第2話 Case1.獣人ハーレム出来なかった
荷物を持って移動した俺を待っていたのは三つ編みの頭の下らへんの両側から垂らしたスーツを着た若い女性だった。
「久しぶりの新人、歓迎するアルヨ」
アニメや漫画以外で初めて遭遇するキャラだ。
「うちのことは肉まん先輩って呼べばいいアルヨ」
垢名かは分からんが、名前が食べ物率が多いな。俺の周りだけか?
「本日よりお世話になります。抹茶スティックです」
「今日はうちがお前と一緒に組んで仕事するアル。そんで明日から一人でやってもらうアルヨ」
「新人研修は一日だけということですか?」
「クレーム課に急ぎなんて求められてないからそこまで仕込みは必要ないアルヨ。本当に真っ当な理由で来る奴はもっと特別なとこに通されてるアル」
「え?それじゃここの課の存在意義ってなんですか?」
「魂の洗濯アルヨ」
「魂を生み出すにはとんでもない力がいるアル。一回人生終わるごとに消滅させてたら人類どころか他の生物の魂の生産が追いつかないアルね。だからここで現実みろ陰キャをすることによって、入れ物の人間がスッキリしなくとも魂に自分が何をやらかしたのか刻み付けて次の人生がマシになるようにするアル。なんで前世こんなことになったっていう疑問でいっぱいの魂を送り出すのは負担がかかってしょうがないアルからネ」
「そういう事情があるんですね。ところで仕事の割り振りって決まっているのですか?」
「決まってるアルヨ。一番相手を納得させられるとか、相性で決まってるアルヨ。うちはお前と相性がいい人間のタイプが似てるからうちが教育係になってるアル」
「そういうとこまで分かっているんですね」
「ここでなんでとか考えてると疲れるアルヨ。とりあえず、お前はうちがいいと言うまで大人しく見学してるアルヨ」
「はい」
両側に壁がある市役所の受付の窓口みたいなところで肉まん先輩が座ると男子高校生らしき青年が座ってきた。
「クレーム課アル。あなたのお話を聞きに来たアルヨ」
口調同じなんだな。
「どうしても納得いかないんです。あんな強力なスキルを貰ったのに一年もたたずに死んだんです」
「不具合があったアルか?」
「不具合も何も!助けた女の子が惚れてくれなかったんですよ!」
これは、チョロインメーカーに引っかからなかった奴に当たったか…。
「僕のスキルは、「歩きポイント」で歩数分だけスキルマネーが貯まるんです。五千歩歩いたら五千円分、スキル買うための専用のお金が貯まってそれで強力なスキルを買って強くなりました。それで魔物に襲われてた獣人の女の子を助けて…彼女も感謝してくれて家にだって泊めてくれて、ご飯も作ってくれて…」
彼はスキルを手軽に買って、サクッと命を奪った自覚もほぼなくゲーム感覚だったのだろう。金持ちならともかく一般人のできる範囲の恩返しといったらそうなるかもしれないが、そんな自覚ない青年なら期待?してしまうものなのか?
「だから!彼女もその気が少しでもあるのかなって思って近所に住んでる可愛い妹も紹介してくれてっ、こ、これ、は、ハーレム展開かなって思ったのに!彼女たち、旦那とか婚約者いるっていうんですよぉおお?!」
彼をなぜ妹に紹介したかは分からないが、それでハーレムを期待する彼も分からないな。
「け、けど一旦落ち着いて、旦那とか婚約者のこと聞いたんですよ。そしたら彼女たちのこと酷い扱いしていて許せないって感じて、僕のスキルで助けてあげなきゃって思って」
「酷い扱いってなにアルか?」
ずっと黙って聞いていた肉まん先輩がやっと口を開いた。
「彼女たちのこと力ずくで従わせたんですよ?!暴力で!」
「で?」
「だ、だから!スキルで助けてあげなきゃって思って、僕が倒せば諦めるかと思って…、ちょうど帰ってきたからスキルで挑んだんだ。あんな魔物に襲われるくらいだから弱いと思ってたのに意外と強くて…。でも「自動補正」っていう勝手にいいタイミングで最適なスキルを使用してくれるスキルも使ってたから勝てると思ってたのに…いつの間にか死んでて」
「お前が死んだのはスキルの使いすぎアル」
資料を見ながら肉まん先輩は答えた。
「は?」
「お前の世界はスキルを使用するのにMPを消費しなくちゃいけないアル」
「そっ、そんな言われなくても分かっでる!」
死んでから元の人格が戻ってきたのか。どんどん素というか化けの皮が剝がれてる感がする。今のスキルも何もない本来の自分ではそんなに不安なのか。
「お前は大量にMPを消費する強力なスキルを使い過ぎたアル。だからでMPが切れて「自動補正」が切れて殺されたアル」
「あの男…」
「殺したのは男じゃないアルよ?」
「え?じゃあ、だっ」
「気が立ってた妊婦の獣人アル。爪で背後から首をザックリいかれたアル。痛くなくて良かったアルね~」
「そ、そんな中ボスでもない雑魚に?」
「それとお前がモテなかったのは色々あるけど、獣人の強さと、お前の思う強さは違うからアルね。獣人の強さは肉体の強さアル。お前はスキルが無ければ弱いアル。お前が襲われなかったのもただ単に筋肉も贅肉もなくて獲物として魅力がなかっただけアル。別に強者のオーラがあるわけじゃないアル」
追い討ちがえげつない。というかその資料にはどこまで書いてあるんだ?
「ぼ、ぼくは助けようと」
「圧倒的肉体の強さで負かされてようやく獣人の女は身を任せられる。女も男もお互いの誇りを賭けた立派な求婚の儀式アル」
「スキルで奪うのは力ずく、暴力に当てはまらないアルか?」
その言葉が効いたのか青年は言葉が詰まっている。
「新人もなにか言うアルヨ!」
「もう言うことはないでしょう」
「あ、貴方みたいなお、おじさんや変な口調な女に言われても、何も響きませんよ!」
精一杯の強がりなのだろう。若い頃はなんか生気ない年上見るとこんな奴にはならないって思ってたような気がする。あぁ、現世の人と会話するために中途半端に残された感情の記憶や常識が頭を混乱させる。自分がどんな人生を送ったかは分からないのに。
「ここの職員は全員、添い遂げとてるアルヨ。お前より恋愛はずっとわかってるアル。失礼なこというなアルヨ」
とどめを刺した。その後、何も言えなくなった青年はどこかに連れていかれた。
「どうだったアル?」
「なんか不思議な疲れがありますね」
「うちもそうだったアル。でもすぐ慣れるアルヨ」
こんな事がこれから毎日かと思うと嫌な気分になるが、左遷課の割にサービスは手厚いらしい。昼休みと食事を楽しみに生きよう。
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