Diverとの出会い
「んん……頭いてぇ……寝すぎたか?」
ズキズキと痛む頭を押さえながら、俺はベッドからモソリと起き上がる。
スプリングの効いたベッドから起き上がると、トイレを済ませテーブルに座る。
「カイ、飯を頼む」
俺がそう話せば、テーブルの上には目玉焼きとベーコンの乗ったトーストと牛乳が出てくる。
俺はそれをパクつきながら今日の予定を考える。
……と言っても、いつも通り運動がてらダンジョン内を回ってモンスターどもをしばき倒すだけなのだが。
俺がこの新宿駅ダンジョンの最下層に落ちてからどれだけの月日が経っただろうか。
最初の数日は脱出しようと躍起になっていたものだが、カイ――当初はXと呼んでいたが、人の名前っぽい方が愛着がわくと思い呼び方を変えた――が甲斐甲斐しく俺の世話を焼いてくれるため、わざわざ面倒なしがらみのある外よりもダンジョン内の方が快適なんじゃないかと思い始め、こうしてダンジョン内での生活を満喫している。
さすがにテレビやネットが無いのはちょっときついが、汗水垂らして働かなくても毎日3食出るし、家賃の心配もない。
光熱費などの生活費を稼ぐ必要もなく、好きな時に寝起きできるとなればダンジョン生活を選ぶのも仕方のないことだろう。
元々俺は孤児院出身で天涯孤独の身、探索隊に志願したことでいつ死んでもおかしくない身だったし、いまさら外に未練もない。
この新宿駅ダンジョンは日々拡張されているのか、昨日は無かった新しいエリアができてたりするので退屈しないしな。
初日以降、カイはこちらと言葉を交わそうとはしないが、なんだかんだ長く暮らしてて情もわいてきてるし、外に出るビジョンが湧いてこない。
「……ふう、ごっそさん。今日も美味かったぞ、カイ」
俺が食べ終わり腹をさすりながらそう言うと、残った食器はテーブルの中に溶けていく。
……こうして、いちいち食器を洗う必要もないのは楽だよなぁ。
まぁ、出てくる食事がどういう材料なのかとか考えると不安にならないと言えば嘘になるが、そんなことをいちいち気にしていたらダンジョン内で生活はできない。
知らぬが仏、美味ければいいのだ美味ければ。
そんなことを考えながらしばらくボーっとした後、俺は散歩の為に着替えることにする。
俺は装備の保管庫に向かうと、金属製の胸当てや手甲を装備する。
最初のうちは支給された軍用の装備を身に着けていたが、さすがに年月が経ちすぎてボロボロになってきたので、今では俺が魔法で生成した装備を身に着けている。
俺の土魔法は鉱石や金属の加工などもできるので、この時ほど土魔法で良かったと思ったことはない。
もっとも、最初の内は「これはひどい」と言いたくなるような出来だったが、素人でも何度もチャレンジしていれば上達するようで、今ではそれなりの見栄えにはなっている。
材料に関してはカイがある程度融通を利かせてくれるので練習には事欠かなかったしな。
……マジで俺、カイに頼りっぱなしだ。
そういう意味でも、外に出たら1人で生きていける気がしない。
「カイ、俺にはお前が必要なんだ。いつも感謝してるよ。今後もよろしく頼むな」
と、見捨てられないようにご機嫌取りをしておく。
言葉こそ交わしていないが、なんとなく喜んでいるような感じがするので、よしとしておこう。
「さて、今日の武器は何にしようかなっと」
俺は目の前に並んでいる武器を見ながら、今日使うものを選ぶ。
壁には短剣、
まぁ、これらも俺が造ったんだが武器が大量にあるのは、俺なりに日々のマンネリを打破しようとした結果だ。
男としては、やっぱ武器に憧れるものがあるしな。
ちなみに、ファンタジーでよく見かける実用性あるのか? と言いたくなるような大鎌なんかもある。
今のところ再現出来てはいないが、蛇腹剣なんかもそのうち造りたい。
「今日はこれにするか」
武器の前でしばらく悩んだ後、俺は柄や刀身が真っ黒で身の丈2mほどもある大剣を手に取る。
重量もそれなりにあるのだが、長年使っているので苦にはならない。
「あー、となるとこの装備じゃちょっとカッコ悪いな」
今の俺は胸当てに手甲といったシンプルな装いだが、それに大剣はちょっと合わない。
まぁ、誰に見せるというわけでもないのだが気分というやつだ。
というわけで、俺は漆黒の大剣に似合う装備にすべく同じく真っ黒な全身鎧に着替える。
どっからどう見ても暗黒騎士です。ありがとうございます。
中二病全開ではあるが、まぁいいだろう。
「じゃあ、カイ。行ってくるよ」
俺は、いまだにどこに居るかわからないカイに話しかけると上へと向かうのだった。
◇
「よっ……とぉ」
途中、いつものようにデュラハンに遭遇したので、俺は奴の放つ不可視の斬撃を軽くいなすと、縦に一刀両断する。
うーん、この切れ味。さすが、俺の持つ武器の中でも高火力を誇るだけある。
ダンジョンに来た当初はラスボスかと思うくらいぼっこぼこにやられ、死闘の末に
やっと倒したと思ったら普通にポップするモンスターと知ったときは絶望したものだ。
今では雑魚敵の代名詞であるゴブリンのように初手瞬殺できるようになったので感慨深い。
そんな感じで鼻歌まじりに並み居る敵を鎧袖一触で蹴散らしながら俺は上層へと進んでいく。
「ん?」
それからどれくらい進んだだろうか。
今日はちょっとだけ気分が乗り、いつもよりも上層へと進んでいると何か声が聞こえてくる。
なんだか甲高い女性のような声だった気がする。
「人? いや、まさかな」
ここに来てどれだけの年月が経ったかは確認していないが、少なくとも数年は経っている。
そんな中、一度も他の人間に遭遇したことなどなかった。
てっきり、このダンジョンは放棄されたんだとばかり思っていたんだが……。
「……行ってみるか」
先ほどの声がモンスターか人の声かはわからないが、人だった場合……声の感じからしてピンチである可能性は高い。
本来なら関わる義理などないのだが、久しぶりに人に会えるという期待感から俺は声のした方向へと走りだすのだった。
◇
「ひいい、来ないでぇ!」
――ツイていない。
私は必死に配信ドローンと一緒にダンジョン内を走り抜けながらそう思う。
10年前に突如現れたダンジョン。
当時は扱いに困っていたダンジョンだけれど、装備の充実、魔法などのファンタジー系の技術の確立など、人間サイドの戦闘力の向上が著しく、今ではダンジョン内はレジャーと化していた。
もちろん、ダンジョンによっては超高難度ダンジョンである新宿駅ダンジョンみたいな危険なところもあるけれど、低難易度やそこそこの難易度のダンジョンはダンジョン配信の恰好のターゲットとなっていた。
私も
――瞬間、私は脱兎のごとく逃げたね。
コメントも阿鼻叫喚っぽかったけれど気にしている余裕はない。
キングオークは今の私では到底かなう敵ではないからだ。
「って、いうか! なんで! キングオークが! 居るのぉ⁉ アキバダンジョンにキングオークは出ないはずでしょ⁉」
私の覚醒者としての戦闘ランクはB。
戦闘ランクは一番下のGからトップのSまであるので、そこそこ中堅。
そして秋葉原にあるアキバダンジョンのランクはC。
モンスターもそのランクに見合った強さしかないので普通なら苦戦するはずもなかった。
ちなみに、キングオークの強さはS。とてもじゃないがアキバダンジョンに出ていいモンスターではない。
「あたっ⁉」
そして、どれくらい走っただろうか?
いくら覚醒者といえども体力に限界はある。
汗だくの中、足がもつれ私は盛大に転んでしまう。
「ぶもおおおおお!」
そして、体勢を立て直す暇もなく迫るキングオーク。
振り向けば、すでに目の前には巨大な棍棒が迫ってきていた。
基本的にダンジョン内で死亡しても入口で復活するだけなのだけど、痛みは普通にあるし怖いものは怖い。
「ひっ⁉」
私は、これから来るであろう衝撃に備え、ギュッと目を閉じる。
……しかし、想像していた衝撃はいつまでも来ることはなかった。
「……?」
恐る恐る目を開けば、いつの間に現れたのかそこには全身真っ黒な鎧に身を包み、身の丈ほどもある大剣を携えた人が立っていた。
そして、先ほどまで私を追いかけていたキングオークは、棍棒ごと真っ二つになっているのだった。
◇
【Diverについて語るスレ】
140:名無しの覚醒者
おい、アマリリスちゃんの配信見たか?
141:名無しの覚醒者
見た見た
アキバダンジョンにキングオークが出るってヤバいでしょ
CランクにSランクのモンスター出るのは流石に初見殺しが過ぎる
143:名無しの覚醒者
これってなんか異常事態なんか?
144:名無しの覚醒者
いや、アマリリスは気づいてなかったみたいだけど、配信に映ってたダンジョンの内装変わってたから別のダンジョンに飛ばされたっぽい
145:名無しの覚醒者
うわ、転移系トラップかよついてねぇ
147:名無しの覚醒者
確率自体は低い凶悪トラップに引っかかるなんて、運が悪いんだか良いんだか
148:名無しの覚醒者
それよりも、最後のあの黒騎士なんだアレ
モンスター?
150:名無しの覚醒者
わかんね。
キングオークを倒してたから味方っぽいけど、見た目黒騎士でキングオーク倒せるほどの覚醒者なんて聞いたことないしなぁ
152:名無しの覚醒者
Diverやってないソロの覚醒者かもな
153:名無しの覚醒者
あれからすぐに配信切れたし、アマリリスちゃんの安否が気になりすぎて夜しか眠れねぇ
154:名無しの覚醒者
とにかく次の配信待ちだな
アマリリスちゃん、無事でいてくれ
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【TIPS】
『転移ポータル』
距離や階層関係なく別ダンジョンへとワープしてしまう凶悪トラップの1つ。
新宿駅ダンジョンちゃんは自重していたが、加減を知らない別ダンジョンがやらかした。
新宿駅ダンジョンちゃん「(#^ω^)」
アキバダンジョン「((((;゚Д゚))))」
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