スキル「チョロインメーカー」をつけ忘れた元転生・移案内人の俺は左遷されクレーム課にいます

黒薔薇王子

第1話 ここには異世界残念しかないです

「それではよき人生をお送りください」


 俺は転生または転移した男性を次の地点というか人生に送る際の案内人をしてる。仕事内容は何で自分がここに来たのか、これからどうなるのか、後は人や飛ばされる場所によって何をどこまで説明するのか変わる。説明の後はスキルやアイテム、そして今俺が片付けようとしている箱に入った隠しスキルを入れて送り出す。


「ん? 箱に入ってる?」


箱に目を向けると、ころんと転がった丸い紫色の水晶のような物があった。瞬間、やらかしたことに気が付いた俺は悲鳴すらでなかった。隠しスキルこそ今までクレームを少なく抑えられてた理由だったのに、これをつけ忘れたら戦闘面では強いが変態コミュ障のままという悲しいことになる。


「こんなくそダサいスキル名の存在を忘れるとか…」


 本人に一切の確認、許可を取らずに問答無用で付与するこのスキルの名前は「チョロインメーカー」。効果は女性(容姿がいい人に限る)をオトすことができるのだ。例えば十個のイベントを重ねて一回胸キュンを起こすことができると仮定しよう。だがこのスキルによって一回のアクションで胸キュンを起こすことができる。そしてもう一つのサブ効果、「絶対ワッショイ」。なぜ名前第二候補の「主人公補正」が採用されなかったのが不思議でならない。さてこのサブスキルが何を解決するのかというと、スキル保持者のアクションの八割が好印象に映る。これで女性と一緒にいるだけで勝手に好感度は上がり、アクション一つ起こしたら胸キュン、イベントが起これば十胸キュン分好感度が上がる。更に、主人公補正によって普通ならドン引きする言動は補正によって全てクリティカル認定。サブスキル効果により、女性に関わらず関わった人間のほとんどからの好感度が爆上がりしスキル保持者を持ち上げる。以上がスキルの主な効果だが理解はできただろうか。俺の現実逃避に付き合わせてすまない。


「どうやってごまかそう…」


 無駄なあがきだということは分かっている。でもこの道六十年の俺は今まで一回もこんな失敗したことがなかったんだ。しかも、この失敗は絶対しちゃいけないやつだからバレたら一発アウト。俺は諦めない、書類をどうにか書き直してこれを部屋に隠して後二百四十年隠し通す。なぜ二百四十年かというと俺たち案内人の任期は三百年、前世伴侶と添い遂げた者のみが全盛期の姿で案内人として生まれ仕事をするという決まりになっている。尚、前世の記憶はない。職場恋愛はまずいんだと。なんでこんな謎の決まりになっているかというと陰キャにはリア充が良く効くだろうというどっから出てきたその偏見、しかも効くってなんだそれと言いたくなる理由によって決まったらしい。


「抹茶スティック、抹茶スティック。至急、転生・転移課長室に来い」


 めっちゃ恐いブチ切れトーンの放送で呼び出された。隠す間もなかった。大人しく荷物を持って課長室に向かう。廊下を歩いてる間に説明という現実逃避をする。なぜ俺が抹茶スティックと呼ばれているのかというと、前世での俺の一番新しいネットの垢名が「抹茶スティック」だったかららしい。前世の名前は記憶を呼び起こす危険性があるため、使用してはいけない決まりになっているが、その理屈だと前世の垢名もどうかと思うが前例はないし、その方が面白いかららしい。ついに着いた扉の目の前、諦めてノックをする。


 コンコン


「入れ」


「失礼します」


 中に入るのは生まれなおした時ぶりだ。


「端的に言うね。君、クレーム課に移動ね」


 謎の白い布がいっぱい天井から垂れ下がっている薄暗い空間の奥の方にいるのだろう上司からそう告げられた。ふざけた部屋だが上司の威圧が半端ない。


「は、はい」


 クレーム課は転生・転移した人間が死んだ後、クレームをいれる部署だ。死んだ後、死後の案内人に文句が無ければ来世もしくは魂の消滅か選べる。文句があればクレーム課に行ってスッキリしたら来世もしくは魂の消滅か選べる。そしてクレーム課は俺みたいにやらかした人間の行くところでストレスが半端ない。そんな俺の日常が明日から始まる!

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