乱入者

 すげーな、これが神話級装備の実力か。

 斬る、というよりまさに喰うといった感じだったが、武器の特性だろうか?

 これの影響で暴食の雷霆なんていう称号がついているんだろうな。


「なぁ、カイ。ダンジョンって、マジでこんなレベルの武器をぽこじゃか生み出してるのか?」

「……」

「カイ?」

「え? あ……どうしたのホーセン」


 俺が小声で尋ねるも、アーサーの方をジッと見てぼーっとしていたカイは我に返ったようにこちらを振り向く。


「どうしたはこっちの台詞だ。なんか気になることでもあったか?」

「……分からない。あの武器、確かに私達が作ったもの……だけどなんかおかしい。匂いが変」

「なんか改造とかしたのかね?」


 俺の適当な質問に対し、カイはフルフルと首を横に振る。

 というか本人だけじゃなくて武器もくせーのかよ。

 俺には感じなかったが、単にアーサーのにおいが酷くて気づかなかったか、ダンジョン特有の嗅覚か……。


「人間じゃ改造できない。理由は分からない……けど、嫌な予感はする」


 ほーん、カイがここまで言うってことは本当に何かあるんだろうな。


「どうかしたのかい? 君たちは僕の監督役だろう? そんなに離れていたら、僕の活躍が見れないじゃないか」

「あぁ、すみません。カイとさっきの戦闘がすごかったと話していたんです」

「ふふん、そうだろう? ステータスが全てじゃないと分かったかな?」


 俺のごまかしに対して気を良くしたのか、アーサーはフフンと自慢げに鼻を鳴らす。

 まぁ、さっきの戦闘がすごかったということ自体は事実だしな。


「一瞬、姿が見えなくなりましたがあれも武器の?」

「いや、あれは僕の魔法さ。僕が扱う魔法は雷属性。自身に纏うことで身体能力を飛躍的に向上させることができるんだ」


 なるほど、要はバフみたいなもんか。

 ……バフ1つとってもあんな派手なエフェクトでるとかずるくない?

 

"雷って普通にかっこいいよね"

"基本エフェクト派手だし、見てる方も楽しい"

"土属性配信見るのやめてアーサーさんの配信見ます"

 

 なんて、俺のリスナーたちがそんなコメントを流す。

 お前ら、あとで覚えてろよ。

 俺がコメントした奴らの名前を脳に刻んでいる間も、アーサーの話は続いている。


「今までは僕のスピードに耐えられる武器が無かったんだけど、ゾ=タ・カリバーはに出会ってがらりと世界が変わったんだ。これはもう僕の大切な相棒さ」


 アーサーはそう言うと自身の腰に差している剣をポンと叩く。


「ちなみに、その剣ってどこで入手したんですか?」


 俺は、先ほどのカイの反応も気になったのでそんなことを聞いてみる。


「あぁ、これはね……どこのダンジョンだっけ?」

「覚えてないんですか?」

「はっはっは、この僕としたことが大切な相棒との出会いの場所を忘れしてしまったようだ。子猫ちゃん達は覚えているかい?」


"すみません、覚えてないです……"

"私は、その剣で戦い始めたころから見始めたもので"

"ダンジョンで手に入れたのは覚えているのですが"


 と、どうやらアーサー側のリスナーも覚えていないようだ。

 ふーん、これはちょっときな臭くなってきたか?

 ダンジョン名はともかく、どこで手に入れたかくらいは覚えてそうなものだが……。


「ただまぁ、ダンジョンで手に入れたのは間違いないよ。鑑定もしてある。だからこそ、神話級の認定をもらったんだけどね」


 そう語るアーサーからは、嘘をついているような感じはしない。

 これが演技だとしたら大したものではあるが、現時点で見極めるすべはない。

 警戒だけはしておくか。


 そうして警戒しつつも、ダンジョンの攻略は進んでいく。


「喰らえゾ=タ・カリバー!」

「目の前の贄を喰らいつくせ、ゾ=タ・カリバー」

「さぁ、君の獲物だよ、ゾ=タ・カリバー」


 と、台詞にいくつかバリエーションはあるものの基本は同じ戦法で敵を屠っていく。

 

「アーサーさん、戦い方が全部同じですが他の攻撃方法ってないんですか?」

「無いよ。いくつも戦い方を用意するのは弱者のすることだ。僕とこの剣さえあれば小細工など不要なのさ」


 そんなアーサーの不遜な態度にもアーサーのリスナー達は黄色い声(コメント?)を出す。

 まぁ、それで勝てる内はいいだろうが通用しない敵が出た時にどうするかだな。

 特に、今は完全に剣に頼り切っている。

 もし剣がなくなったらどうなることやら。


 そこでいくと、俺はカイの用意した無駄に豊富なモンスター達のおかげでいろんな戦法が生まれたので、そこはカイに感謝だな。

 できればスキルも欲しいところだが、「ホーセンは私の中で独自の進化をしたから厳しい」と言われてしまった。 

 ガラパゴスかよ。

 だが、無理とは言われていないのでいつか俺もスキルを覚えたいものだ。


「これはちょっとした興味なんですけど、アーサーさんはスキルって持ってるんですか?」

「持ってるよ。そういう君は持っていないのかい?」

「はい、生憎……」


"Sランクのくせにスキル持ってないのか……"

"運が低いから覚えられないのかもしれない"


 コメントにも煽られて泣きたい。

 なんだよ、どいつもこいつもスキルスキルってよぉ!


「まぁまぁ、スキルは別に全員が持ってるわけじゃないし、覚える条件も不明だからね。そう煽るもんじゃないよ。たまたま、僕がスキルを持っていたという話さ」


 と、アーサーがそう言いながらこちらをちらりと見る。

 ぐぬぬ。


「まぁ、とは言っても僕が持っているのは『剣術の熟練』という剣技の腕が上昇するというスキルなんて地味なものさ。もっとも、ゾ=タ・カリバーと相性が良いから気にしてないけどね」


 ほー、そういうテクニック上昇系のスキルもあるんだな。

 スキル自慢をされたのはむかつくが、一度調べてみるのもいいかもしれないな。


「ちなみに、スキルを持てるのは1人1個。まぁ、ゲーム的に言えば固有スキルとかユニークとかそんな感じだね」


 あ、そうなんだ。

 もっとゲームみたいにいくつも持ってるもんだとてっきり勘違いしていた。

 となると、結構博打になるなぁ。


「スキルの習得はその人間の適性や戦い方で決まる。ダンジョンから直接与えることはない」


 と、カイが小声で補足してくる。

 じゃあ、アーサーは剣の適性があったってことか。

 奇しくもアーサーという名前に合っている。本名は知らんが。


 そんな感じで時には戦い、時にはスキル談義をアーサーから受けつつ俺達はダンジョンの中心……世界樹へとやってくる。

 そこにもエルフの集落があり、世界樹を守っているという設定らしいのだが……。


「なっ……⁉」


 しかし、そこにはあるはずの集落が無かった。

 いや、厳密にいえば集落だったものはある。

 だが……建物は軒並み壊されており、火でも放たれたのかあちこちで黒煙が舞っている。

 この状況に、近づくまで気づけなかったのは鬱蒼と生い茂る森のせいだ。


「これは……いったい、何があったんだい?」


 アーサーもこれは予想外だったようで、辺りを見回している。


「う……」


 と、不意に小さいうめき声が聞こえる。

 声の方を見ればそこには、まだ息のある男のエルフが倒れていた。


「大丈夫か⁉ 何があったんだ⁉」

「……人間が来たから我々は主に言われた通り、出迎えたんだ……だが、奴は突然村を焼き、我々に攻撃した。我々は戦う力を授けられていない故……成すすべもなく皆殺された」

「そいつはどんな奴だった?」

「顔は見てな……だが、奴は黄色いフード付きのコートを着ていた……。奴は、世界樹の……中……に……」


 男エルフはそう言う意識を失った。

 そして、どろりと顔や体が形を失い溶けていくと真っ黒な不定形のスライムのようになり、そのまま地面に吸い込まれるように消えていった。

 周りにいたエルフ達も同じように消えていく。


 なるほど、確かにエルフ達は普通の生命ではなかったようだ。

 だが、彼らは確実に生きており、生活をしていた。

 そんな彼らが殺され、目の前で不定形のスライムのようなものになって消えていく姿を見た俺は……。


「大丈夫?」

「っ⁉ あ、あぁ大丈夫だ」


 俺は不意にカイに話しかけられ我に返る。


「すみません、ちょっとボーっとしてました。カイもすまん」

「別に大丈夫さ。この惨状を見て平気な人間は少ないだろうからね」

「私も構わない」


"これは仕方ないですよ"

"さすがに悲惨すぎるし、しゃーないしゃーない"

"現場に居たら俺だって呆然とするわ"

"貴重なエルフたんが……黄色野郎許せねぇ"


 と、コメントも盛り上がる。

 そうだ、黄色いコートの野郎。

 いや、野郎かどうかは分からないが……人間ではないとはいえ、非戦闘員を容赦なく皆殺しにできる奴は野放しにはできない。


「この村を襲った人物は世界樹の中に入っていったって言ってたな」

「どういう目的か知らないけれど、攻略を邪魔されてはかなわない。早く後を追うことにしよう!」


 アーサーはそう叫ぶと、剣を構え配信ドローンと共に世界樹の中へと走り去る。

 俺も追わないとと思い走りだそうとしたところでカイに腕を掴まれる。


「カイ?」

「ホーセン、この中嫌な予感がする。私、入りたくない」


 そう話すカイの顔は普段無表情とは思えないほどに青ざめており、体は震えていた。

 あのカイがここまで怯えるなんて、いったい中に何が居るんだ?

 正直言えば、俺も中に入らずこのままUターンして帰りたい。

 だが、アーサーが中に入って行ってしまったし、こんなことをする奴を放置しておけない。


「……大丈夫だ、カイ。言ったろ、俺が守ってやるって」


 俺はそう言いながら、カイの頭に手をポンと置く。


「それとも、俺の言葉が信用できない?」

「……ううん、分かった」


 しばらくこちらを見つめていたカイだったが、やがて何かを決心したようにうなずきながらそう呟く。


「私はもう大丈夫。行こう、ホーセン」

「あぁ」


 カイの言葉に頷き、俺とカイはアーサーの後を追うのだった。



 世界樹の中は軽く迷路になっていたが、カイのナビゲーションのおかげでスムーズに進んでいく。

 その道中、どういうわけかモンスターには一切遭遇しなかった。

 

「アーサーが倒しながら進んだんかね」

「分からない。この中に入ってから嫌なにおいが充満してて……このダンジョンからも返事が来ないし」


 どうやら、このダンジョンに話しかけていたらしいカイは困惑した様子で答える。

 他ダンジョンと会話もできるとかマジでチートだな。

 だが、嫌なにおいとやらと返答のないダンジョンというのは、どうも嫌な予感しかしない。

 単純に何かに妨害されているのか、それとも……。


「お?」


 そんなことを考えながら世界樹を登っていると、見覚えのある金色が見えてくる。


「おや、ちょうどいい。今から、この扉を開けるところだったんだよ」


 追いついてきた俺とカイに気づいたアーサーが目の前の巨大な扉を見ながらそう話す。

 世界樹の中に似つかわしくない金属製の重厚そうな扉で、見上げるほどにデカい。

 明らかにボスがいますよといった感じだ。


「何があるか分からないから気をつけろよ」

「誰に言ってるんだい?」 


 目の前の雰囲気に呑まれ思わず素で話しかけてしまうが、アーサーは気にしてないという風に肩をすくめながら答える。


「僕はアーサー。Sランクに近い男だ。 このゾ=タ・カリバーがあれば無敵さ」


 アーサーは不敵な笑みを浮かべ剣を構えると、扉に手をかけ開く。

 重そうな見た目とは裏腹に扉は簡単に開いた。


 そして、最初に目に入ってきたのはくそでかい真っ白なサル。

 このダンジョンのボスかと身構えるが……よく見てみれば血だらけになっており、すでに息絶えていた。

 そして、そのサルの上には全身が黄色で右胸に歪な逆さ五芒星が描かれたフード付きコートを着た人物が立っていたのだった。

 

 

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【あとがき】

思ったより『いあいあ』してきたのでタグを追加しました。

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