新宿駅ダンジョン攻略②

「はい、なんとか10階層までクリアしました。これから20階層を目指そうと思います」


"こんなのがまだまだ続くのか"

"こんなのもうSランクダンジョンじゃないよ。それ以上の何かだよ"

"それもこれもローレルとかいう奴が悪い"

"なんて奴だローレル"

"きっと運が最低値のくそ野郎に違いない"


「まったく、とんでもない奴ですよねそいつ」


"お前じゃい!"

"謝って! 早くダンジョンちゃんに謝って!"


 リスナーのノリに乗っかってボケると、総ツッコミを喰らって怒られてしまった。

 正直、思った以上にしんどすぎてふざけでもしないとやってられない。

 モンスターの出現率だけじゃなく、階層主も魔改造するのはやりすぎだろうと言いたい。

 10階層まででこれなら、11階層からどうなってるんだと憂鬱な気分になる。


ドス


「あ」


 そんなことを考えて油断していたのがいけなかったのだろうか。

 11階層進む直前、鈍い音と共に地面から槍が伸びており、俺の心臓を貫いていた。



「ぬおおおおああああああぁぁぁ!」


 その後、一度死んでしまった俺はダンジョンの入口まで飛ばされた後、猛ダッシュで10階層まで戻ってきた。

 さすがに10階層まではあの鬼畜モードではなくなっていたのですぐ戻ってこれたが……ふざっけんな!

 何だあのトラップ! 階層の入口ではなくボスを倒してもう何もないと油断している出口付近に設置しているのがかなりいやらしい。


"草"

"油断するからやぞ"

"罠の張り方が用意周到過ぎてダンジョンちゃんマジ怖い"

"むしろ、10年一緒に暮らしてたからこそ運カスさんの行動真理を熟知していると言える"

"鬼畜モードではなくなってたとはいえ、短時間で10階層駆け抜ける運カスさんも中々"

"Sランクの面目躍如やな"


 と、コメントも他人事だ。


「はぁ……はぁ……。えー、トラブルがありましたが今から攻略を再開します」

 

 俺は先ほど引っかかったトラップに注意しながら11階層に進む。

 本当は、さっき死んだときに最下層にリスポーンするかとちょっと期待していたのだが、流石にそこまで甘くはないらしい。

 コツコツ進めってことなんだろうな。


「11階層からは、出現するモンスターが変わります」


 10階層まではオークやらゴブリンやらのいわゆる人型。

 11階層からは蛇や4足歩行の動物、鳥などのバラエティに富んだラインナップとなる。

 故にここでもスタンピードをやられると地面トラップ系を回避されてしまいやすくなるので、少しきつくなる。


 ちなみに飛んでいる敵への対処法は、線や点で攻撃するのではなく面で攻撃することだ。

 これはスピードタイプの敵にも通じる割と有効な方法である。

 という風に説明すると、コメント欄が「?」であふれていた。


「他の属性って飛んでる敵にはどう対処してるんですか?」


"雷はそもそもの魔法スピードが速いから命中力さえあるなら大抵当たる"

"炎とか風は広範囲の魔法使って無理やり巻き込んだり、かなぁ"


「まさにそれです。要は当たり判定でかくして倒そうってわけです。もっとも、新宿駅ダンジョンなので一筋縄でいくものではないですが、有効なことには変わらないです」


 そんなことを説明しながら進んでいると、おあつらえ向きに一匹の鳥型モンスターがこちらへと向かってくる。

 全身に炎を纏ったフレイムコンドルだ。

 飛んでいることを生かし、空中で炎をばらまく中々に面倒なモンスターである。


「クケェェェェェ!」


 フレイムコンドルは俺の姿に気が付くと、けたたましい叫び声をあげながらこちらへと向かって飛んでくる。

 中々に素早いが避けるだけならば容易い。

 俺は飛び掛かってくるフレイムコンドルを紙一重で避けると、あらかじめ唱えておいた魔法を発動する。


悪魔の圧砕撃デモンズ・プレス!」


 フレイムコンドルは避けられたことで不快そうに叫びながら方向転換しようとするが、それはかなわない。

 何故なら通路の両壁がズズッと動いたかと思うと、そのまま奴を押しつぶしたからだ。

 これであれば飛んでいようが素早かろうが関係ない。

 ただただ無慈悲に面による攻撃で押しつぶすだけである。


「とまぁ、こんな感じで対処は可能です。今回は、避けた後の相手の行動を予測して半ばトラップのような形で倒しましたが、向かってくる敵に対処できるなら避ける必要もなく倒すことは可能です」


"今までに比べたら真似しやすいけど……"

"それはそれでなんか物足りない"

"土のダメなところが出ちゃってる"

"俺たちが求めてるのはそういうのじゃない"

"Sランクなんだから、もっと頭おかしい攻略法出してほら"


 今までの攻略法では不評なことが多かったので、結構簡単な攻略法を出したらこの反応である。

 うちのリスナーども、辛辣過ぎない?

 俺今、住んでるところ追い出された可哀そうな覚醒者なんだから、もうちょっとこう優しくしてくれてもええんやない?

 ……と、いう感じの事を匂わす様なことを言ってみたら、


"自業自得定期"

"甘えんなSランク"

"俺たちはダンジョンちゃんの味方だ"


 というとても酷い反応が返ってきた。

 俺は多分泣いていい。

 

"私はダーリンの味方ですわ"

"私もですよ!"


 ひっそり心で泣いていると、ルナとリリが温かいコメントを寄こしてくれた。

 俺の味方は君達だけだ。

 ……なお、そのコメントを見た非モテリスナー達によってコメントが燃えたのは言うまでもない。

 その後、荒れるコメントを何とか鎮火させつつも、俺は順調にダンジョンを進んでいく。

 ぶっちゃけ、序盤の鬼畜モードを警戒していたのだが、いつものダンジョンと変わらなかったのが逆に怖い。

 まぁ、その分罠とかは多くなっていたが、油断していない俺にとって罠を避けることは造作もない。

 そしてやってきた20階層。

 ……正直、こちらも特筆するべきところはなかった。

 

 階層主はイダテンパイソン。

 10階層の階層主はスピード面がパワーアップしていたので、イダテンパイソンの方も何かしらの強化をされているものと思っていたのだが、特に性能に変化なし。

 いつも通りの攻略で倒すことができたのだった。


"……なんか拍子抜けだな"

"10階層までの鬼畜モードがなりを潜めてて逆に怖い"

"ダンジョンちゃんのキャパを超えたのか嵐の前の静けさなのか"


 と前回と変わらなかったことにリスナー達も不穏さを感じているのかざわついている。

 難易度を上げても簡単に対処されると察していつも通りの難易度にした、というだけなら俺としても攻略が楽になる。

 だが、さんざん理不尽さを見せつけてきたあの新宿駅ダンジョンがこれで終わるはずもない。

 ほぼ確実に、この後思わず「クソがっ!」と叫びたくなるようなことが待っているだろう。

 

「ここまでは通常の難易度に戻っていましたが、10階層の悲劇もありますし油断せずに行きましょう」


"あのトラップはひどかった"

"悲しい事件だったね"

"ていうか、こっちからすれば20階層までも充分えぐかったんだけど、これを通常の難易度って言ってしまえるのがやばい"

"知らなかったのか? Sランクはおかしいんやぞ"


 そんな感じで盛り上がるコメントを横目に俺はトラップを警戒しながら21階層に差し掛かり――右腕が吹き飛んだ。

 突然のことに驚きながらも後ろを振り向けば、なんと一度倒したはずのイダテンパイソンが復活していた。

 いや、厳密にはゾンビ化か。

 復活前は美しい真っ白な蛇だったのだが、今は全身が黒ずんでおり腐臭が漂っている。

 スピードこそ落ちているが、攻撃力は健在のようである。

 倒したと思ったらゾンビになってバックアタックとかどこの四天王だよ!

 通常の難易度に戻っていると思った矢先にこれだよ!


「クソがよぉ!」


 俺は恨みのこもった叫びをあげながら、吹き飛んだ腕を土魔法の義手で補う。

 その後、鼻がひん曲がりそうな異臭に耐えながらもなんとかイダテンパイソン(腐)を倒すことに成功した。

 なお、その後体中に回った毒により2度目の死亡。

 20階層までの再走を余儀なくされるのだった。


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