偉大なる魔法

"何あれ、天使じゃないじゃん"

"運カスさんに似てんね"

"もしかして、自分のことを天使とかそういう……?"


「それは冤罪だ! いや、確かに天使型のモンスターのはずなんです……よ!」


 ざわつくコメント欄にツッコミを入れつつ、俺は再び斬りかかってくる俺モドキの攻撃をいなす。

 奴の剣は俺の得意魔法でもある超振動ブレードを使用しているので、まともに受けると武器があっさり切り裂かれてしまうので受け流すことしかできない。


"じゃあ、またダンジョンちゃんのテコ入れか"

"30階層のコンセプトって最強だったよね"

"私にとっての最強は貴方よ、ってこと?"

"愛されてんねぇ!"


 なんて嬉しくない愛の確認方法だ。

 最強の敵は自分自身、なんて創作ではよく見かけるかが実際に相手にすると面倒くさいことこの上ない。

 何故なら基本的に自分と同じ技量、戦い方なので相手の想定を上回るような戦いをしないと勝てないからだ。


沈没の禍沼シンキング・クワグマイアー!」


 俺は相手から距離を取り、地面を泥沼化させ――ようとしたが相手も同じように俺の周りの地面を泥沼化させる。


「ほらやっぱり、行動同じだ!」


 俺はすぐさま魔法を解除すれば、足をとられる前にその場から立ち退く。


"こういう奴の定番だと、あえて行動しないみたいなことあるよね"

"あるある。基本、自分をトレースするから何もしないと相手も何もできなくて勝利! みたいな"


 マジで? 

 そんな簡単な攻略法あんのか?

 リスナーたちが妙に確信をもってそう言うのでなんだかそれが正解な気がしてきた。

 試しに俺は特に何もせず動きを止めて様子を見ることにする。


「……」


 俺の行動に対し奴は一瞬戸惑うような素振りを見せる。

 これは、いけたか……? と思った瞬間、奴は再び動き出すとこちらに向かって無数の石の槍を飛ばしてくるのだった。


「ダメじゃねーか!」


"草"

"やっぱ現実はそんなうまくいかんか"

"めんごめんご"


 時には槍を捌き、時には槍を避けつつ文句を言えば、何とも軽いノリで謝られる。

 リスナーどもはクソだが分かったこともある。

 奴は、俺の思考を完全トレースしてるわけではないということ。

 こちらが急に動くのをやめた時、一瞬戸惑うような素振りを見せたのが何よりの証拠だ。

 奴は俺のドッペルゲンガーではなく、あくまで忠実に再現した別個体というわけだ。

 俺の使える魔法は奴も使えると考えていいだろうが、戦い方によっては勝つことも可能だろう。


頑丈なる岩錠ロック・ロック!」


 俺は槍を捌き切ると、間髪入れずに拘束魔法を放つ。

 Sランクである零戦……ルナでさえ全力を出さなければ抜け出せないほどの強固な檻だ。


「……は、当然効果を分かってるから避けるよなぁ!」


 頑丈なる岩錠ロック・ロックが発動した瞬間、奴はすぐさまその場から飛び上がるように避ける。

 俺だってそうする。

 奴が俺を熟知しているということは、こちらも奴の動きを予想できるということだ。

 俺は、奴が態勢を整える前に、目の前に巨大な砲台を作り出す。

 これは恐ろしく時間がかかるが、一度発動すれば避ける間もなく相手を葬ることができる。

 相手もこれを発動すれば勝負は分からなかったが、先にこちらが発動できたのは僥倖だった。

 あとは、これが発動するまでの時間稼ぎをすればいい。

 巨大な砲台が、バチバチとけたたましい音が鳴り始めると向こうも何をしようとしているのか理解できたらしく、大量のドリルを空中に生成し始める。

 俺の魔法に対してギアスタンピードで対抗する気らしい。

 確かに、単純な物量で言えばあちらの方が上だろうが……当然こちらも抵抗させてもらう。


万物錬成アルス・マグナ――」


 俺は地面に手を触れれば、剣、槍、グレートソード、大鎌と思いつく限りあらゆる武器を高速錬成していく。

 そして、錬成したそばからその武器で相手に斬りかかり魔法発動の邪魔をする。

 剣が弾かれれば槍を、槍をへし折られれば鎌を。

 とにかく、間髪入れずに様々な武器で攻撃を繰り出す。

 万物錬成アルス・マグナは、俺の持つ奥の手の1つ。 

 この魔法を発動することで高速思考を可能にし、生成する武器のイメージを高速化し魔力を地面に流し込み武器を作り出す。

 もちろん、普通の人間である俺が高速思考なんかやったら脳に負担がかかってしまう。

 だが、俺と同じ技量を持つ相手にはこうでもしないと時間稼ぎはできない。

 実際、奴はすでに俺の高速錬成にも対応してきている。

 人間じゃない分、素で対応できるのだからチートにもほどがある。

 そしてしばらくの間、お互いにあらゆる武器で打ち合うが……ついにこちらが劣勢となり武器を掴まれてしまう。

 兜の中で俺はにやりと笑えば、相手は次に俺が何をしようとしているのか察したらしくその場から逃げ出そうとする。

 だが、少しばかり遅かった。


ミダス王の手アルス・マグナ


 もう1つの偉大なる魔法。

 かつて触れるものすべてが黄金になるという願いを叶えられた伝説の王。

 それにちなみ、この魔法を発動している間はすべての物質を黄金へと組み変える。

 もちろん、偽の俺も例外ではない。

 俺を掴んだ手からどんどん黄金に塗り替わる。

 いずれは完全な黄金となるだろうが、もちろんデメリットもある。

 この魔法は強力すぎるため、俺自身も黄金に変わってしまうのだ。

 完全な黄金になってしまえば、俺でも解除ができない諸刃の剣。

 故に、まさか自爆技を連続して使うはずがないと油断していた相手はまんまと引っ掛かったというわけだ。

 普段の俺は自爆技なんか使わないからな。

 思考を完全にトレースしてない故の弱点というわけだ。


「所詮お前は偽物だ。本物様には敵わないんだよ」


 お互いに黄金化が進んでいく中、あの魔法の準備が整った。

 間一髪で俺はミダス王の手アルス・マグナの発動をやめ、そのまま体を無理やり動かしその場から立ち退いた。

 黄金化が進んでいる体を無理に動かしたために、バキリと嫌な音が聞こえ体にひびが入るのが見えるが……まぁ、死んだら治るしいいだろう。

 なんてのも、ダンジョンの中では死んでも復活できるからこその荒業だ。


「吹き飛べ偽物。俺はさっさとカイに会いたいんだよ」


 そう吐き捨てると、俺は準備を終えた魔法を発動する。


『レールガン』


 物体を電磁気力(ローレンツ力)により加速して撃ち出すなんたらとネットでは何やら小難しい説明をしているがこの魔法は単純だ。

 土魔法は磁気なども扱うことができるので、魔法でそれっぽいものを再現しひたすらチャージして放つなんちゃってレールガンである、しかし威力は折り紙付き。

 目にも止まらぬ速さで射出された砲弾は、轟音と共に偽物を打ち砕くのだった。


「ふう、間違いなく最強の敵だったぜ」


"自画自賛で草"

"というか、明らかに土魔法を逸脱している魔法が連発されてて、どういう顔をすればいいかわからないの"

"笑えばいいと思うよ"

"これ、マジで土魔法の歴史変わるでしょ"

"いやまて、使ったのはSランクだぞ。凡人に使えると思えない"


 新宿駅ダンジョンに住み始めてから間違いなく一番の強敵だった相手を倒し、俺はコメントを眺めながら一息つく。

 だが、決して油断はしない。

 今までの流れだと倒した後に、何かしら罠を仕込んでいるからだ。

 

 レールガンにより巻き上がっていた土煙が晴れていくと、先ほどまで偽物が居た場所に何か小さな人影が見える。


「……近づいていいと思います?」


 リスナーに尋ねれば「GOGO!」や「行くしか選択肢ないが?」となんとも無慈悲な返答が返ってきた。

 まぁ、どっちにしろ確認しないわけにもいかないので、俺は恐る恐る近づく。


「……女の人?」


 年齢は16~18歳ほど。

 身長は160㎝くらいで、長い黒髪は女性の身長ほどに伸びている。

 眠っていてよくわからないが、顔立ちなども整っており美人の類に入るだろう。

 そして、特筆すべき点が1つ。


 どういうわけか、女性は全裸だった。

 そして、豊満であった。


「やべ」


 それを見た瞬間、俺は咄嗟に配信用ドローンの配信を停止するのだった。


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【TIPS】

画面の向こうでは全裸っぱいが映ったと祭り状態

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