スピードに対抗するたった一つのシンプルな答え

 翌日、俺はさっそくスマホを確認する。

 見たことない機能なんかもあるが、まぁだいたいは直感で分かるので少しもたつきながらも色々確認していく。

 ていうか、最下層なのに普通に電波通じることに驚きを隠せない。

 バリ3だよバリ3。

 これもダンジョンが人間にすりよった恩恵なのだろうか?


 なんてことを考えながら、俺はまずZを確認するとフォロワーが20万人を超えていた。


「ファ?」


 次にダンジョン配信サイトのアカウントを確認するとチャンネル登録数が10万人を超えていた。


「デミギャリソン?」


 おっと、いかん。

 あまりの出来事に言語能力がバグってしまったようだ。

 まてまて、昨日開設&配信したばかりなのになんだこれは。

 さすがにトップ層に比べたらまだまだだとは思うが、俺からすればこれでも充分異次元の数字だ。

 リリに電話して結果を伝えたら「それは流石に引きます……」と、なぜか引かれた。

 俺が何をしたって言うんだ。


『とにかく、初速としては大成功の部類に入ります。というか、私は今の人数に行くまでにかなり苦労したので宝仙さんがくそ妬ましいです』

「いや、それはまぁ……ごめん?」

『半分冗談ですよ』


 半分は本気なんだ。


『宝仙さんは現在、無職なのでダンジョン配信が毎日できるのが強みです。なので、この勢いを落とさないためにも、しばらくは配信を欠かさないように! あと、人数が増えてくると大抵の配信者が陥るのが炎上。迂闊な発言は、今の時代すぐ拡散されて、「え、ここまでする……?」ってレベルで燃え上がるので気を付けてくださいね』

「あ、あぁ……気を付ける」

『それじゃ、配信楽しみにしてますね』


 その後、一言二言会話した後、電話を切る。


「配信、かぁ」


 やるとしたら今日は20階層のボスかな。

 10階層が最硬なら20階層は最速。

 まず、常人では見切ることができず、俺ですらも普通に見失うレベルだ。

 最初のころは一向に攻略方法が分からずズタボロに負けたので、そういう素早い相手の対処方法とかの放送はいいかもしれない。

 ていうか、Sランクでさえも苦戦するボスを中ボスに配置するなよって言いたい。

 ちょっと運営ー、難易度バグってんよー。


……とちょっとした抗議をしつつ俺は今日の放送内容を決めると、Zに放送予定時間を投稿。

 すると、あっという間に拡散と『よろしいネ!』が増えていく。

 ひえぇ、俺の1回の投稿だけでこんなにすぐ広まるとかSNSこえー。

 これ、マジで迂闊なことは出来んな。

 なんか、後々厄介なことを引き寄せそうな気もする。

 とはいえ、土魔法の地位向上は続けなきゃいけないので悩みどころだ。


 そんなわけで、俺は配信用ドローンを携え準備のために19階層へと向かう。

 20階層から始めないのは、まぁ演出というわけではないがすぐ突撃ではなく配信中に前置きとかも必要だと思ったから。

 ちなみに、ドローンやスマホは配信の収益から払うことをリリに約束している。

 リリは気にしなくていいとは言っていたが、流石にね?

 大の大人としてね?

 俺はヒモじゃないからちゃんと働いて借りたものは返すよ。

 ヒモじゃないからね。

 だから、称号からも消していいんだよ!

 ……ふう、落ち着け俺。

 配信時間も迫っているから準備をせねば。

 俺は説明書を見ながら配信用ドローンを起動する。

 

「えーっと、これがこうで……こう、か?」


"ひえっ"

"いきなりドアップの黒兜は心臓に悪いです"

"※ホラー注意"


 あ、やべ、間違って配信ボタンを押してしまったようだ。

 どうやらすでに何名か待機していたらしく、俺のドアップに度肝を抜かれてしまったようだ。

 申し訳ねぇ申し訳ねぇ。

 ちなみに、俺は今回も例の全身鎧を身に着けている。

 なんというか、最初にそれで配信したのもあるがこれだけの人の前で素顔を晒すのは、流石にハードルが高い。


「あ、えーといきなりお見苦しい映像をお見せしてしまい申し訳ありません。不慣れ故に間違って配信開始してしまったようです」


"ええんやで びっくりしたけど"

"機械音痴なSランクかわヨ"

"今日はどんな土魔法を見せてくれるか楽しみにしてます!"

"Zで見かけてきました 土魔法の地位向上応援してます!"


 などなど、俺のミスに対しても寛大でコメントがあたたかい。

 これは、ますます頑張らないとな。


「あたたかいコメントありがとうございます。えーと、本日の配信はですね。昨日は10階層の階層主を倒しましたので本日は20階層の階層主を倒したいと思います」


"ファ⁉"

"普通は階層攻略を配信するのに階層主攻略だけ見せるとかRTAかよ"

"新宿駅ダンジョンとは思えない気軽さ"

"さすが住んでるだけある"

"この配信だからこそ見れる映像だな"

"他のSランクとか梅田だったり他のダンジョンばっかりだしね"


「そういえば、他の覚醒者ってこのダンジョンで見たことないですね。他のダンジョンから飛ばされてきたアマリリスさんくらいですね、見たことあるの」


 コメントを見てて、そういえば見たことないなと思い俺はそんな疑問を口にする。

 

"昔は、探索隊とかは10階層まで入れてたらしいんだけど急に難易度上がったらしい"

"今は、1階層から無駄に敵が強くなってダンジョン自体がSランクってのもあるから挑む人自体が少ない感じだね"

"しかも、階層進んでたと思ったらいつの間にか入口に戻されてたりと理不尽の極み"

"んで、他のSランクもめんどくせーわってなって挑まなくなったんだよね"

"アマリリスちゃんが飛ばされてから、ようやく新宿駅ダンジョンの全貌がわかったみたいな?"


 と、俺の疑問に対し応えてくれるリスナー達。

 いつの間にか戻されるとかそんな理不尽なトラップ見たことないんだが、また新宿駅ダンジョンが何かやったのだろうか?

 と考えたところでこのダンジョンが答えてくれるわけもないので、悩んでも無駄だと察した俺は早々にこの話題を打ち切ることにする。


「とにかく、謎に包まれてるってのは分かりました。この配信で少しでもダンジョンの事が分かればなと思います。……で、20階層のボスですが奴はこのダンジョン最速です。正直、俺でも見切れないことがあります」


"Sランクでも見切れないとかチートやんけ"

"ダンジョンちゃんさぁ……テストプレイしてる?"


 俺の説明に対し、なんとも予想通りのコメントが返ってくる。


「というわけで、今回は素早い相手への対処法をお見せしたいと思います。このダンジョンはともかく、目で追いきれないスピードのモンスターも居ると思いますので参考になればと。まぁ、流石に前回よりは地味になるかと思いますが」


"いやでも土魔法の有用性が広まってくれるなら"

"自分も土属性ですが、参考に……参考に? なります?"

"↑最後まで自信持て"

"武器生成は実際、かなり有用だったから次は何が飛び出るか楽しみではある"


 と、そんな感じでリスナーと会話をしながら俺は20階層へと向かう。


「20階層のボスは蛇型のモンスターで名前をイダテンパイソン。腹立つくらい速く、しかも猛毒の牙を有しているので初見だと気づけば毒まみれで死んでます。俺も何度も毒で死にました」


 そんな感じで説明しながら、俺は自身の鎧の上にさらに土魔法で鎧をコーティングしていく。


「なので、まず対策としては奴の牙が届かないくらいに頑丈で分厚い鎧を土魔法で纏います」


 そうやってコーティングした結果、今の俺は全長3mほどの巨大な動く鎧と化す。

 見た目的には10階層ボスみたいなものだ。


"でけぇ!"

"え、土魔法ってこんなんもできんの?"

"できるけど、動けなくなるから基本使われない微妙魔法……のはず"


「そうですね。これをやると確かに動きが鈍くなりますが、魔力を全身に巡らせればこうやって動かすこともできます。なれれば、回避行動などの単純な行動は自動操縦オートパイロットも可能です」


"またサラッととんでもないこと言ってる"

"この土魔法使いは特殊な訓練を受けています"

"僕も新宿駅ダンジョンに住めば強くなれますか?"

"やめろ、Sランクになりたいのか⁉"

 

「まぁ、色々言われていますが、これの有用な点としては2つ。まず、魔法による徹底的な防御力の向上です。まず大抵の攻撃は通らなくなります。2点目は……実演してみましょう。20階層に入った瞬間にはもう決着がつくので見逃さないようにお願いします。もし、見逃してしまった場合は後程アーカイブも出しますのでじっくりとご覧ください」


 あまりにもあっさりした物言いだが、実際一瞬で決着がつくのだから仕方ない。

 それだけイダテンパイソンの動きが速いのだ。


 俺はそう説明すると、20階層に足を踏み入れる――瞬間、体に衝撃。

 全長20mほどの真っ白な巨大蛇がその鋭い牙を俺の体に突き立てていたのだ。

 通常ならば即お陀仏ではあるが、今の俺の体は魔法の鎧でガッチガチに防御を固めてある。

 なので、俺自身には何のダメージもない。

 そして、俺はそのまま魔法を操作し、鎧から大量の棘を生成しまるでハリネズミのようになるとイダテンパイソンの脳天を貫いた。

 イダテンパイソンは、速さに特化したせいか耐久力は皆無に等しい。

 ぶっちゃけ、攻撃が当たりさえするのならばBとかCでも倒せる気がする。


 階層主たちは毎回新しい個体なのか、こちらとの戦闘の経験値は蓄積されないため、基本的にこの攻略法が一番楽である。


「と、まぁ2点目は防御は最大の攻撃……という感じで、相手が攻撃してきた瞬間に魔法で作った鎧という点を利用してそのまま攻撃に転じることができます。素早くて倒せない、というモンスターがいましたらこの戦い方を試してみてください」


"せんせー! 一瞬過ぎてほぼ何が起きたかわかりませんでしたー!"

"せんせー! これ、本当に一般土魔法使いでもできるんですかー⁉"

"せんせー! 正直、これ出来る気がしませーん!"


「えぇ……?」


 昨日のよりは簡単だろうと思っていたのだが、思っていたのとは真逆の反応が返ってくる。 

 これも難易度高いって……うそ、土魔法の技術遅れすぎ……?


「えーと、とりあえず鎧をまとう魔法はあるんですよね?」


 俺がそう尋ねると肯定するコメントが流れる。


「これを発動すると動けないというコメントもありましたので、まずは低ランクダンジョンに行って練習してみることをオススメします。動けないにしても、パーティを組めるならタンク役として前に出て攻撃を受けた瞬間に反撃に転じられるようにするだけでも有効なはずです。土魔法の地位向上が目的なので、同じ土属性の皆さんで頑張っていきましょう」

 

 思った反応は得られなかったものの、接続数やチャンネル登録数は上々。

 次回は30階層を攻略しますと伝え、その日の配信は終了したのだった。


「いやー、なんか配信するたびに土魔法の衝撃の事実が判明するな」


 いくら不人気と言えど、流石に発展しなさすぎる。

 もしやパーティを組まれにくいから広まってないだけ、とか?

 あり得るなそれ。 

 ソロで研鑽し、俺と同じことをできる覚醒者自体はいるがそもそも世間では不人気なので日の目を見ないとか、別ジャンルでも似たようなことはあるしな。

 不人気というのは、それだけで大きなデバフなのだ。


 そんなことを考えながら今日の配信の感想でも見ようかとZを起動すると、メッセージが届いていた。

 

「なんだ?」


 タップして確認するとアカウント名『零戦』と何とも渋い名前が表示されていた。

 そして、メッセージを見て俺は思わずつぶやいた。


「……コラボのお誘い?」


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【TIPS】

新宿駅ダンジョンちゃん、独占欲強すぎる説

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