新宿駅ダンジョン攻略
「はい、皆さんこんにちは。家を追い出されたローレルです」
"草"
"浮気して家追い出されたから謝りに行くってマジ?"
"謝罪配信ktkr"
新宿駅ダンジョン前、配信を開始するとさっそくそんなコメントが流れてくる。
俺が眠っている間に、浮気したから追い出された夫ポジを確立していたようだった。解せぬ。
「私は本当についていかなくていいんですの?」
今後の予定について語り、ひと段落つくと零戦ことルナが話しかけてくる。
「うん、やっぱり1人で行くべきかと思ってね」
最初は一緒に行動すると言っており俺もその気ではあったが、仮定とはいえルナと仲良くしてしまったことで今回の事態が起こったのだとしたら、1人で行った方がいいだろう。
"零戦様も一緒に行くとか追い打ちにも程がある"
"運カス、おめぇまだ零戦様との事許してねぇからなぁ?"
"ダンジョンちゃんの次は俺たちだ"
"ぼこぼこにしてやんよ((ꎤ'ω')و三 ꎤ'ω')-o≡シュッシュ "
「はは、お手柔らかにお願いします。……それじゃ、新宿駅ダンジョン攻略を開始します」
荒ぶるコメント欄に苦笑しつつも、俺はダンジョンの中へと入っていく。
……こうして、外から入るのは久しぶりだな。
中に入った瞬間、最下層まで飛ばされたのも今はもう懐かしい。
そんなことを考えながら、俺はダンジョンに一歩踏み出す……が、何も起こらない。
まぁ、そんな都合よく最下層に飛ばされるわけもないわな。
地道に進めってわけだ。
「ブモォォォ!」
そうして進もうとすると、突如巨大な豚のモンスターが現れる。
贅肉に包まれていると見せかけ、その実鋼のような筋肉を身にまとい、右手に持つ棍棒から放たれる攻撃は直撃すれば木っ端みじん間違いなし。
オークの王を関するに相応しいそのモンスターの名は――キングオーク。
"おいおい、いきなりキングオークかい"
"ダンジョンちゃん、殺しに来てるな"
コメント欄がざわつく通り、キングオークの強さの認定はS。
……だが、こんなものは俺の敵ではない。
1階層目からいきなり出てくるのにはさすがに驚いたが、正直キングオークはSというのは疑わしいほどに弱い。
「悪いが、ここで止まっているわけにはいかない。さっさとぶっ倒させてもらうぞ!」
俺の言葉が通じたのか、額に青筋を浮かべ、涎を垂らしながら叫んでこちらに襲い掛かってくるキングオーク。
俺は、剣の腹部分で相手の棍棒をいなすと、そのまま力任せに横一閃でキングオークの体をぶった斬る。
"さすがSランク"
"さすS"
"あのキングオークが一撃とかほんとやべぇ"
「それほどでもないですよ。キングオークは、動きが直線的なので対応がら……く……」
"どしたん?"
"あ……"
"ひえっ……"
動きが止まる俺に対し不思議そうにするリスナー達だったが、すぐに状況を理解したのか目の前の光景に戦慄する。
目の前にある通路から群れを成してやってくるのは、さきほど倒したキングオーク、それに初配信で遭遇したジャイアントゴブリン、さらに犬の頭に人間の体、その牙からは猛毒が飛び出、その爪は鉄をも容易に引き裂くマーダーコボルト。
10階層の中でも、高ランクに位置するモンスターばかり。
いくら一匹一匹は余裕で対応できるとはいえ、これは流石に骨が折れる。
"スタンピードかよ!"
"これさすがの運カスさんでも無理では……?"
"これ、全部ダンジョンから出てきたら災害待ったなしでは"
"ダンジョンちゃん、少しは手加減してあげて……"
目の前の光景に、さすがのリスナー達も戦々恐々としている。
確かに、これらが全部ダンジョンの外に出てしまったら大変だろう。
だが、カイはそういうことをしないと何となく分かる。
これは、あくまで俺に対する嫌がらせだ。
しかし、それはあくまで俺がカイと長年一緒に住んでいたからわかるのであって、リスナー達にわかるものではない。
なので、俺がやることは一つ。
目の前のモンスターどもをぶちのめすことだ。
「すぅー……はぁー……」
息を整え、魔力も整える。
そして、地面に両手を置くと俺は魔法を発動する。
「
それはルナにも効果のあった地面を泥沼化させる魔法。
これの範囲は広いため、まさに多対一でこそ輝く魔法なのだ。
そして、狙い通りモンスター達の動きは鈍くなる。
もし、ここに飛行型モンスターが居たら厄介だったが、幸いにも飛行型は見当たらない。
元々10階層までは出てこないのだが、出現率はいじれてもそもそも出現しないモンスターは出せないらしい。
「そして、お次はこれだ」
俺は大剣を構えると、魔力を注ぎ込む。
すると、振動し始めたかと思うとブブブと高振動特有の音が鳴り始める。
通称、超振動剣。ファンタジーやゲームでもよく出てくる振動により切れ味を高めた武器である。
こんだけのモンスターだ。
いちいち時間も掛けていられないので、さっさと勝負を決めさせてもらう。
「おらぁ、覚悟しやがれ!」
超振動剣を構え、俺はそう叫びながらモンスターの群れへと突撃する。
足を取られ動きが鈍くなっているとはいえ、そこは高ランクモンスター。
俺が近づいてくると攻撃しようと、人間では不可能な動きをしながら腕を伸ばしてくる。
しかし、超振動剣の敵ではなく、俺がガードするように剣を前に押し出せば刃の部分に触れた瞬間にモンスターの腕が吹っ飛んでいく。
久しぶりに使用したが、相変わらずとんでもない威力だ。
だが、威力が高い分、常に魔力を消費するのでさっさと片を付けることにしよう。
俺は、そのまま勢いに任せ目の前のモンスター達をバッタバッタとなぎ倒していくのだった。
◇
「……ぶはぁっ! ぶへ……げぇほ!」
それからどれくらいの時間が過ぎただろうか。
第一陣を過ぎた後も、モンスター達は絶え間なくやってきて、その度に俺は超振動剣で切り伏せていった。
そして、モンスターが居なくなるころにはすでに10階層……つまりボスのところまでやってきていたのだ。
"なぁ、Sランクモンスターどれくらい斬った?"
"100から先は数えてねぇ"
"これがSランクか"
何やらコメント欄が騒がしいが、今はそれどころではない。
ここまでノンストップでやってきたので汗だくだし心臓暴れまくってるし、体力もヤバい。
「はぁはぁ……ふぅー……」
それから数分ほど休憩し、なんとか息を整える。
いくばくか体力も戻ってきた気がする。
「……すみません、お待たせいたしました。攻略を再開しましょう」
俺はリスナー達にそう告げると、階層主が居る10階層へと入る。
カイのことを考えると10階層の構造も変わってそうだと思ったが、そういうことはなさそうだった。
そして、目の前には階層主であるマスター・オブ・リビングデッドアーマー。
まぁ、普通に名前長いからリビングデッドアーマーでいいよな。
"あれ、赤い?"
"前黒くなかった?"
目の前のボスを見て、リスナー達が困惑する。
そう、リビングデッドアーマーは普段は黒いはず。初配信の時も黒かったはずなのだが、今目の前に居るのは真っ赤な鎧だ。
ただ、色以外の違いはなさそうだが……。
「なっ⁉」
と、油断していたのもつかの間、リビングデッドアーマーはその見た目に似合わぬ速度でこちらに近づいてくると、その巨大な剣をこちらに向かって振り下ろしてくる。
"はっや!"
"あきらかにパワーアップしてんじゃん!"
コメントの言う通り、あからさまにパワーアップをしている。
なんだ、赤いから3倍速いってか? マジふざけんなよ!
しかし、困ったな。
今までのスピードならばギアスタンピードでボコボコにできるのだが、こんだけ速ければ倒せるほどの威力を出すのが難しい。
何気にあの魔法は時間がかかるのだ。
「くぅ⁉」
と、悩んでいる間もリビングデッドアーマーは間髪入れずに攻撃をしてくる。
その巨体とパワーにより捌くのが精いっぱいだ。
「アイアントーテムポール!」
このままではらちが明かないと感じた俺は両腕に力を込めると、リビングデッドアーマーの攻撃を受け止めつつ魔法を発動すると、空中から鉄製のトーテムポールが現れ奴を思いっきりどつく。
向こうも予想外だったのか大きく攻撃を弾かれると、自分の持つ剣の重さに引っ張られバランスを崩している。
当然、俺はその隙を逃すはずもなく次の魔法を間髪入れずに発動する。
「
魔法を発動すると、地面から数本の砂の鎖が現れリビングデッドアーマーを縛り上げていく。
砂の拘束から抜け出そうと奴は暴れるが、元が砂だけに物理には強く、さらには鎧の隙間などにも入り込んでいくため、ますます縛りは強くなっていく。
だが、パワーアップしている奴をどれだけ拘束できるかもわからないので、次の魔法を詠唱する。
「怒れ巨人よ。唸れ一撃よ。邁進せよ、進撃せよ、遥かなる天からの一撃で粉砕せよ」
詠唱をしていくと、地面から人型が現れ周りの土や砂、岩などを吸収しながらどんどん巨大化していく。
そして、リビングデッドアーマーよりも大きくなる。
ギアスタンピードよりも早く詠唱が終わり、そして威力は引けを取らない魔法が完成する。
それと同時に奴も砂の拘束を外しこちらへと襲い掛かってくるが、それは巨人によって防がれる。
この魔法のいいところはある程度はオートで術者を守ってくれるところである。
「
そして、天から無慈悲の攻撃が降り注ぎリビングデッドアーマーを縦に一刀両断するのだった。
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