ダンジョンの正体
「なんなんだこの人は……」
俺は全裸の女性を前にして呆然とする。
とっさに配信は切りしはしたが、全裸の女性が地面に寝転がっている事実は変わらない。
偽物の俺を倒したと思ったら美女になっていた。
何を言っているか分からないと思うが、俺も分からない。
服か何かを着せてあげたいが、あいにくと俺が生成できるのは金属系で布系は生成できない。
さすがに寝てる? 気を失ってる? 人に重たい金属を被せるのはどうかと思うしな。
「……」
俺がどうしようか悩んでいると黒髪美人はぱちりと目を覚ますと上半身を起こし、きょろきょろと周りを見渡し……俺とばっちり目が合う。
「あ、いや俺は別に怪しいものじゃ……気が付いたら君が倒れオデュッセウス⁉」
痴漢扱いされてはたまらないと必死に弁解をしていると黒髪美人は何を思ったか、拳を握ると唐突に俺の股間を打ち抜いた。
今の俺は鎧を装備しており、股間に関しても防御はバッチリだったのだが、そんなのお構いなしにと鎧を素手で打ち砕き、俺の息子も打ち砕かれた(比喩)。
「あ、な、なにをひっひ……! す、するんだ……ヒッ……!」
股間を押さえ俺はうずくまり、呼吸を荒くしながらも突然の暴挙にでた黒髪美人に抗議する。
「……か」
「え?」
「ホーセンのバカ! カエレ!」
「いて⁉ いた⁉ あ、ちょっとマジで痛い! す、ストップストップ!」
黒髪美人はキッとこちらを睨んだかと思えば、ぽかぽかと俺を殴ってくる。
いや、見た目こそぽかぽかなんていう可愛らしい擬音が相応しいがダメージは洒落になってない。
「まず、君誰⁉ なんで俺、こんな怒られてんの⁉」
あちこちにダメージを負いつつも、俺はその場から離脱するとそう叫ぶ。
「ホーセン、出てく言った! 10年も養ったのに! 薄情なホーセン要らない!」
女性はまだ怒り心頭なのか、俺の問いに対しカタコトでそう叫ぶ。
……まて、10年養った? それに出てく?
俺は、まさかという気持ちと信じられないという気持ちが綯い交ぜになりながらも恐る恐る口を開く。
「…………カイ?」
俺がそう尋ねれば、黒髪美人……いやカイは頬を膨らませたまま不機嫌そうにうなずくのだった。
ファー⁉
「ちょ、ちょっと待ってくれ。本当にカイか? いや、カイってダンジョンだよな? 何で急に人間に……?」
「ここ出てくホーセンには何も教えない!」
「いや待て、まずそれが誤解だ。俺は出てくなんて言ってないぞ」
「言った。ドリルと戦ってるときに配信を続けるなら他所のダンジョンに行くって」
ドリルて。
まぁ、ルナの事だろうが……そん時に出ていくって……あ。
「あぁぁぁぁぁぁ! 違う違う! 出ていかない出ていかない! 俺の拠点はここ、新宿駅ダンジョンだよ! つーか、他に住むとこ無いし!」
一応、俺が育った孤児院はあるが、さすがに今の俺が住むわけにもいかない。
「? でも……」
「出ていく違う。出かけるって意味!」
焦りすぎて俺も思わずカタコトになってしまう。
「どう違う?」
「出かけるは、一時的に外に出るけど帰ってくるって意味だ。新宿駅ダンジョンは俺にとって、もう住み慣れた土地だから出ていく気はない」
「……ドリルともつがいにならない? ホーセン、ドリル好きだからあの女ドリルとつがいになって出ていくと思った。私、急に悲しくなって気づいたらホーセン追い出してた」
いや、確かに男のロマンであるドリルは好きだがルナのはまた違うドリルだ。
……まぁ金髪縦ロールが嫌いじゃないといえば嘘になるが……ってことをチラッと考えたらおもっくそ睨まれたので思いっきり首を振っておいた。
「追い出したのに、ホーセン戻ってきた。だから一生懸命追い出そうとした。でも、何度も戻ってきた。だから、もうホーセンの代わりは居るから出ていけって言いたくてアレを作って私が中で操作してた」
アレ、というのは俺の偽者の事だろう。
ちょいちょい動きがフリーズしてたのは、中にカイが入ってたからだったのか。
「でも、まさかホーセンが自爆技使うと思わなくて負けちゃった」
「まぁ、それが狙いだったしなぁ」
実際、そうでもしなきゃあの偽者に勝てる気がしなかった。
中身がカイとはいえ、強さは間違いなく俺並だった。
「ホーセン、本当に出ていかない?」
「出ていかない出ていかない」
カイの言葉に俺がそう答えると、ジッと何かを確かめるようにカイはこちらを睨みつける。
そして笑顔になったかと思うと俺に抱き着いてくるのだった。
「よかった。ホーセン、これからも一緒」
「ちょ、カイ裸裸!」
「私は気にしない。というか裸で狼狽えるの人間くらい」
まぁ、動物とかは服着ないからね!
「カイが裸のままだと俺が緊張するから服を着てくれ!」
「……分かった」
カイはそう言って俺から離れると、俺が普段着として使用している服へと着替えるのだった。
どこからその服を出したんだとか、色々ツッコミたいことはあるが……なんか彼シャツっぽくて良かったので全てがどうでもよくなった。
「これでいい?」
「あぁ、
俺がそう尋ねると、カイはこくりと頷く。
「まず、カイはこの新宿駅ダンジョンなんだよな? なんで人間の姿に?」
「ホーセン、一人で時々寂しそうだった。私、普段の姿だと上手く話せない。だから、ホーセンの好みの姿をトレースした」
俺の好みの姿?
カイの言葉に俺は改めてカイの姿を見る。
長い黒髪、少々寝ぼけ眼の半目だが美人と分かる顔立ち。
そして豊満なアレ。
……うむ。
「まぁ、それに関してはありがとうと言っておこう。で、次なんだがダンジョンは皆意思を持ってるのか?」
「うん。私たち別の星から来た。私たち自身は戦えない。だから、庇護されるためその星の住人にとって都合のいい姿へと進化する」
なるほど、それが今の配信に適したダンジョンの姿というわけか。
というか、まさかの地球外生命体である。
宇宙との邂逅がこんな形で叶うとは予想外にもほどがある。
本当はもっと驚くべきなのだろうが、散々ファンタジーな世界に住んでいたので今更感があるけども。
「私たちは、生物の欲を糧とする。もらった欲利用して進化する。そうすると、生命体は私たち保護してくれる」
「お互いにメリットがあるってことか」
「うん。だけど、この星に来た時、まだ加減分からなかった。だから、私がこの星に来た日、ホーセンを間違って一番奥に連れてきてしまった」
カイはそう言うと、申し訳なさそうにショボンとする。
作り物と分かってはいても、その見た目で落ち込まれると俺の罪悪感が凄まじいことになるのでやめてほしい。
「まぁ、最下層に落ちたときは何してくれてんだって思ったけど、今はこの生活が気に入ってるし、カイは気にしなくていい。ここまで養ってもらったしな」
「……よかった。最初は罪滅ぼしだった。だけど、ホーセンを観察してるうちに……この星の言葉で言うところの情が湧いた。ホーセンは誰にも渡したくない」
そう語るカイの表情はどこかうすら寒く、闇が垣間見えた。
俺はヒエッとなりつつ、これ以上この話題を続けるのは危険と判断し話題を変えることにする。
「え、えっとさっき庇護されるって言ったけど、なんか天敵でも居るのか?」
「居る。そいつはЖΨ§Ξ……ホーセン達の言葉にすると
先ほどの闇のオーラは潜み、自身の体を抱きしめるとカイはぶるぶると震える。
あれだけ強かったカイがここまで怯えるということは、ダンジョンイーターというのはそれだけ恐ろしい存在なのだろう。
そいつがどれだけ強いかは分からない。
だが、カイが俺に対して情が湧いたように俺も彼女に情が湧いてしまっている。
「安心しろ、カイ。そのダンジョンイーターとやらからは俺が守ってやる」
だから、その言葉が出てしまうのも仕方のないことだった。
「うれしい」
カイはそう言って俺に抱き着いてくる。
こうしてカイと触れ合っていることに不思議な感覚になりながらも、俺は彼女を抱きしめ返――
「ダーリン、あの全裸っぱいは何者ですの⁉」
「宝仙さん! 配信切れる直前に映った美人さんは誰ですか⁉」
――そうとしたところで、髪を振り乱しながらルナとそれに背負われているリリがやってくるのだった。
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【TIPS】
カイのガワは人間ですが、中身はSAN値直葬もの
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