土魔法

「いやいやいや、宝仙さん! なんですかそのぶっ壊れステータス! どこぞの小説の主人公じゃないんですから!」


 俺のステータスを見たリリは「草」という謎の言葉を発した後、そうまくしたてる。


「いや、新宿駅ダンジョンに住んでいるということから強いんだろうなということは予想していたけれど、これは予想していなかったね」

「二つ名も普通こんなにつかないですよ。深淵に堕ちし者は、まぁ最下層に落ちたからだろうなって想像はつくんですが、超越者って……。人間やめてるじゃないですか」


 どうやら、俺のステータスはかなり規格外だったようで、天音親子は驚きの表情を隠せないでいる。

 ……いやまぁ、俺も驚いてはいるんだけどね。

 2人は気づいていないようだが「統べる者の加護を受けし者」も中々だと思う。

 統べる者……というのはおそらく、カイ――というかこの新宿駅ダンジョンのことだろう。

 まぁ、確かに加護を受けている自覚はあるが、ルビが『ヒモ』ってどういうことやねん。

 ヒモじゃないわ。


「他のSランクはこうじゃないんですか? というか、Sランクって居るんですか?」

「世界で見ればそれなりに居るね。日本では3人くらいかな。それでも運以外がすべてSなんてのは見たことないよ。たいてい、AやBがあるからね。そこから功績を加味してSランク認定されるって感じかな」

「LUCだけGっていうのがまた面白いですよね。あれですかね。入口でいきなり最下層に落ちたからその評価なんですかね」


 面白くないわ。

 最下層に落ちたことが評価の対象になっているならGなのも納得だが、本人にとってはたまったものじゃない。


「とにかく、このステータスであればSランクは間違いない。認定してしまおう」

「え、もうここで出来ちゃうんですか?」


 とりあえず、リリの戯言は無視し俺は天音さんの方との話を進める。


「いったんは、だけどね。この後、ダンジョン課に結果を持ち帰って、協議して正式に認定だけど……まぁ、これがSじゃないなら誰がSになれるんだって話だし、ほぼ間違いなくSランク認定されるよ。あとは、君が生きているというのが分かったから失踪宣告の取り消しをして……」


 その後、俺は失踪宣告により死亡判定を受けていたため、その取り消しのための書類やら何やらを書き連ねていく。

 こんなダンジョン内で書いていいのかと思ったが、「僕、そこそこ偉いからまぁ何とかなるよ」と若干黒い笑みを浮かべながら 天音さんが言うので俺は素直に信じることにする。

 

「よし、それじゃあ僕はこの書類を持って先に戻るよ。2,3日したら認定証も出るから、そうすればダンジョン配信もOKだ。あ、配信しなければダンジョン内の探索自体は大丈夫だよ」

「わかりました。俺なんかのためにいろいろありがとうございます」


 俺がそう礼を述べると、いいよいいよとパタパタ手を振りながら天音さんは帰っていった。


「それにしても、宝仙さんって土属性だったんですね。見た目から闇とかそんなんだと思ってました。まさか土とは」


 天音さんが去った後、リリがそんな風に話しかけてくる。


「土属性って……やっぱ今でも不人気なのか?」


 当時、地味だなんだと言われ不人気だった土属性。

 10年経った今ならもしかしたら、その人気も向上してるかもしれないと思い聞いてみる。


「え、いや……うーん……その、なんというかですね……?」

「おーけー、その反応で分かった。相変わらず土属性は不人気なんだな」


 目が盛大に泳いでいるリリを見て、俺はため息をつきながらそう言う。

 

「すみません……」

「いや、リリが謝ることじゃないよ」

「えっとですね、もちろん土属性のDiverとかも居るんですよ? ただ、炎や氷、はたまたレア属性の光や闇なんかの見た目が派手orかっこいい! っていう属性に比べたら人気でないというかなんというか。映えないんですよね」

「映えない」

「ええ、映えない」


 オウム返しに聞き返す俺に対し、コクリと頷くリリ。

 

「ダンジョンの外でも使えるなら土属性の汎用性を考えると人気も出るのでしょうが、魔法はダンジョン内でしか使えませんしねぇ」


 確かに、外で使えたなら工事などで大活躍だろう。

 ただ、動画で使うとなると土は確かに地味加減がぬぐえない。

 これが普通のファンタジー世界だったら、地味ってだけで不人気になるかよ! とツッコみたいところではあるが、娯楽として普及しているダンジョン配信と考えると納得できてしまうのが悲しい。


「ほ、ほら! たとえ土属性でも宝仙さんは日本で4人目のSランク! きっと人気出ますよ! しかも、あの未踏ダンジョンである新宿駅ダンジョンを踏破……踏破? してますし」


 俺が地味に落ち込んでいるとリリがそんな感じで慰めてくる。

 だが、今はその優しさも心にクる。


「気を取り直して、チャンネル名とDiver名を考えましょう! 配信、するんですよね?」

「あ、あぁそうだな。チャンネル名とかってどういう風に考えてるんだ?」

「結構自由ですよ。動画や生放送の方向性にしたり、そのままDiver名+チャンネルで〇〇チャンネルとか。私は天音リリをもじってDiver名をアマリリス。チャンネル名は『アマリリスちゃんねる』です」

「うわドシンプル」

「い、いいんですよシンプルで! 変に捻りすぎても検索されにくくなりますし!」


 思わず出てしまった俺の言葉に、リリはぷんすかと怒りながら抗議してくる。


「こう見えて、私のチャンネルの登録者数53万人なんですからね! シンプルイズベストですよ!」


 どこぞの宇宙の帝王かな?

 数字だけ見れば確かに多いとは思うが、チャンネルの登録人数の基準がいまいち分からないのでピンと来ない。

 

「しかし、チャンネル名とDiver名か……」


 いざそれを決めるとなると、パッと出てこないものだな。


「最強Diverのによるダンジョン講座とか」

「いや、流石にそれはどうなんだ……。そもそも最強とは限らないし」


 他のSランクに会った事ないし、俺は新宿駅ダンジョンしか知らないから井の中の蛙なので最強を名乗るのは流石に躊躇する。

 

 と、そんな感じでリリとあーでもないこーでもないと話していたが、俺はチャンネル名とDiver名を無事に決めることができた。


「……よし、決めた。チャンネル名は『土魔法地位向上委員会』」

「ほほお?」

「土属性が不人気だって言うからな、せっかくだから土魔法の人気を少しでも向上させたい。配信では、土魔法を押し出して行こうと思う」

「うん、いいんじゃないですか? 明確な目的もあって分かりやすいですし。ただ、土魔法という名前で人が集まるかは不安ですが……まぁ、そこは私が誘導なりなんなりします!」


 俺のアイディアに対し、リリはドンと自分の胸を叩きながらそう言い放つ。


「Diver名はそうだな……『ローレル』かな」


 ローレル、またはローリエなどと呼ばれる月桂樹。

 月桂樹全般の花言葉は「栄光」「勝利」「栄誉」と、土魔法の地位向上を目指す俺にふさわしい名前だ。

 ……まぁ、月桂樹の花の部分の花言葉は「裏切り」なんてマイナスの言葉もあるけど、気にしないことにする。


「わっかりました。それじゃ、その名前でチャンネル開設とアカウント登録しちゃいましょう! あ、ちなみに宝仙さんはスマホ……携帯機器かパソコンは」

「持ってないな」


 俺がそう答えると、リリは「ですよね」と頷く。

 探索隊の時は一応無線を配られたが、今はもう使えなくなってるし使えたとしても、今回の配信には役に立たないだろう。


「じゃあ、認定証来るまで時間かかるので、それまでに用意しておきますね!」

「いつもすまないねぇ……ごほごほ」

「もう、おとっつぁん。それは言いっこなしですよ。なんてね、助けてもらったんですからこれくらいはさせてください」


 そんな感じで軽い雑談をし、その日は解散となった。

 その数日後、天音さんの言葉通り無事にSランクの認定証が届き、晴れて俺はSランク覚醒者となったのだった。


「おめでとうございます、宝仙さん! 無事、新宿駅ダンジョンをの配信ができますね。新宿駅ダンジョンはSランクなので多くの謎に包まれていますから、きっとバズりますよー」


 認定証を届けに来たリリがテンション高めでそんなことを話す。


「それじゃ、さっそく配信を始めましょう! 私のアカウントで宣伝なんかもしたので、結構人来ると思いますよ。同時配信で、私のチャンネルの方でも配信しますし」


 リリはそう言いながら、配信用ドローンの起動、配信準備などを行っていく。

 そこに関しては俺はさっぱりなので、完全にリリ任せだ。


「準備は良いですか?」

「あぁ」


 俺がコクリと頷くと、いよいよ配信が始まるのだった。



200:無しの覚醒者

アマリリスちゃんのSNS見た?


201:無しの覚醒者

あのキングオークに襲われてた時に助けてもらった覚醒者とコラボだってね

4人目のSランクって言うけど、すげー胡散臭い


202:無しの覚醒者

いやでも、証明書の写真アップされてたし偽造は普通に重罪だから騙りってのはなさそうだけど


203:無しの覚醒者

それにアマリリスちゃんが嘘つくはずないしな


204:無しの覚醒者

ワイトもそう思います。


205:無しの覚醒者

で、コラボ相手のチャンネル名なんだっけ


206:無しの覚醒者

土魔法地位向上委員会


207:無しの覚醒者


208:無しの覚醒者


209:無しの覚醒者

草枯れる


210:無しの覚醒者

チャンネル名から漂うくそ地味感


211:無しの覚醒者

炎とか氷とかならわかるけど土ってなぁ


212:無しの覚醒者

汎用性はあるんだろうけど、まず地味


213:無しの覚醒者

とにかく地味


214:無しの覚醒者

ばちくそ地味


215:無しの覚醒者

お前ら! 土属性をバカにすんなよ

土属性は、土属性はなぁ……うぅ


216:無しの覚醒者

>>215 なんだ土属性か? 涙拭けよ


217:無しの覚醒者

>>215 Sランク覚醒者様が土属性を人気にしてくれるらしいから待ってろ



254:無しの覚醒者

始まったな

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