第7話 アルバート1世の遺体


「やつの野心はなにも今に始まったわけではない。遡ること18年、先王ギルバート2世が亡き者にされた。首謀者はモーガン7世。彼はギルバート2世の兄であったが、病弱なために王太子の地位を廃されていた。先先代の王が亡くなると当然、王太子であった弟のギルバート2世が王位にく」


驚くことにアルバート1世の髪は豊かであった。顔も皺が多かったが、血色のいい肌をしていた。まるで寝ているように見えた。


「モーガン7世はそれが許せなかっただろう。それをきつけたのがデリック・カムデン。モーガン7世は病弱だったために王太子を廃されていたほどの者だ。政治も出来ず、国家行事にも姿を現さず、その結果のカムデンの専横」


魔法? 1500年は経とうというのに全く朽ちていない。エドワードがひざまずいた。わたしもそれにならう。


「私はフレーザー家の次男、エドワードと申します。お眠りを妨げとなりましたら平にご容赦を」


エドワードは頭を下げると立ち上がった。一歩、二歩下がって振り向き、玉座をあとにする。わたしも礼を済ませるとエドワードを追った。


「宮殿から出よう」


エドワードの言葉にわたしはうなずいた。やさしい笑顔。エドワードはいつものエドワードに戻っている。


玉座と対面にある壁にドアがあった。エドワードは二本のロウソクに燭台から火を移すと金属の取っ手を捻る。


燭台の炎が玉座の方から順に消えて行った。ロウソクで照らされた所以外、またたく間に元の暗闇に舞い戻った。エドワードはドアを開ける。


通路があった。私たちは進んだ。ロウソクの揺れで、風が流れているのが分かった。


出口に向かっているのを実感し、わたしはホッとした。緊張感が取れると宮殿での出来事が貴重な体験だったと思えた。エドワードはこのことを皆に話すのだろうか。多分、話はしないだろう。わたしも誰にも言わない。


突然、エドワードが立ち止まった。通路の両脇にそれぞれ武人の像が立っていた。双方共に抜いた剣を足元に突き刺し、その柄頭つかがしらに両手を置いている。


通る者を見下ろすように立っていた。アルバート1世のような安らかな顔つきではない。二体共がにらみを利かせ、口をへの字に曲げている。形相がまるで生きているかのようで気味が悪かった。


おそらくは宮殿の守護像。入口を守っている。ということは、もう出口。


「エドワード。私たち、出られるみたい」


「待ってくれ、ラナ」

「なに?」


「僕は君に手紙を書いた。どうしても話さなくてはならないことがあると」

「ええ」


こんなところで?


「でも、それはセシリア・アボットのことでしょ。彼女のことは忘れたわ」


「違うんだ。そうじゃない。こっちに来てくれ、ラナ」


何が違うの。セシリア・アボットは私をカレッジから追い出すために教授会に訴えを出した。


「ようく、聞いてくれ。これは大事なことなんだ」


エドワードの目はいつになく凄味があった。私は言われるがままエドワードの正面に立った。


「確かにイーサン・ノーマンは学園関係者に金をばらまいた。しかし、君の入学に動いたのは別の人物。それは他でもない、執政デリック・カムデン。君の支援者はデリック・カムデンなんだ。セシリア・アボットごときがいくら騒ごうとも君をカレッジから追い出せるなんて出来っこない」


言葉が出なかった。エドワードの言っている意味が分からない。


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