依頼
「ホーセン、似合う?」
アーサーとの邂逅の後、なんとなーく微妙な雰囲気になったものの、いつまでも気にしていては仕方ないということで俺たちは当初の予定通り服を買いに来ていた。
俺は、半袖のTシャツと長袖のトレーナー数枚。あとは、ズボンも長ズボンと半ズボンを買った。
まぁシンプルと言えばシンプルだが、特にオシャレする気のない男の私服なんてこんなものだろう(偏見)
オシャレ男子はもっと高いのとかブランドものを買うんだろうが、俺は外に出て恥ずかしくないものであれば何でもいいしな。
リリからも、マジかよお前みたいな目で見られた気がしたが最低限の合格はもらった。
そして、現在はカイの私服購入タイムだったのだが……現在の彼女の恰好はへそ出しタイプの紺色のチューブトップ、ショートパンツ、へそ出し! である。
カイの好みもあるだろうからと選ばせてみたらこの格好である。
なんというかあれだね、「ありがとう」以外の言葉が出てこないね。
さすがは俺の好み100%を再現しただけある。
「へー、カイさんってそういう動きやすいのが好きなんですね」
「なんというか、一部の男性が好きそうな格好ですわね」
そんなカイの恰好を見て女性陣はそんな感想を漏らす。
「私が好き、というかこれはホ「おーっと、カイよく似合ってるぞぉ! 人型になったから俺のダンジョン配信を手伝うために動きやすい格好にしてくれたんだよな!」」
カイがすごいスムーズに俺の性癖をバラそうとしたので俺は慌てて間に入る。
……さすがに、これは無理があったか?
「「……」」
あまりに不自然なタイミングでの乱入だったためにリリとルナは猜疑心に満ちた目でこちらを見てくる。
「……うん。ホーセンの手伝いしたくて選んだ」
だが、そこでカイが空気を読んでくれたのかそう答えたことで女性2人の疑いの目からは逃れることができた。
さすがだカイ。10年一緒に住んでただけはあるぜ。
「健気ですねぇ。その服装も似合いますが、女の子が1着だけってのもなんですし、他のも選んでみましょう」
「カイさんはスタイルが良いですからね。きっとなんでもお似合いになりますわよ」
ひとまずカイの言い分を信じてくれた2人はカイを連れて他の服を見に行った。
「ふぃー……なんとか誤魔化せた」
俺は額の汗を拭いながら安堵の息を漏らす。
よく考えたらカイの姿が俺の理想ということは、俺の性癖が常に外に晒されているということになる。
別に変わった好みではないと思いたいが、他人に筒抜けと考えるとちょっと気恥ずかしい。
もし、これがリスナーとかにバレてしまったらもう二度とダンジョンから出れなくなる。
「羨ましいねぇ、両手に花……いや花束かな?」
「ユニコォォォン⁉」
俺が一息ついていたところで急に後ろから話しかけられ、俺は思わず奇声をあげてしまう。
「うお、びっくりしたぁ」
俺を驚かした不届き者を確認しようと振り向けば、そこにはどこにでも居そうな4、50代くらいの白髪交じりのおっさんが立っていた。
というかリリの父だった。
「いやー、急に叫ぶものだから年甲斐もなく驚いてしまったよ」
言葉とは裏腹にまったく驚いていなさそうなリリの父……巌さんは、ハッハッハと笑う。
「それはこっちの台詞ですよ。気配消して近づいて来ないでくださいよ。あやうく心臓がまろび出るところだったんですからね」
俺は悪びれる様子のない巌さんにそう文句を言う。
「ごめんごめん、ちょっとした悪戯心……おじさんのお茶目と思って許してくれないかな」
「……まぁ、巌さんにはお世話になってるのでいいんですけども。それで、なんでこんなところに?」
釈然としないが、巌さんがいなければ俺はダンジョン配信もできず死人扱いのままだったので許すことにする。
まだ心臓がバクバクしてるけどな! マジでビビったんだからな!
普通の人は気配を消すなんてできないんだからな!
なんて心の中の抗議が聞こえるはずもなく、巌さんはニコニコしながら口を開く。
「いやだなぁ、僕はダンジョン課所属だよ? 迷案の視察くらいするさ。あ、迷案っていうのはね」
「リリさんから聞きました。確か、公共迷宮依頼案内所……ですよね? もっとも、皆からはギルドって呼ばれてるとか」
「そうなんだよねぇ。みーんな、正式名称で呼んでくれないんだよ。おかげで、迷案って言っても通じないことがあるのは困ったことだよ」
と、巌さんは腕組みをしながらうんうんと頷く。
まぁ、そこは現代っ子というかファンタジーの人気故というか、諦めるしかないだろう。
「で、視察に来たら娘とSランクであるルナさん、それと聞き覚えのある風貌の男性が一緒に居たというじゃないか。なら、ちょっと話をしたいと思ってね」
あぁー、まぁ職員ならリリの顔を知っててもおかしくないか。
巌さんはダンジョン課のお偉いさんらしいし、どこかで顔を合わせていても不思議ではない。
ルナに関しては言わずもがな。
「リリとルナさんは?」
「あー、買い物を楽しんでます。俺はちょっと休憩ですね」
「分かる、分かるよぉ! 女性陣達の買い物が盛り上がると男は暇になるよねぇ」
俺の言葉に、巌さんは納得するようにうなずく。
巌さんも買い物関係で苦労したんだろうか。
その後、立ち話もなんだからと近くのベンチに座る。
「はい、コーヒーで良かったかな?」
「ありがとうございます」
キンキンに冷えたコーヒーを受け取ると、巌さんは話を切り出してくる。
「話は聞いてるよ。色々大変だったみたいだねぇ」
「ははは、まぁそれなりには」
昨日は、カイの騒ぎの鎮静化やらで忙しかったからな。
ひとまず、俺がでっち上げたストーリーで皆には納得してもらった。
「配信での新宿駅ダンジョン攻略も盛り上がってたみたいだし、名実ともにSランクだね。……で、そんなSランクの君にお願いがあるんだ」
「お願い……ですか?」
なんだか不穏な空気を感じながらもオウム返しに尋ねれば、巌さんは静かにうなずく。
「Sランクというのは、その国の最高戦力だということは知っているね? そして、ステータスだけがSランクの基準ではないことも」
「えぇまぁ……」
「僕は別に気にしてないんだけれど、お偉いさん達はその最高戦力を放置しているのが怖いらしいんだ」
そのお偉いさんの気持ちも分からなくもない。
とんでもない戦力が誰の指揮下にも入らず野放しになっているというのは普通は怖い。
いくら、こちらに反抗の意思はないと言っても素直に信じられるものではない。
「そして国はあるルールを設けた。Sランクは国からの依頼を断らずに受ける事……とね。もしこれを断れば罰金とか逮捕……まではいかないが、Sランクではいられなくなっちゃう可能性は高いねぇ。もちろん、本人の状況なども考慮するから安心するといいよ」
そこらへんもまぁ納得できる。
誰も受けない依頼とかSランクだからこそ任せられる依頼とかもあるだろうし、まぁ強者故の……という奴だろう。
「でだ、それを踏まえて単刀直入に言おう。君にはとある依頼を受けてほしい。色々忙しかった君には申し訳ないんだけれど……上がね? 君をSランクとして継続させるにふさわしい実績が欲しいと仰せでね」
「依頼に関しては、よっぽど難しいものでもなければ別に構いませんよ」
ちょうど、新宿駅ダンジョン以外にも視野を広げたいと思っていたところだ。
依頼というのも受けてみたかったし、ちょうどいい。
「ありがとう、君ならそう言ってくれると思っていたよ! 他のSランクの子達も悪い子ではないんだけど……どうにも個性が強すぎてねぇ。依頼をしにくいんだよねぇあっはっはっ」
まぁ、Sランクの個性の強さはルナを見ればわかるな……。
巌さんからは中間管理職特有の哀愁のようなものを感じたので、俺くらいは巌さんの味方でいようと内心誓う。
「あっはっはっ……ふぅ……それで、依頼なんだけどね。本人の強い意向によって本名は非公開だけど、Diver名はアーサー……って、宝仙くん。なんだい、その梅干を5、6個一気に食べたみたいな顔は」
まさか、アーサーの名をこんなに早く聞くことになろうとは思わなかった。
先ほどのことを思い出し、思わず表情がゆがんでしまったのも仕方のないことといえよう。
「すみません、ちょっと彼とは色々ありまして」
「おや、もう面識があったのかい? ――嫌なら辞めるかい? まだ話を聞く前だから融通きくけど」
「いや、一度受けると言ったのでとりあえず話だけでも聞きます」
「そうかい? じゃあ、続きを言うとそのアーサー君は最近メキメキと評価を伸ばしていてね、現在はAランク。そして、もうすぐでSランクになるんだ。君には、彼と一緒にとあるダンジョンに向かい、Sランクにふさわしいかどうかを見極めてほしい」
あー、そういえばSランクに近い男って自称してたな。
ブラフじゃなかったのか。
「ん? というか、見極めって何ですか? 俺の時は、すごいあっさりSランクになりましたけど」
「君の場合、ステータスが文句なしだったからね。アーサー君はステータスの基準は満たしてないものの、迷案への貢献度でSランク間近になったんだ。だから、Sランクの目から見てどうなのかを見てほしいって感じさ。と言っても、君に決定権があるわけではなく所感を述べてほしいって感じかな。それを参考にこっちで最終決定って流れさ」
なるほど、俺に最終決定権がないのなら気軽にできそうだ。
とはいえ、アーサーに同行かぁ。
「ちなみに、攻略するダンジョンってどこなんですか?」
「富士の樹海にできたSランクダンジョン……通称『ユグドラシルの迷宮』。中央に世界樹と呼ばれる巨大な大樹がそびえ、すべて森林となっているダンジョンだ。アーサー君にはここを攻略してもらう」
世界樹!
ファンタジー作品には高確率で出てくる超有名な大樹。
作品によって扱いは様々だが、たいていは重要な設定を担っている。
ファンタジー好きとしては是非とも一目見てみたい存在だ。
「ちなみに、もう一つ特色があってね。ダンジョン内では珍しく友好的種族が住んでいるんだ……その種族は『エルフ』と「行きます」」
俺は巌さんの言葉に対し、食い気味にそう答えるのだった。
================
【TIPS】
前話を読み返したらめっちゃタイトなスケジュールになっていたので、ギルドに来たのを翌日にしています。
カイの恰好はF〇Ⅶのユ〇ィが近いです
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます