが……あれこそが私達の天敵、ダンジョンイーター。アレはまだ生まれたばかりで弱いけど、私達を殺せる力を持ってる」
あれが、ダンジョンイーター……。
ていうか、あれで弱いってことは成長したダンジョンイーターはどんだけ強いんだよ。
そして、目の前のダンジョンイーターを誕生させた原因である黄色ローブの謎も深まるばかりだ。
「カイ、あいつを倒す手段はあるか?」
「ある。というか、その手段がホーセンや他の人間。前に言った通り、ダンジョンイーターから守ってもらうため、私達は多種族に力を与える」
そういえば、そんなこと言ってたな。
とはいえ、現状魔法も攻撃も効かないとなればな。
もっと、強力な魔法で攻撃するしかないか?
『グゴ? グゴガ!』
目の前で作戦会議をする俺達に痺れを切らしたのか、ゾタグァはそのデカい図体を飛び上がらせこちらへと襲い掛かってくる。
「くそ、ギアスタンピード!」
俺はすかさず数本のドリルを召喚し、こちらへと向かってくるゾタグァへと放つ。
しかし、やはりその攻撃も奴の体の中へと取り込まれてしまう。
「私も……!」
そして、カイも負けじと自身の体を様々な武器に変化させゾタグァへと飛ばしていく。
少しは効くだろうと思っていたが全てが無駄に終わってしまう。
「くそ、どうやったらこいつを倒せるんだ……!」
俺の攻撃もダメ、カイの攻撃もダメとなればマジで打つ手なしである。
万事休すか、と思った時、それは起こった。
『ゲゴゲェ⁉』
最初は小さな音だった。
パリッと何かが弾ける音が聞こえ、その次の瞬間にはゾタグァの体から大量の雷が放電される。
最初はゾタグァの攻撃かとも思ったが、その割には本人が苦しんでいるので違うらしかった。
数秒の放電がやめば、ゾタグァはその場にパタリと倒れ伏す。
「今の雷、ダンジョンイーターのじゃない。私達の力」
倒れているゾタグァを見ながらカイがそう呟く。
ダンジョンの力で雷……?
「まさか……」
俺は、ふととある考えがよぎり、魔力を目に集中させる。
無生物型モンスターの核を見極める時のアレだ。
すると、まずゾタグァの魔力の流れが見え、次にそれとは別の人型の魔力の流れが奴の体内に見える。
それはうごうごと蠢いており、なんとかゾタグァから脱出しようとしているように見えた。
「おいおい、マジかよ」
その光景を見た俺は、思わずそんな言葉が漏れ出る。
どうやら、ゾタグァに取り込まれたアーサーは生きており……体内から魔法を放ったようだった。
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【TIPS】
あくまでそれっぽい設定なだけなので、星之声の崇める神はハスターではないです。
たぶん
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