修羅場
「あ、その方は配信に映っていた全裸っぱいですの!」
「宝仙さん、誰なんですかその方!」
ぱーっ⁉
なんでこんな時にこの2人が⁉
まだ、カイやダンジョンについて聞きたいことがあったって言うのに……。
「えっと、そのだね。あー……」
なんて、まるで浮気現場を見つかった男みたいな反応になってしまう。
実際は誰とも付き合ってないし、別になんかやらしいことをしていたわけでもないので俺の身は潔白なのだが何故かしどろもどろになってしまう。
「カイ、さっきの話って誰かにしてもいいのか」
「だめ」
俺が小声でカイに尋ねると、カイはフルフルと首を横に振る。
「過去、私の種族交流試みた。だけど、意思がある分かったら争い起きた。他にもいろいろ。中には、危険だからとダンジョンに入るのやめた種族も居る。私達、欲を糧にするから入ってもらわないと死ぬ。だから、基本的に意思疎通できること悟られたくない。ホーセンが特別」
なるほど。確かに、ダンジョンに意思があり交流できることが分かればメリットもあるだろうが、くそ面倒な存在に目を付けられるのもあるだろう。
俺は別に何かしようとは思わないが、世の中には想像の斜め上を行く悪人も居るもので、絶対何かしら悪用する奴も居るだろう。
人間サイドとしては報告するべきなのだろうが、心情としてはダンジョン側だ。
べ、別にカイの見た目が好みドンピシャだからほだされたわけじゃないんだからね!
「ダーリン?」
俺とカイが小声で話しているのをルナは怪訝そうにしながら尋ねる。
おっと、これ以上彼女たちを放置するわけにもいかない。どう話したものか……。
と、カイについての説明を悩んでいるとリリを見てピンと思いつく。
「えっと、彼女は覚醒者で……他のダンジョンに潜ってたんだけど、罠でここに飛ばされてきちゃったらしい。で、飛ばされた影響で記憶も混乱気味とのことだ」
ここに飛ばされるのはリリが経験済みだし、ダンジョンはブラックボックス部分も多い。
罠の影響で記憶があやふやになったと言っとけば、カイの変な態度も納得できるし、そういうこともあるかと思われる……といいなぁ。
「ついでに罠で飛ばされた際に装備もどっかに飛んでちゃったらしい」
「あ、なるほど。私もここに飛ばされたことありますし、装備が剝ぎ取られる罠もあるって聞いたことあります」
俺の説明に対し、リリはあっさりと信じ「大変でしたね」とカイに同情の目を向ける。
ふぅ、リリがお人好しで助かったぜ。
「アナタ、新宿駅ダンジョンですわね」
「どどどどどど」
「ダーリン、落ち着いてくださいまし。目が泳ぎまくってバッシャバシャですわよ」
そう言われても!
いくら俺の説明が嘘くさかったとしても、なんでいきなりドンピシャで正体当てられるんだよ!
こえー、Sランクこえーよー!
リリも、マジかよって感じでこちらを見ている。
嫌だよー。完全に浮気の言い訳がバレたくそ男状態だよー。
「まぁ、先ほどのダーリンの言い分も無くも無いですわ。ですが、まずそこの女性の雰囲気が只者ではない。私、この国の強者はだいたい把握してますの。ですが、彼女は見たことありません」
うわ戦闘民族こわい。
「そして、先ほどから異様なほどの殺気をビシバシ受けていますわ。初対面の方……特にこれほどの強さを持つ方から殺気を向けられる覚えがありませんの。ですが、直近で恨みを買っていそうなことと言えばこのダンジョンがらみ」
「カイ……」
「だって、ドリルが……」
俺がカイの方を向けば、彼女はバツが悪そうに俯く。
いや、マジで殺気飛ばしてたんかい。
ていうか、殺気を感じるとか漫画の世界だけじゃないのかよ。
「そして極めつけはこの二つ名ですわ」
ルナがそう言って自身のステータスを公開すると二つ名に『泥棒猫』の表示があった。
「カイ……」
「だって、ドリルが……」
あまりと言えばあまりの状況に思わず既視感のあるやりとりをしてしまう。
ていうか、二つ名ってやっぱダンジョンが付けてたんだ。
じゃあ、ヒモをなくしてくれよヒモをよぉ!
「あとはまぁ……私の勘と確信にまで至らなかったのでカマかけですわ。まさか、本当に新宿駅ダンジョンとは思いませんでしたが」
うーん、これは完全にルナの方が上手だった。
10年引きこもっていて対人スキルが育ってなかったのが俺の敗因だ。
やっぱ外に出ないとダメだね。
「ダンジョンに意思があるというのは、ここまで都合よく進化してるので半ば暗黙の了解でしたが……まさか人型になれるなんて、これは世紀の大発見ですよ宝仙さん!」
ルナの解説を聞き、リリが鼻息を荒くしながらそうまくしたてる。
「えーっと、それなんだがカイ……じゃなかった、ダンジョンが俺たちと意思疎通ができるってことは黙っててくれないか?」
俺は先ほどカイから聞いた話をかいつまんで話す。
カイ達が宇宙から来たいあいあ!的存在だってのは流石に話すがそれ以外は、まだ話さない。
そういうのまで話してしまったら、流石に黙ってることは無理だろうからな。
ダンジョン達の存在を守るためだ。
「ダンジョンが宇宙から来たって言うのは驚きですが……まぁ、確かに面倒な人たちは湧きますわねぇ。そういうのをプチッと潰せる法律ができればいいですのに」
ルナは冗談っぽく言ってるが、彼女ならマジでやるという凄みがある。
「あの……私のお父さん、ダンジョン課のそこそこ偉い人なんで、私は黙ってると罪悪感とかその他もろもろが」
そういえば、リリのお父さんは思いっきりダンジョンに関わっている人だった。
「リリ」
俺がどうしようか悩んでいると、カイがリリの前にズイッと出る。
「な、なんですか?」
「おい、カイ。あまり手荒な真似は……」
「大丈夫、ホーセンが嫌がることしない。リリ……もし、誰かに話したら……」
「は、話したら……?」
カイの有無を言わせぬ雰囲気にリリはごくりと唾を飲み込む。
もし、カイが誰かに害を為そうというのなら、俺はカイを止めなければならない。
さすがにそこは見逃せないからな。
「リリを全ダンジョンから出禁にする」
「思ったより優しい対応だけど、Diverには確実に刺さる処罰⁉ 流石に出禁は嫌なんで黙ってます!」
思ったより平和な解決法に意表を突かれつつも、リリはビシッと敬礼してそう誓う。
いやまぁ、現代はダンジョンを中心に経済が回っているだろうからDiverでなかったとしても全ダンジョンに入れなくなるのはきついだろうな。
「うん、それでいい」
リリの言葉に、カイは満足そうにうなずく。
「ていうか、カイってそんな権限あるのか?」
全ダンジョン出禁って、ダンジョンが今地球にどれだけあるかは分からないが、それなりの数はあるはずだ。
「ある。私、地球に来たダンジョンのトップ。西の方にある……う、ウメダ? のダンジョンとツートップの姉妹。出禁くらい容易い」
まさかのトップ。
俺の住んでるダンジョンが最強だった件、とかそんな感じのタイトルでラノベが出せそうだ。
「梅田ダンジョンもトップなんですのね。まぁ、あそこもSランクダンジョンですし、ここほどではないですが歯ごたえありましたし納得ですわ」
と、納得したように頷くルナ。
攻略したことあるんだね……流石はSランク。
「な、なんか色々衝撃の事実が判明しすぎてパンクしそう…… 」
安心しろリリ、俺もだ。
むしろ、リリ達の持っていない情報も持っている俺は、もっと混乱している。
「とりあえず、事情は分かりましたわ。カイさんについては覚醒者、ということにしておきましょう」
「で、でも覚醒者って基本国で管理してるのですぐバレるんじゃ」
マジかよ、覚醒者って国で管理してるの?
いやまぁ、よく考えたら1人で国1個潰せそうな戦力を管理しないわけがないか。
「そこは問題ありませんわ。私の方でねじ込んでおきます」
「だ、ダンジョン課関係者の前でその発言はどうなんでしょう? いや、良いんですけどね」
ルナの堂々とした物言いにリリは若干引いていたが、俺としては多少ダーティだったとしても解決するならそれでいい。
「ダーリンの配信も切れる直前にカイさんが映ったせいでお祭り状態ですが、最初にダーリンが説明したとおりの事を話せば、納得はされるでしょう」
「ですね。実際あり得ることですし、私も普通に信じましたし」
戦闘民族だけどルナは普通に頼りになるな。戦闘民族だけど!
「ホーセン、またドリルの事褒めてる」
カイがジトッとした目でこちらを見ながらそんなことを呟く。
普通に心を読んでくるんじゃありません。
しかも、これは褒めてるって言えるのか……?
「さて!」
カイの言葉に首を捻っていると、リリが突然大きな声を出しパンッと両手を叩く。
「いろいろありましたが、いったん解決ということでいいですね!」
「うん、まぁ……こっちとしてはカイの正体を秘密にしてくれればいいわけだし」
「覚醒者の件も私の方で何とかしますしね」
「私はホーセンと一緒に居られればそれでいい」
リリの言葉に三者三様の言葉で答える。
というかカイ、さらっと爆弾発言をするんじゃない。
ほら、ルナがすっごい目でこっち見てるから!
頭に「⁉」が浮かんで見えるほどすごい形相してるから!
「はいはい修羅場らないでください」
険悪な雰囲気になりそうだったが、リリが軽く手を叩いてその空気を払拭する。
リリのこのコミュ力は普通にありがたい。
「今回の件はいったん解決しましたが、まだ重要なことが残っています」
「重要なこと?」
俺の言葉にリリがコクリと頷く。
なんだろう、まだなんかあったか……?
「えぇ、とぉっても重要です。……カイさんの服を買いに行きましょう! その服は流石にあんまりです! ついでに宝仙さんの外行きの服も買いに行きますよ!」
「……なんだって?」
リリの突然の提案に俺は思わずそう呟くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます