第4話 アルバート1世の魔法


父は私をよく狩りに連れ出した。家では母の目があった。領主だけあって城から城へと移っていく。


それでも時には草原で火をたいて毛布一枚で寝ることもあった。少人数での移動であったから私も働いた。もちろん、領主たる父も自分の世話は自分でした。


私は色んな人に料理を教わった。エドワードは私の料理をことのほか気に入ってくれた。全て平らげ、おしゃべりして、私の家を出る時に必ずこう言った。


「君のような子が一人暮らしなんて物騒だ。僕のところに来なよ。もちろん、ノーマン家には内緒にする。考えてくれ」


ここ、王墓の森にもよく来た。私が馬に乗れるのでエドワードは驚くというよりも喜んでいた。二人でケヤキの大樹まで競走したものだった。


エドワードに野外プロムに誘われた時、ケヤキの大樹が最初に頭に浮かんだ。そこで待っていれば必ずエドワードが来ると。


そして、エドワードは来た。私は今夜でもう二度と会えなくなると言うのに、いまだにその顔をちゃんと見れていない。


「アルバート1世は魔法を以てこの国を建国したという。君は魔法を信じるかい」


ケヤキの大樹。伝説では初代王アルバートがまいた種が一夜にして巨木となったという。初代王アルバートは魔法が使えたとされていた。


エドワードは私の背後に立ち、巨大なケヤキの幹に手を触れていた。色んな事が頭によぎってしまい私はつらくて苦しくて、胸が張り裂けそうだった。


「もし魔法があったら君ならどうする」


あなたと結ばれたい。私は心の中でそうつぶやいていた。しかし、それは心の奥深くにしまっておかなくてはならない。私は結局、どうしようもない自分に腹が立っていただけ。それをエドワードにぶつけてしまっていた。


「そうか。想像もつかないか。でも、ラナ。君なら魔法が使えるかもな。いや、使えるなら君であってほしい。君が魔法を使えたのなら、君はこの世界をきっと良くしてくれる」


エドワードは騎士のように私の前にひざまずいた。


「君の決心は分かっている。キングズ・カレッジを見事首席で卒業したのがその証だ。君はこれからも自分の道をしっかりと歩んでいくのだろう。僕は引き留めない。だが、今夜だけは全て忘れてほしい。いいだろ。僕のわがままに答えてくれ」


エドワードが私に手を差し出した。確かに私はエドワードに恩があった。流されてはいけないという想いもある。けど、今夜だけという言葉に私の気持ちはこばむことが出来なくなっていた。


私は手を差し出した。エドワードの手に私の手が触れる。エドワードは私の手をやさしく包むと立ち上がった。私もその手にいざなわれ、立ち上がる。


「ここは騒々しくていけない。もっと森の奥へ行こう」


エドワードは森を先に進んで行った。私はエドワードの背中を追っていく。エドワードが振り向く。


「足元に気を付けて」


私はうなずく。ケヤキの大樹を越えて森を進んだことはなかった。ちょっと怖い感じがした。


「ラナ。ケヤキから奥の森は御霊廟への道以外聖域なんだ。ここに足を踏み入れた者は神隠しにあうって言い伝えがある。アルバート1世の魔法だそうだ。貴族は皆恐れている。だから、ここにはもう誰も入って来ない」


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