第2話 野外プロム
「ラナ。僕とセシリアとの間にはなんにもない。色々と家の事情があってな、僕はただ彼女のわがままに付き合っていただけなんだ。彼女も僕のことは何とも思ってない。彼女にとって僕は引き立て役なんだ。それに僕は長男じゃない。キングズ・カレッジを卒業した今となってみればセシリアの興味は僕の兄となっている」
侯爵令嬢のセシリア・アボットは男子の間では一番人気だった。長い金色の髪に青い目。手足が長く、スラっとしていて、ダンスが得意だった。男子の間ではプロムの相手が誰になるのかといつも話題となっていた。
「私が知らないとでも」
私は知っていた。エドワードがセシリアを納得させた。付き合う条件で私への嫌がらせから手を引く。
エドワードと親しくなればなるほど学園での、私へのイジメは激しさを増していた。首謀者はセシリアだ。廊下で女の子たちが話しているのを私は偶然聞いた。
女の子たちも面白くなかったのだろう。セシリアがエドワードを手に入れるのに自分たちが利用された。そう嘆いていた。
エドワードは五大公爵家の一つ、フレーザー家の次男であった。学問、武術、芸術、どれを取っても学園ナンバーワン、黒髪に黒い瞳の美男子だった。横を通るだけで女子は黄色い声を上げていた。
「あの時、私は学園も辞めさせられそうになっていた」
変な噂が流れたり、物がなくなったりするだけではなかった。それだけならもう慣れっこだ。私は生まれて来てはいけない子だった。全て私が我慢すれば済むことだといつも思っていた。
しかし、ことはそれだけで治まらなかった。イジメに屈しない私の態度にセシリアが我慢ならなかったのだろう。教授会に訴えを出した。貴族でない者にキングズ・カレッジに入る資格はないと。
私は庶子である。父は辺境伯ガイ・ノーマン。17年前、王都の警備から帰還した父の胸には私が抱かれていた。その父も5年前、世を去っていた。最後の最後まで誰が私の母親か、言うことはなかった。
「セシリアのことも、この馬鹿騒ぎも、全部私のせい」
エドワードはさっきはっきりと言った。私とすれ違わないためにこの野外プロムを考えついたと。
「あなたの卒論は『王墓の全容』だった」
明らかに、私の存在は彼のためにならない。愚王モーガン7世は別として、ここに眠る王たちは代々国を守って来た。そして、エドワードはこの場所を大切に思っている。私たちは何度もこの場所を訪れていた。
「信条をくつがえしてまで僕が君のためにこの場をもうけた、と君は言いたいのだろう。けど、それは違う。これは単なるガス抜きだ」
エドワードは顔色一つ変えずに微笑みを残したまま話を続けた。
「モーガン7世が崩御するとすぐにプロムの中止が決まったろ。そういう決まりなんでな、それは仕方がない。でもな、偶然その年に当たった皆はそれを納得できるか? 今までなんでも思い通りにして来たやつらだ。何をしでかすか分かったもんじゃない。僕が彼らの暴走を食い止めてやったんだ。ここなら誰の迷惑にもならない。幾らでも騒げばいいんだ」
中止を聞いて最も残念がったのはセシリアだ。この日のために自分磨きにいそしんで来た。ダンスの相手、エドワードも手に入れていた。
プロムの代わりに王墓の森でキャンプするってエドワードが言い出した時、セシリアだけでなく誰もが喜んだ。だが、すぐに無理だと皆が悟った。
国を挙げて喪に服している最中だった。それを王墓の森でキュンプするって? エドワードは頭が良かったが、気が狂っているのかと疑う時が度々あった。
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