初配信
「どーもー、アマリリスです! 本日は先日開設したばかりのチャンネル『土魔法地位向上委員会』のローレルさんとコラボです! 以前、こちら……新宿駅ダンジョンで助けてもらったのをきっかけにコラボすることにしました!」
配信が始まると、リリはアマリリスモードになって話し出す。
何人が見てるか分からないが、人前であれだけ流暢に話せるのは素直に感心する。
「今回は、両チャンネル同時配信! ということで、画面見えてますかー?」
"見えてるよー"
"アマリリスちゃーん!"
"土魔法の人気を向上させると聞いて"
"土とかwww"
などなど、コメントが目の前で流れるのが見える。
すげーな、どういう技術なんだこれ。
10年で発達しすぎだろ。
っていうか、コメントの反応見るにやっぱ土魔法は不人気なんだな。へこむ。
「ほら、ローレルさん! 私にばっかしゃべらせないで自己紹介自己紹介!」
「え、あ、その、ほうせ……じゃなかったローレルです。今回、初配信で緊張してますが、よろしくおねぎゃ……お願いします」
死にたい。
なんかも第一声からボロボロで早くも帰りたくなってきた。
まぁ、ここがすでに自宅なんですけどね!
"草"
"落ち着いて"
"初々しいSランクというのもおつなものだ"
"初めてはそんなもん"
明らかな失敗にもかかわらず、ヌクモリティ溢れるコメントに涙が出そうになる。
"Sランクってマジ?"
俺が内心感動していると、そんなコメントが流れてくる。
まぁ、いきなり無名の奴がSランクになったら疑うやつも出てくるだろう。
「うーん、認定証をSNSにアップしたんですけどねぇ。身バレ防止に名前隠したのがダメでしたか」
と、コメントを見て唸るリリ。
まぁ、名前隠したらそれこそ誰だってSランク騙り放題だしな。
「あ、じゃあステータス出しちゃいましょうか」
「え、でもステータスって本名とか出ちゃわない?」
「大丈夫です。配信用なのかはわかりませんが、ステータス出すときに非表示にしたい項目を思い浮かべると、非表示になるんですよ」
はー、至れり尽くせりかよ。
どんだけ人間側に寄り添ってるんだ、ダンジョン。
リリの言葉に感心していると、
"Sランクなのにそんなことも知らんの?"
"これちょっと疑わしくなってきた。"
"アマリリスちゃん、騙されてない?"
などなど、コメントも不穏になってくる。
いかん、なんとか誤解を解かなければ。
「いや、実は10年くらいダンジョンに引きこもってたせいで、最近の事に疎いんです。なので、知らないことだらけなので基本的にはアマリリスさんやリスナーの皆さんにいろいろご教授願えればと思います」
"ダンジョンに10年?"
"ダンジョン誕生時から引きこもっていた……ってコト⁉"
"それはもうダンジョンの主なんよ"
"純粋培養の引きこもりだ。面構えが違う"
"ダンジョンに引きこもるとか頭おかしい"
"Sランクは皆、どこかしらおかしいってそれいち"
「まぁ、そんなわけで……『ステータスオープン』」
俺は、本名と二つ名を非表示にしながらステータスを表示する。
二つ名を非表示の理由?
ほら……なんか中二病感ばりばりで恥ずかしいし……。
特に、ヒモに関しては絶対見られたくない。
"草"
"ファーwww"
"なんやこのチートステータス"
"ネット小説の主人公かな?"
"運だけカスで草"
"運カスさん"
と、なんとも想像通りの反応だ。
そんな感じでコメントを眺めていると「偽造じゃないのか?」という趣旨のコメントを見かけたので、リリの方を見る。
「あー、偽装系のスキルを持ってたらあり得ると思います」
「スキル?」
「あ、ローレルさんの時代にはまだなかったですかね? 覚醒者は魔法のほかにスキルを習得できるんです。戦闘経験を積んでいくと、自然と頭の中に浮かぶって感じですかね? メジャーどころだと剣術上昇、速度上昇などなど。ちょっとアレなのでいえばさっき言った偽装系などですね。ステータスの表示などを偽装することができるんです」
「そんなことしたら、簡単にSランクになれないか?」
「そこは流石に大丈夫です。ダンジョン課で認定する際は、ちゃんと看破のスキルで見破るので。……過去にも似たようなのが居て、見事にバレてダンジョンもぐる資格を剥奪された人も居ます」
なるほどなぁ、そこらへんはちゃんとしてるわけか。
ていうか、10年ダンジョンにこもっててスキルとか覚えたことないんですけど? もしもしカイさん?
そういうところが運カスだって? やかましいわ。
その後も、コメントを拾いつつなんとかSランクと信じてもらえたので、本題に入ることにする。
「それでは、当チャンネルの名前にもなってる土魔法。これの魅力を伝えていき、地位向上を目指していきたいと思います。なんかね、不人気らしいですからね」
"地味だし…"
"見た目がなぁ"
と、コメントも散々である。
まぁ、だからこそやりがいがあるわけだが。
「それでは、さっそくこの新宿駅ダンジョンを進んでいきましょう。Sランクという難易度ゆえに謎に包まれているということで、ここに住んでいる私が紹介していこうと思います」
"住んでるってここにかい!"
"頭おかしい"
"マジでダンジョンの主やんけ"
といういい感じに驚いてくれているリスナーを横目にしつつ、俺とリリは下層へと進んでいく。
「新宿駅ダンジョンは現在、40層ほど。あやふやなのは日々、拡張されているからです。10年前は20階層ほどでした」
昨日通った道のそばに新しいのができてたりと、なかなかに俺を楽しませてくれたものだ。
「アマリリスさんを助けたのが8階層。10階層ごとにひときわ強いボスがいます」
「階層主ですね。それは、他のダンジョンでも出てきます。基本的に階層主を倒すと、その倒したパーティ、ないし覚醒者は以後、そこまで飛べるようになります」
と、捕捉するようにリリが説明する。
「はー、そうだったんだ」
「そうだったんだって……階層主倒したことないんですか?」
「いや、何度も倒したことあるけどここで暮らしてる以上、わざわざ階層飛ぶ意味とかないかなって。暇つぶしにもなるし」
「えぇ……」
俺がそう話すと、リリとリスナー達がドン引きしていた。
なんだよ、いいじゃねーか!
そもそもスキップできるなんて知らなかったし!
「こほん。えー、少し脱線しましたが続きを話しますね。今回は、初配信なのでいったん10層の階層主討伐までを目指そうと思います」
"新宿駅ダンジョンで気軽に言っていい目標じゃないのよ"
"この胆力は間違いなくS"
"運はカスだけどな"
そんな感じで新宿駅ダンジョンの解説をすると、その度にリリやリスナーが面白いように反応してくれるので、ちょっとだけ楽しくなってきていた。
そんなこんなでついにモンスターと初接敵。
体躯は3mほど。細く節くれだった四肢に、異様に膨れた腹は地獄の餓鬼を彷彿とさせる。
「おわ、ジャイアントゴブリンじゃないですか! 低く見積もってもB+相当ですよこれ!」
と、隣にいたリリが驚きながらも説明してくれる。
「ちなみに、倒そうと思ったら?」
「Sランクは楽勝でしょうけど、デカいわりに素早く、力もあるのでAランクなら数人パーティを組んで、って感じでしょうか?」
俺はいまいちモンスターの強さの定義が分からないので、リリの説明はすごい頼もしい。
俺からすれば雑魚ではあるが、対外的には強敵と認知されているようなので、土魔法の初お披露目にはちょうどいいだろう。
「それじゃ、ちょうどいいのであのジャイアントゴブリン相手に土魔法を使ってみようと思います」
「え、でもジャイアントゴブリンって土魔法に耐性が……」
俺が前に出ようとすると、リリは怪訝な表情を浮かべる。
コメントでも「いくらSでもジャイアントゴブリンに土魔法はな」などと縛りプレイ扱いされている。
正直、そんな耐性があるようには思えなかったので俺は気にせず、魔法を発動する。
「融合せよ圧縮せよ。愚かな敵を押しつぶさん。
俺が魔法を発動すれば、四方の壁や床、天井が鳴動しせり出し始めると、こちらに向かってきたジャイアントゴブリンをプチッと羽虫でも押しつぶすかのように圧縮してしまう。
ダンジョンが元の形に戻ると、そこには何もなかった。
ちなみに、ジャイアントゴブリンを倒すと一定確率で腰みのを落とすとだけ言っておこう。
「とまぁ、こんな感じでいくら耐性があろうが圧倒的物量で攻めれば、なんてことはありません。ダンジョンの内装にもよりますが屋内タイプであれば、周りが武器だらけなのでまず苦戦しません」
と、俺が振り返りながら説明するとリリは硬直しており、コメントも「……」の嵐だった。
「一瞬過ぎて何の参考にもなりません! というか、その魔法初めて見ます!」
リリのその言葉に同調するように「そうだそうだ」とコメントも流れていく。
どうやら、やらかしてしまったらしいが、まぁ土魔法の人気を向上させるという意味では正解ではないのだろうか。
"たしかに威力はえげつなかったけど、やっぱり地味だなぁ"
"攻略、っていう意味では正解だけど配信的にはね"
などなどリスナーからも思った反応は得られなかった。
えー……でかぶつを一瞬で押しつぶす魔法とか割と派手だと思ったんだけどなぁ。
目の肥えたリスナー達にはこれでも地味に映るらしい。
おのれ、人気属性め……!
「あ、あの……私的にはさっきのもすごいと思いますよ?」
……リリのフォローがより一層悲惨さを際立てる。
「ただ、やっぱりバーンとか、ドドーン! とかの方が映えるかもですね?」
バーンとかドドーンか……。
派手めとなると、限られてくるのだが……。
「あ」
としばし考え込んだ俺は、まさにうってつけの魔法があったのを思い出す。
あれなら、見栄えで言えば確かに派手だ。
10層は屋外型で使いやすいしな。
「……分かりました。では、これから10層に行きましょう。そこで本当の土魔法を見せてあげますよ」
俺は兜の中でほくそえみながらそう言い放つのだった。
◇
10層までは基本的に体のデカい分かりやすいパワータイプが多い。
絡め手なんかもないので攻略しやすいといえばしやすいだろう。
そして、そんな階層を締めくくるのがマスター・オブ・リビングデッドアーマー。
俺たちは雑魚どもを蹴散らしながら10層へやってくると、見上げるような巨体の真っ黒な鎧がたたずんでいる。
その名に相応しく最硬の鎧に身を包んだ巨大な全身鎧モンスターである。
まぁ、身を包んだ、と言っても中は空っぽで鎧自体が本体なんだけれども。
そして、右手には肉厚の肉切り包丁のような武骨な剣が握られている。
あんなものに当たったら、その瞬間にお陀仏だ。
「な、なんですかあれ……見るからに強そうなんですけど」
「流石にこれは知らないか。あれはマスター・オブ・リビングデッドアーマー。強さはともかく、このダンジョンでは一番硬い。物理攻撃は、まず効かないと思っていい」
なら、周りを利用する土魔法も物理じゃね、とツッコミが入りそうだが検証の結果、魔力を纏っていればOKらしい。
もっとも、込める魔力の量が足らなければ攻撃は通らないが。
コメント欄もざわついている中、俺は魔法を詠唱する。
せっかく魔法で武器が作れるんだからと、とある作品を参考にしてみた魔法だ。
「錬成せよ、創成せよ。貫け、貫け、貫き通せ。流転は理。螺旋は真理。数多の螺旋よ現れよ」
魔法を詠唱し始めると、俺の上空にはいくつもの螺旋状の武器……つまりはドリルがいくつも現れる。
巨大なドリル、槍型のドリル、剣型とそれは様々だ。
螺旋こそ至高。螺旋こそ最強。男ならドリルだろと言わんばかりに俺はどんどんとドリルを生成する。
「撃鉄を起こせ、回転せよ」
詠唱を続けると、カチリという音共に轟音を響かせ回転し始めるドリル達。
「ギアスタンピード」
そして……相手に向かって手を振り下ろせば、上空の数多のドリルが階層主を貫いていく。
最硬であるはずの鎧はまるで粘土のように容易く貫かれ、ドリルがすべて降り注ぎ終わるころには、リビングデッドアーマーの残骸と思しきものだけが残っていたのだった。
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【あとがき】
おかげさまでこの作品へのフォロー、評価が増えてきました。
これからも面白いと思ってもらえるように頑張ります。
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