第8話 魔法の証明
「デリック・カムデンはノーマン家をどの貴族よりも信頼している。18年前、ギルバート2世が亡き者となり、モーガン7世が即位した。執政となったカムデンは諸侯に参集を呼び掛け、それに答えたのが辺境伯ガイ・ノーマン」
「お父様」
「ガイ・ノーマンは野心家だった。国境を異民族から守るために強大な兵力をその手に握っていた。年齢も脂が乗る時期だったのだろう。王都で名を売ろうと
「嘘。それはデリック・カムデンよ。カムデンがモーガン7世に王妃と王女の亡骸を差し出した」
ルドベキアでは誰もが知っている。潜伏していた屋敷をとり囲まれた王妃は、生まれたばかりの王女の胸に短剣を刺し、自らは毒を飲んでこの世を去った。
「おぼえがめでたくなるためにカムデンが、モーガン7世に自分の手柄だと報告した。実際はカムデンに命じられたガイの功績であり、ガイは首尾よくカムデンに恩を売ることが出来た」
「嘘! 嘘、嘘、嘘! 信じられない。お父様は心優しき人。領内で一緒に旅をしたわ。領民にも愛されてた」
「君の故郷に人をやって調べさせてもらった。当時を知る兵士たちは王妃と王女の亡骸をカムデン邸に運んだと証言した」
「ひどい! ひどい、エドワード! ノーマン家を調べていたなんて一言も言ってくれなかった」
エドワードが私から離れて行ったのはセシリア・アボットが原因ではなかった。私は何て勘違いの、あさましい馬鹿な女。自分が原因なのにセシリアのせいにしていた。
「すまない。でも、君に知られずに調べなきゃならない理由があったんだよ、ラナ。君から聞いていたガイ・ノーマンの人物像。そして、君だ。短い間だが一緒にいて分かった。君は他の者とは違う。ここからは僕の推測だ。証拠も何もない」
もういい。聞きたくない。どうかエドワード。もうこれ以上、私を苦しめないで。
「ガイは捕らえた王妃から娘の命だけはと泣きつかれた。野心を以て王都に乗り込んで来たはずだった。だが、ガイは生来心優しき男だった。それで王女をすり替えた。おそらくは死んだ赤子を用意したのだろう、ガイはそれに短剣を突き刺した」
え? どういうこと? 王女は生きていた……。
「君の本当の名はクローディア。クローディア・レイヴィンクロフトだ」
私の頭は真っ白になっていた。気が付くとエドワードが私の体を出口に向けていた。そして、背中をそっと押す。
私の足は門番の像を通り過ぎ、二歩、三歩して止まった。振り向くとエドワードが呆然と立っていた。
「古来この像たちを称し、試しの門という。魔法が掛っていて王家の者以外絶対に通さない」
エドワードはひざまずいた。
「陛下。今まで数々の御無礼、お許しを」
頭を下げる。私はレイヴィンクロフト。ラナじゃなく、クローディア。
「信じない。私はラナ。今さっき言ったでしょ、エドワード。証拠も何もないと」
エドワードはおもむろに立ち上がると私の方に向けてゆっくりと手を差し出した。
突然、二体の像が動き出した。剣を握り、振り上げる。エドワードは手を戻し、またひざまずいた。像たちも剣を戻す。
「女王陛下。出口には陛下の叔父上、ドーソン公と我が父ジャック・フレーザーが待っておりまする。私はここを通れません。申し訳ございませんが、お供出来るのはここまでです」
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