"最強"の敵

二度の再走により思ったより時間が経ってしまったため、この日は一旦放送終了し翌日から再開となった。

 ちなみに、普通ならばショートカットなども解放されているため、ダンジョンに潜る覚醒者は一度家に帰るらしい。

 当然、俺はカイからショートカット禁止を喰らっているのでこのまま野宿である。

 携帯食についてはこの10年で一応発達しているのか、高カロリーのものも結構出回っているが、所詮は携帯食。

 保存に特化しているので食感とかはモソモソしていて微妙だ。

 いや、もっと高級なのだとレトルト系などもあるのだが、あーいうのはお湯を沸かさないといけないし食器なども必要になってくるので自然と荷物も多くなってくる。

 パーティであれば問題ないだろうが、俺はソロなのであんまり荷物が増えるのは遠慮願いたい。

 特にこのダンジョンで荷物が多くて動きが鈍くなるというのは自殺行為に他ならない。

 

「はぁ……カイの料理が恋しくなる日がやってくるとは……」


 カイの料理は材料こそ不明瞭なものの味は美味かった。

 まぁ、普通の人間がどっち食いたいかって言われると、大抵は材料が保証されている携帯食の方だろうが、俺からすればもう10年もカイの方の料理食って暮らしてたんだから材料不明でも美味い方を選ぶ。


「こういうところがヒモって称号がつく所以なんだろうな」


 そんなことを考えながら何気なくステータスを表示してみる。


「あ……?」


 すると、そこには変化があらわれていた。

 ステータス部分には変化はない。

 変化しているのは称号部分。

 なんと、不名誉極まりなかった『統べる者の加護を受けし者』が消えているのである。

 ヒモ称号が消えているのはありがたいが、あれは内容が内容だけに本当にカイの加護から外れている証左にもなるので寂しくもなる。


「……なぁ、カイ。俺、なんかお前にしたか?」


 もさもさした携帯食を食べ終わり、壁に寄りかかりながらカイに話しかけるも返事は当然返ってこない。

 やはり最下層に行かないといけないんだろうか。

 まぁ、そもそも最下層に行けば解決するとも誰からも言われていないが、なんとなくそんな気がする……というだけである。


「なんにせよ、明日が勝負だな」


 今日はまんまとカイの仕掛けにハマってしまい20階層しか進めなかった。

 あんまり長引かせたくないので、明日は残り20階層をとっとと進みたいものだ。

 ちなみに21階層からの出現モンスターはゴーレムや浮遊する剣、スライムなどの無生物系だ。

 31階層からは俺の最初の宿敵であるデュラハンなどを始めとしたアンデッド系となる。

 21階層~29階層はそうでもないのだが、31階層からはアンデッド系ということもあり毒や即死系など、いやらしい手を使ってくるモンスターが多い。

 そこにカイのテコ入れも加わるとどうなるか、今から考えるだけでも恐ろしい。

 俺は嫌な想像をしてしまい、ぶるりと体を震わせながらもその日は眠りにつくのだった。



 ――翌日。

 寝ている間にぶっ殺されて入口に戻されている、なんてこともなく俺は無事に目を覚ますことができた。

 俺に対するテコ入れが苛烈な割には、こういうところは優しいんだよな。

 ……なんてことを考えてると「ほなもっと難しくしたろ!」みたいなノリで難しくされても困るので下手なことは考えないようにする。

 俺は例のもさもさ携帯食を無理やり胃の中に流し込み、SNSを確認する。

 やはり、俺の新宿駅ダンジョンが話題になっているようだった。


"新宿駅ダンジョンはSランクって聞いてたけど、こんな難しいの?"

"いや、ダンジョンに住んでる奴がなんかダンジョン怒らせたらしくて激ムズになったとか"

"ダンジョン怒らせるとかよっぽどじゃん草"

"ダンジョンって、基本人間大好きだからよほど変なことしないと怒らないんだよなぁ"


 などなど、ダンジョン寄りの意見が多い。

 たまーに俺への養護もあるが、すぐにダンジョン派の奴らに封殺されてしまう。

 くそう、俺に味方は居ないのか味方は!

 ……なんか、追い出された理由によってはつるし上げ喰らいそうだな。

 予想以上に人間側もダンジョンに寄り添った関係性な事を知り、俺は今後の展開を想像して冷や汗が出る。

 まぁ、ダンジョンは人を呼びたいから便利にする。

 人間側はダンジョン便利だし、金儲けもできて、承認欲求も満たせる……となれば嫌う理由もないしな。

 経済もダンジョン中心で回っているようだし、ダンジョンが無くなったら戦犯はとんでもないことになるだろうな。

 

「……誰も攻略してない新宿駅ダンジョンで本当に良かった」


 もし、気軽に訪れられるダンジョンだったら、もっと燃えてたに違いない。

 俺は、誰も攻略しなかった――いや、させなかったカイに感謝しながらも配信を開始する。


「皆さん、おはようございます。本日も頑張って新宿駅ダンジョンを攻略していきたいと思います」


"おつー"

"SNSでこの配信話題になってたよー"

"土魔法も注目されてたね"


「自分も今朝確認しましたー。ちょっと素直に喜べないタイミングではありますが、目立つという目的は達成できているので、よしとしましょう」


"注目されているなヨシ!"

"それはダメな方のヨシでは"

"何をもってヨシとしたんですか……?"


「というわけで、本日は21階層からとなります。21階層はゴーレムや武器系のモンスター、スライムなどの無生物が跋扈する階層となります。特性的に物理が効きにくいモンスターばかりとなりますが……まぁ、核を潰せば一発です」


"また、そういう難易度高いことを簡単そうに言う"

"お前たちSランクはいつもそうだ!"

"核って基本見えないんですけど、どうやって探すんです?"


 どうやって、か。

 確かに核は目立つ奴も居れば見えないのも居る。まぁ、自分の弱点なんだから隠すのは当然と言えば当然の話だ。


「これは土魔法ではなく単純に技術の話になるんですが、自分たちだけでなくモンスターにも魔力が流れているのはご存知ですよね?」


 俺の問いに対し、リスナー達はコメントで肯定する。


「まず、自身に流れている魔力を目の周りに集中させ、視力を強化します。すると、魔力の流れが見えるようになります。モンスターの魔力は基本的に核に向かって流れているので、魔力の流れの中心を狙って攻撃すれば核を破壊できます」


 これは無生物に限らず、通常のモンスターにも適応できる。

 が、生物型のモンスターは核を潰さなくても大ダメージを与えれば倒せるので、わざわざ核を探して攻撃しなくても問題ない。

 普通の生物としての急所を攻撃しても十分対処できるのだ。

 ちなみに、10階層のボスは無生物に入るが、最硬だけあってそもそもの攻撃がまず通らないので力技でボコるに限る。


……とまぁ、そんな感じで説明したのだが。


"魔眼じゃねーか!"

"魔眼というよりも鑑定眼の方が近い?"

"どっちにしろスキル定期"

"スキル無しで核を見つける方法を聞いたはずが、いつの間にかスキルで見つける方法を聞いていた件"


「いや、スキルじゃないですよこれ! 初回配信でも言ったと思うのですが、その時居なかった人にも説明すると、俺はスキルの類は一切発現してないんですよ。たぶん、ダンジョンができてからすぐに引きこもってたせいだと思うんですが」


"ってことは自前ってこと?"

"草"

"草生える"

"どこまで規格外なんだこの運カスさん"

"スキルを自力で再現するとか初めて聞いた"

"そもそも、自分の魔力って特定箇所に集中できんの?"

"強化魔法がそれに近いけど、それで魔力見れるってのは初耳。スキル限定だと思われてたし"


 ……どうやら、俺はまたやらかしてしまってたらしい。

 いやーねぇ、引きこもりって。

 どんどん世間との常識とかけ離れていって、こういうことをやらかすんだから。


「と、とにかくこれはスキル無しで出来ますので、皆さんも頑張ってやってみてください」


"できるかハゲ!"

"童貞!"

"ダンジョンに追い出されたSランク!"

"やーいSランク~"


 俺の取り繕った発言に対し、ガチの暴言から暴言と言っていいか微妙なものまで飛び出す。

 俺はむせび泣きながらも攻略を開始するのだった。

 


「――と、いう感じで思ったよりもあっさりと30階層まで来たわけですが」


 その後、コメント欄にいじめられつつ俺は心で泣きながら攻略し、30階層にたどりついていた。

 モンスターも特に変化はなく、最初に俺が伝えた攻略法で難なく進めた。


"物質系、あんなあっさり倒せるんだな"

"この人の戦い方見て簡単そうって思うのは罠だよ"

"Sランクだしなぁ"


 前から思ってたけど、ちょいちょい入るSランクディスなんなんだろうね。

 まるで、Sランクがヤバい奴らみたいじゃないか。


"ここまでは順調だけど、問題は階層主"

"10階層と20階層でまんまとダンジョンちゃんにハメられてるしな"

"30階層はどんなボスなの?"


「10階層は最硬、20階層は最速と来ましたが……30階層は端的に言えば最強です」


 安直と言われるかもしれないが、事実なのだから仕方ない。

 40階層は最下層……つまり、俺しかいないので実質ボスは30階層まで。

 31階層からはラスボス倒した後のおまけダンジョンみたいなものである。


「階層主の名前は反転死アンチエンジェル。物理反射と魔法反射を使い分けてくるくっそ面倒な敵です。見た目は天使ですが戦い方は悪魔です」


 戦闘中、一定時間ごとに特性を使い分けてくるため、相手の様子に注意して戦う必要がある。

 もっとも、どっちの状態なのかは羽の色を見ればわかるので対処自体はできる。

 しかし、最強というだけあり戦闘力自体もこのダンジョン内トップなので普通に戦っても面倒なのである。

 10階層も20階層も強化をされていたので、アンチエンジェルもどれだけ強化されてることやら。

 ちなみにフィールドは屋外型。背景として壊れた廃教会があり、まさに天使の戦場といった感じだ。


「ということで、いざ出陣します」


 俺は意を決し、30階層へと突入する。

 フィールドに関してはさっき説明した通りだ。

 だが……。


「アンチエンジェルが、居ない?」


 入ったら、すぐに荘厳なBGMと共にアンチエンジェルが空から舞い降りてきて、どこのラストバトルだよとツッコミたくなるのだが、そのアンチエンジェルが出てくる気配がない。


"おらんね"

"また何かの罠か?"

"ダンジョンちゃんならあり得る"


 と、コメント欄もざわついている。

 何も居ないなら居ないで助かるが、そうは問屋が卸さないのが新宿駅ダンジョンだ。

 油断したすきにグサリ、何てのも充分にあり得る。

 俺は警戒を怠らずに31階層へとそろりそろりと向かう。


「っ!」

 

 瞬間、膨れ上がる殺意を感じ見上げれば、大剣を振りかぶった黒い影がこちらへと向かってきていた。

 一瞬、迎撃しようとこちらも大剣を構えるが……相手の剣が微振動していることに違和感を覚え、すぐに後ろへと飛びのく。

 相手の剣が地面に触れた瞬間、まるで爆発したかのように地面がえぐれ土煙が舞う。

 やはり俺の勘は当たっていた。

 なにせ、あの振動する剣には見覚えがあったからな。

 俺が油断なく構えていると、もうもうと舞う土煙の中から一人の影が現れる。


「な……」


 そして、俺はその姿を見て思わず声を漏らす。

 何故なら、俺と同じ鎧を身に着け、俺と同じ剣を装備した……俺とそっくりな奴が立っていたからだ。


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【TIPS】

反転死は誤字ではないです


【あとがき】

皆様のおかげで10万PV突破しました!

本当にありがとうございます。

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