第2話「少しの成果と高まる期待」


 家を出ると、目の前にはいつもの3人が居た。


「どうしたんだい君達?」


 俺がそう聞くと、3人は嬉しそうに体の一部分をそれぞれ見せてきた。


「見てくれ見てくれ!少し左足が生えてきたんだ!」


「俺は右腕が少し生えてきたんだ!」


「あんがと。」


「うん、どういたしまして。」


 あのポーションの、安全性と効果は確認出来たけど、効果は最後まで確認した方が良いな。最後まで生えなかったら、夜逃げになっちゃうし。一応次会った時に、追加のポーションを渡しておくか。原価は大した事は無いし。


「これからもよろしく頼むよ。じゃあ俺は用があるからまたな。」


「「「うん、またねー」」」


『冒険者ギルド』


「たのもー!」


 いつもは冒険者がクエストを掲示板を見て選んでいて、賑わっている時間。

 そんな時間に響く錬金術師の声。普通なら一瞬静かになった後、また騒がしくなる。

 だけど、今日は何故かずっと静かなままだ。ギルドの外に声も漏れてなかったし、どうしたんだろう?


「おー、どうしたお前ら?今日は随分と静かじゃ無いか。この中で1番社会的弱者の俺が1人で1番元気ってどういう事だよ。」


「「「「.......」」」」


 おかしい.....いつもならこんな事言ったら、“なんだお前!?俺達を何だと思ってるんだ!”とか、“この前喧嘩になったばかりじゃ無いですか.....煽るのやめて下さいよ.....どうして私達の仕事を増やすの.....”とか言われるのに、今日は全く言われない.....なんでだ?


 俺がギルド内をキョロキョロしていると、俺に視線を向けるやつらの中で、一際強い視線を感じる。

 

 その視線の方に目を向けると、何やら銀髪碧眼の中性的なのが、俺を睨んでいた。

 その銀髪は、俺と目が合うと、一瞬目を大きく開けたが、直ぐに元の顔に戻る。


 金髪と銀髪は貴族の証......見た事無いし、多分他の国の貴族何だろう。目を大きく開けたのは、一瞬光の何ちゃらで銀髪に見えたからだろうな。多分。


ジー


 なんか凄い見られてるけど、何でだ.....そもそもなんで貴族がこんな所居るんだよ。普通来ないだろ。


「そこの白髪の方。」


「はい?」


 何か変なモノを見る様な目のまま、貴族の人が話しかけてきた。

 何だろう.....あっ、もしかしてさっきの挨拶で変な奴だと思われた?まぁ....しょうがないか。そこは割り切っていこう。


「貴方のご職業は何ですか?見たところ、冒険者の方では無さそうですが.....」


 ジーっと見たまま、疑う様にそう聞いてきた。うん、完全に不審者扱いされてるな。

 でも、何でわざわざそんな事聞くんだ?


「そうですね。自分は錬金術師で、このギルドの人達にポーションを売っています。」


「......そうですか.......先程、冒険者の方々に対しての煽り行為は何故ですか?直接販売している様ですし、評判を落とす行為は極力しないと思うのですが......」


「多少煽ったところで、自分の売上は変わりませんから大丈夫です。それに、ここに居る人はもう慣れてますよ。」


「そうなんですか.....色々と大丈夫ですか....?」

(冒険者とか怒らせると大変そうなのに......)


「はい!全然大丈夫です!」


「いやいや......」(小声)


(この人見た目と態度のギャップが凄い.....明らかにダウナー系というか....やさぐれている感じなのに.....)

「そうですか......?見たところ、他にも錬金術師の方はおりますし.....余計なお世話かもしれませんが....お客様を取られてしまうのでは.....」


「忠告有難うございます。でも全然大丈夫ですよ。自分のは他のと比べて、安い大容量性能高いの3拍子揃ってますから。よろしかったら買っていきますか?」


「いえ、大丈夫です.....では私はコレで.....」


「あっ、それでは最後に1つ良いですか?」

(ワンちゃんボレタかもしれないのに。まぁ仕方ない。普通に売ろう。)


「はい、何でしょうか?」


「何でそんな色々聞いてきたんですか?普通は察してそそくさと無視すると思うのですが。」


「........いえ、ただの職業病です。」


「......そうなんですか.....質問は以上ですよ。それでは下見頑張って下さい。」


「応援有難う御座います。それでは皆様。失礼致しました。」


 そう言い貴族の人はギルドを出て行った。


 出て行ってから少し経った頃、いつもの騒がしいギルドに戻った。


「やっぱりギルドはうるさい位が丁度良いな。」


「丁度良い訳ないですよ煽ってるんですか殴りますよ酷いことしますよ?」


 形だけの敬語のハナが、疲れた様な怒っている様な声で脅迫じみた事を言ってくる。

 目がマジでかなり怖い.....


「ギルドからしたら苦情の対応で困ってるんだったな.....お疲れさん。」


「半分は貴方のせいですけどまぁ良いです。そんな事より、さっきの貴族への対応です!」


「そんな変な対応したか?」


「貴方冒険者達を煽ってる事暴露してどうするんですか!?」


 丁寧な対応がどっかいったな。


「良くはないだろうけど、別にそんな大変な事じゃ無くない?あの人だって下見に来ただけだろうし。」


「そうかもしれないけどさ、もしあの人がお偉いさんに報告するかも知れないよ?」


 もう敬語すら無くなったな。まぁどっちでも良いけど。日頃の行いからしたら当然だし。


「平気平気。そんな事より、ギルドだとエリクサーって、今どれくらいで売れる?」


「突然ね.....えぇと.....今だと1500万で売れるよ。というかエリクサー作る予定なの?」


「もう作ってる最中だ。後11時間位で連続混ぜ混ぜの工程だな。」


「はぁ、なるほどね。通りで相変わらずハイポーションを売りに来たわけね。」


「ご名答。簡単だし、そこそこで売れるから景気付けに丁度良いんだよ。エリクサーが売れたら、ギルドで宴会しても良いか?」


「別に良いんじゃない?酒場もギルドの利益源の1つだし、大丈夫だと思うよ。」


「そうか。じゃあ明日は受付嬢も混じってパーっとやろうぜ。許可取るのよろしく。」


「別に良いけど....気が早いなんてもんじゃないわね.....」


「まぁ大丈夫だろ。じゃ、頼んだ。俺はちょっくらポーション売ってくる。」


 俺はハナと雑談した後、うるさくなった冒険者達に呼びかける。


「ハイポーションが安いよー!10本限定だけど、価格は通常より安い100ミリ7000ゴールド!他のより3000ゴールド安いよー!余ったお金を酒代に当てたりして、ちょっと良い思い出来ますよー!ついでにユニコーンのクソポーションも勝ってくださーい!」


 俺の呼びかけに応じて、冒険者が集まってくる。ただ7000ゴールドで消耗品(10回位しか使えない)となると、中級者位からじゃないと買わないからな。

 このギルドの中級者パーティは、10組位。その半分に、回復魔法が使える聖職者がいる。そう考えると、あまり売れないかも知れないけど、そういうのは割り切るのが1番だ。事実売れないし。そういうパーティは、魔力回復のポーションを売りつければ良いだけだ。

 

(んじゃま、売りますか。)

「らっしゃいませ!何本いりますか?」



〜売り切って〜



「いや〜売れた売れた。満足満足。でもユニコーンのポーションは一向に売れる気配が無いな。」

(やっぱりワンちゃん爆発するのはクソだよな。誰も買わないのに何で作ったんだろう。まさかこんな事になるとは....失敗は成功のもとって言うしな.....もう割り切ろう。コイツは売れない。マスコット的な扱いでいいや。)


 ポーションを売り切った俺は、少しの関係無い決意をした後、7万ゴールドを持ち、酒場の店員に声を掛ける。


「すいませーん、ちょっと良いですかー?」


「はい。何でしょう?」


「明日、ここのギルドの冒険者全員と宴会をやりたいんですけど、予約良いですか?」


「良いですよ!明日ですね。かしこまりました。」


「そんなあっさりで良いんですか?」


「良いですよ。だって貴方お金結構持ってるじゃ無いですか。」


(金持ってるからって、そんなあっさりいくか?まぁ金はある程度持ってるけど.....)


「はぁ....とりあえず予約代で一応7万どうぞ。」


「はい!いつもありがとうございます!」


 俺は酒場の店員さんに予約代を渡すと、ギルドから出た。


(さーて、何しよう。この後11時間弱あるし、たまには外食でも)


 そう思い、たまに行くアヒージョの店に行こうとした、その時。


「おい!誰か解毒剤は持ってないか!?王女様が大変なんだ!!!」


 ある程度入り口から近いとはいえ、ここまではっきり聞こえる、焦りに満ちた声。


「野次馬しに行くか。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る