第6話 謁見の間


私たちは通路を奥へ奥へと進んだ。ロウソクのあかりには限りある。自然と速足になった。


ほどなく横にそれる道を見つけた。エドワードはかがんでしか進めないような、小さなトンネルであった。


「この通路で間違いない。図面通りだ」


エドワードは躊躇ちゅうちょなく先に歩を進めた。私も後ろをついていく。五分も歩かないうちに出口が見つかった。ドアもなくその先は大きな空間のようである。ロウソクのあかりでは、空間が大きすぎて向こうの先がどうなっているのか分からない。


「どうやら僕らは宮殿に足を踏み入れたようだ」


そう言うとエドワードは通路を出た。そして、壁に沿って歩いていく。規則的に石製の大きな燭台しょくだいが並んでいた。


「これか」


石の壁に金属の取っ手があった。


「上手く作動してくれればいいんだが」


そういうとエドワードは取っ手をひねる。ゴボゴボと何やら奇怪な音が暗い空間に響き渡った。


「ラナ、心配ない。コックをひねれば石油が各燭台に供給される仕組みだ。この音は装置が作動している証」


音が収まるとエドワードは1個の燭台の前に立つ。そして、ロウソクの火を燭台にかざした。ボッと炎が上がる。


「祖先が書き残していたとおりだ。僕の祖先はこの宮殿建設に携わっていた」


エドワードは次々と燭台に火をともしていった。全ての燭台に炎が上がり、巨大な空間の全貌ぜんぼうが明らかとなった。


縦長の空間だった。床は大理石板が敷かれ、大理石の柱が数多く規則正しく並んでいた。天井は突き抜けるほど高い。長手方向の正面には十段ほど階段があり、その上は壇上となっていた。そこに大きな玉座が鎮座している。


遠くにあるのではっきりとはしないが、その玉座に人が座っているように見えた。


「ラナ。見えるか。あれがアルバート1世だ」

「アルバート1世」


固唾を飲んだ。


「素通りは無礼だ。ラナ、僕らは挨拶せねばなるまい。アルバート1世に謁見する」


そう。ここはまるで謁見の間。


エドワードは手にあるロウソクを消すと手袋を脱いだ。ゆっくりと玉座に向けて歩き出す。私もロウソクを消し、手袋を脱ぎ、エドワードに遅れないよう続いて行く。


「モーガン7世がこの世を去り、王家レイヴィンクロフトの血が途絶えた」


歩き始めたエドワードはなぜか唐突に、玉座に向かって話し始めた。


「生来の虚弱体質であるモーガン7世に太子を作ることが叶わなかったからだ」


私に話しているのではない。まるでアルバート1世に報告するよう。


「執政の公爵家デリック・カムデン。やつは喪に服しているのにもかかわらず、ルドベキアを救うためと称して自身の息子と隣国の王家ウサンディアサーガとの婚姻を決めた。そして、それに止まらず自らを大公と称した」


エドワードとは思えない低く、鋭い声だった。


「本来なら王妃に王位を継ぐ権利がある。だが、王妃はカムデンの妹。王妃もまた病気と称して王位を辞退した。カムデンはレイヴィンクロフトの名を歴史から抹消するつもりだ。一旦はルドベキアを公国とし、その後にまた王国とする。やつは自らの王朝を築こうとしている」


エドワードの言葉と私たちの靴音だけが、広い謁見の間に響いていた。


「王墓の森で貴族たちに乱痴気騒らんちきさわぎを許したのは王家の名をけがさんがため。王家への尊崇そんすうは無用と貴族たちに知らしめる絶好の機会であった。カムデンはいつかこの宮殿を取り壊そうとしている」


玉座に近付いていた。王冠をかぶり、王笏おうしゃくを手にするアルバート1世の御姿みすがたがあった。


そして、前を歩くエドワードは何かに取りかれているようだった。


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