追放された私を溺愛するスパダリ、私の知らない間に全方位、盛大にざまぁを仕掛ける

悟房 勢

第1話 手紙


色んな感情が入り乱れ、自分の顔がどんな表情になっているのか分からない。私は顔を伏せたままだった。エドワードにはそんな自分の顔を見られたくなかった。


「来てくれると信じていた」


私たちはケヤキの大樹の下に二人っきりであった。木々の向こうから音楽や男女の笑い声が聞こえる。


私がここに来た時、彼らはすでに盛り上がりを見せていた。


多くの貴族の子息子女たちが王墓の森で音楽に合わせて踊っている。軍議を開けるほどの大きなテントが立ち並び、多くの使用人たちがお酒や料理を持って雇主たちの間を縫っていく。


彼らに目もくれず、私はケヤキの大樹へと向かった。


エドワードを待つ間、私は一人でたき火の炎を眺めていた。するといつしか、来なければ良かったと後悔していた。エドワードに会いたい気持ちが私を狂わせた。自分のあさましさが許せなくなっていた。


私の手にはエドワードからの手紙があった。それをたき火にくべた。


手紙は要約すると、もう会えなくなるだろう、最後に二人だけで会いたい、どうしても君に話さなければならないことがある。


帰ろうかと思った。しかし、エドワードのおかげで卒業出来たのも事実だった。お礼だけはしっかりしなければと自分に言い聞かせた。平静を保つため、私は読みかけの本を開いた。


どれほどの時が経ったか、エドワードが現れた。私の方に向かって歩いて来た時はしっかりとその姿を見ていられた。高い背に広い肩幅、長い手足。そのシルエットでエドワードだとすぐに分かった。


エドワードが私の前に立った時から私は視線を本から離さなかったし、一言も発していない。エドワードの視線を感じていた。エドワードは黙って私の言葉を待っていた。私は気持ちを抑え、ここに来た理由をエドワードに話さなければならなかった。


「エドワード。ありがとう。あなたのおかげでキングズ・カレッジを卒業出来た」


うつむいたままの私にエドワードの声が届いた。


「僕のおかげ? 君がどう思っているか分からないが、それは君の勘違いだ。君はカレッジのほこりとなった。一般教養、法学、経営学。結局、全ておいて君は僕を抜いて一番になった」


そのエドワードの言葉に、なぜかふつふつと怒りが込み上げて来た。自分を抑えきれなかった。バン!と本を閉じていた。


「悪かった、君をこんなところに呼び出して。雰囲気もなにもあったもんじゃない」


エドワードには怒った顔は見せたくない。私はうつむいたままだった。


「そうじゃない」


「じゃぁ、王墓の森でキャンプってのがいけなかったか。でも、ここなら待ち合わせですれ違うことはない」


キングズ・カレッジでのプロムは今年だけ中止となった。それで今夜、キャンプと称して王墓の森でプロムが開催されている。


「でもな、ラナ。レイヴィンクロフト朝は終わったんだよ。もう王家に気兼ねする必要はない。ルドベキアも王国ではなくなり公国となる。時代は変わったんだよ」


プロムのこともある。だけど、そうじゃない。


「違うの、エドワード!」


怒りに任せて見上げるとエドワードと目が合ってしまった。エドワードの黒い瞳が輝いている。唐突に、あの日のことが頭によぎってしまった。


二年生になったばかりだった。男子しかいない図書室の歴史地理コーナーで私は本を読みふけっていた。そこにエドワードが現れて、突然私の向かいに座り、私に向かってこう言った。


「やっぱりだ」


え? なに? エ、エドワード!


「前から思っていたんだが、やっぱりハニーブラウンの髪にヘーゼルの瞳はよく合う」


胸が鳴った。あまりに大きな音だったのでエドワードに聞こえたんじゃないかと恥ずかしくなった。


あの時のように、私はまた目を伏してしまっている。


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