第1話「退屈なポーションの作り方」
「ふぁ〜よく寝た。」
朝、起きた俺は1度家の外に出て井戸から水を汲み、顔を洗う。
「はぁ......さっぱりさっぱり。うん。なんで家にいるんだ。」
昨日何が有ったっけ?というか何で俺は自宅に居るんだ?えっと.......なんか途中からなんかぼんやりしてるんだけど......えっと昨日は確か......
〜回想〜
「上等です!表出ましょうか!」
「はぁ、はいはい。」
素材を受け取り、ハナに言われた通り、ギルドの外に出る。
外に出ると、人がかなり居る。
真昼間からギルドの前の大通りに人が居るのは不健全だとは思うが、ここは城下街。クエストには金がいっぱい掛けられてるせいで、冒険者いっぱい居る。そのせいで、平日の昼間っから多くの人が居る訳だ。
居るだけならいいんだが、そのせいでギルドへの冒険者についての苦情が絶えない。“冒険者が騒ぐせいで、子供を寝かしつけられない”やら、“冒険者が偉そうに武勇伝を語ってくるし、長いし聞いていてキツい”などとギルドの負担がどんどん大きくなっている。って前にハナに愚痴られたな.....俺ちゃんと煽りの精算してね?
「出てやったぞ〜何するつもりだ〜」
「ザレン。貴方にはもうウンザリなの。毎回毎回毎回毎回!どうしてすぐ煽るの!?ねぇ何で!?どうして問題ばかり起こすの!?私何か悪いことした!?」
ハナが急に、涙目かつ大きな声で訴えかけてくる。いや、正確には嘘泣きで大袈裟なリアクションしてるだけだけど。
(あれ.....これ結構ヤバくないか?)
周りの冒険者の冷やかだったり、軽蔑の視線が俺に突き刺さる。
何もしらない人からしたら、俺が小さな女の子を泣かせた酷い奴だからな.....
というか.....エグいな.....今まで色んなことやり返されたけど、ここまではやられたことなかったな....マジでどうしよう.....このままだと、コイツはヤバい奴だって事で、ポーションを買う人が減るかもしれない.....いや、もう慣れてるから大丈夫か?どちらにしろ、早く対応しないと。
「なに被害者面してんだ。明らかに殺る雰囲気だったから外に出たのに、急に泣き出すとかお前は客引きの詐欺師の姉ちゃんか。」
「は!?貴方何を言ってるの!?」
同じ発音で違う意味......それに加えて比喩の力.....そりゃやかましい声も出るわな。
(残念だったな!言葉遊びは俺の方が1枚上手だ)
「何で事実を言っただけで、そんなに大きな声を出すんだ?この際殺らなくてもいいけど、そんな被害者面されると、引っ掛かるんだけど......」
「...........」
俺が冷静に言葉を続けると、ハナが黙ってしまった。このまま押し切れるな。今回の件は、近いうちにさっさと精算しよう......
「...........」
シカメっ面のハナが俺にジリジリと近づいて来る。
「どうし.......あっ......」
腹部の急所に、尋常じゃない痛みが走る。
(あっ.....これ.....まず......い........)
バタン
〜回想終了〜
「あ〜そういえばハナに殴られて気絶したんだっけ?はぁ.......で、その後の事はさっぱりな訳だけど......というか......」
何で俺は家に戻って来れてんだ?一応金と材料はなんとか手元にあるみたいだけど.....
まぁ、アイツか誰かが教えたんだろう。
「さて、そんな事はさて置き、早速作ってくか。」
昨日、ギルドの受付から受け取ったのは、ペガサスの血。言わずもがな、美しい白鳥の羽を持ち、責任しかない王子が乗っているようなたくましいさと美しさを併せ持つ白馬のことだ。
コイツは魔法を使うための、魔力を多く持っているため、魔法に対する抵抗力がマジでやばい。そのため、本当に魔法殺しによる攻撃が効かない。
ちなみに魔力は血液中に流れているため、ペガサスの血液は、ポーションを作製する際の汎用性が非常に高い。
少量の摂取でバカみたいな量の魔力を回復できる“テラマジックポーション”一時的に外部からの魔法を一切受け付けなくなる、“魔術師殺しのポーション”など、上級ポーションと呼ばれている、かなりの高さと、凄まじい実用性をもつポーションを作る際必須な物だ。
生物学的な何ちゃらで、動物の血を使った方が、水を使った時よりも、ポーションの効き目が良いというのも良くも悪くも証明されてるし。
それに、ペガサスの血液には強い滅菌と防菌作用があるため、飲むだけで大体の病気は治せてしまう。なかなか効能モリモリのありがた〜い血って訳だ。
今更だけど、錬金術師ってのは、魔法や化学なんかを使って、ポーションやらを作る職業だ。
因みに錬金術師と言っても2種類ある。
1つはさっき言った通り、ポーションを作製する専門家的な奴。もう1つは、魔法を使って、気体の分解で水素爆撃や、二酸化炭素による窒息などの、錬金術師特有の知識を利用した、戦闘をするタイプ。この2つに分けられる。
普通は、俺みたいなポーション屋が多いが、この街の錬金術師はポーション屋と、冒険者型を兼業している奴が多いらしい。
多分俺のせいだ。世の中弱肉強食って割り切る事が出来れば良いんだけどな。それができないから困る。
(..........アイツらには後で酒でも奢るか......)
さて。話はズレたが、新しい素材をゲットしたんだ、ポーションを作ろう。
今日作るのは......どうしよっかな.......使い勝手が良くて、金になるポーション......
(ポーション図鑑見るか。)
俺は本棚から、ポーション製作本を取り出し、上級ポーションのページを開く。
ものの見事に必要素材の欄に、ペガサスの血液が書いてあるな。え〜と、今作れて、金になるポーションは......
「う〜ん.....これが1番マシか......」
ページに書いてあるのは、エリクサー。
あらゆる傷を瞬時に治すことが出来、病気もついでのように瞬時に治すことが出来る、上級の中でもトップクラスの汎用性とポテンシャルを持つポーションだ。
しかし、その製作の難易度は、1人の錬金術師が生涯に作れるのはせいぜい1本、と言われているくらいには常軌を逸している。ただ、その分必要な材料は薬草とペガサスの血液、それに加えて氷と、他の、精霊の唾液やら、悪魔の心臓やらのクソ素材に比べて、上級ポーションの中でも非常に手に入りやすい。上に、費用も比べれば全然安い。
早速作ろう、と言いたいところだが、まずは本調子を取り戻すため、ちょっと難しい中級のハイポーションを作ろう。
〈材料〉
・薬草と水=1:2の割合で用意する
・魔物や動物の血を100mlにつき1滴
①薬草を大雑把に切る。この時、ハムの4等分くらいの大きさがベスト。これより大きいと、②の工程で成分があまり出なくなるし、小さすぎると、出過ぎてしまう。程よい大きさが1番だ
②切った薬草を水軽く水で洗い、清潔な水に10分間漬けておく。この作業は確か、薬草を煮出す時にちゃんと成分が出るようにする為の、言わば食材の味を出すための下処理的な奴だ。
③下処理をしながら、鍋に水だけを入れ、沸騰させて、殺菌をする。今回は薬草を500g使うから、蒸発するのも含めて、1.1Lを入れておく。
「リトルファイア」
ボン
グツグツ
④沸騰して10分くらい経ったら殺菌完了。同時進行が楽だ。
そうしたら、鍋の温度が80℃くらいに保つように、温度計で確認して、薬草を入れる。
この時、絶対に気温は70℃ちょいをキープする。薬草を入れて、温度が下がった所が大体70℃ちょいになる様に調整する必要がある。そのための80℃だ。
この作業は、薬草の毒を消す目的と、薬草の、傷を癒す成分を引き出す目的がある。
薬草の毒は熱に弱く、大体70℃から無くなり始め、毒には口や肌に触れると、痺れる成分が入っている。薬草の癒す成分は80℃から無くなり始める。だから70℃ちょいキープで煮るのがベストって訳だ。
薬草の毒は、5℃以下で10時間キープでも消えるが、はっきり言って非常に面倒だ。大人しくセコセコ頑張って調節しよう。
煮詰めて5分後......
⑤全体が透き通った緑色になったら、火を消し、蓋をして粗熱をとる。その間に縦長のフラスコを煮沸消毒をする。
注意:この時のフラスコは、蓋がついている特製のフラスコにする
⑥粗熱が取れたら、縦長のフラスコにポーションを注ぎ、最後に血を一滴加え、軽く振る。最後に入れる事で、血に含まれるDNAが、良い感じに人の血の代わりになって、傷口の成長を早めて塞いでくれる。
⑦完成
「よし。とりあえずハイポーションは10本作れたな。じゃあエリクサーを作るか。ただ、ハイポーションとかなりやり方は違うし、時間もかなりかかるけど。」
〈材料〉
・薬草1kg
・ペガサスの血液500ml
・大量の氷
①薬草を小さく切り刻む。今回はジグソーパズル位の大きさがベストだ。
②ちゃんと煮沸消毒をしたステンレス素材の容器を鍋に入れて、容器の周りに氷と水を入れる。この時、水の温度は2℃〜6℃に保たないと、血の質?が悪くなって、血液自体が使い物にならなくなる。だから保つ様にする訳だけど、問題は、2℃〜6℃にキープするのを12時間しなければいけないという事。
そんなのほぼ無理だ。だから、これを作る錬金術師の大半が、結界魔法を使う。
結界魔法って言うのは、外部からの攻撃から身を守る事に特化した魔法だ。魔法発動中は、対象のものが魔法の薄い壁に囲まれる。
囲まれるって言うのが重要で、工夫すれば中の状況を、多くの魔力を使う事で、一定に保つことが出来る。魔力は存在する概念みたいなもんだから、使いようによっては何でも出来る。
もし、結界魔法を使わない場合は、温度計で測りながら、氷を追加してセコセコ頑張るしか無い。うん、無理。
察したと思うが、上級ポーションを作製するには、錬金術師としての実力や正確さだけじゃなく、ちゃんと魔法を使いこなせる実力もないと。
「スペシャル・リ・テイション」
ボーン
そして半日後にやる③。③の工程は、薬草を成分を出し切った血液をこしてから、12時間ずっと魔力を流し続けなければならない。
これは抜け道は無く、ちゃんと12時間やり続けなければならない。途中で途切れると、また大幅に魔力がどっかに行ってしまう。だから、魔力を回復するマジックポーションも不可欠だ。この作業は、血に魔力を結び付け、血の本来の力を目覚めさせる作業だ。これをやらないと、エリクサーの1000分の1の効果も無い。だとしても、普通のハイポーションくらいはある。
そして、その作業が、終われば、後は専用のフラスコに入れて完成だ。
まぁ専用のフラスコと言っても、結界魔法が施されたクソ高い特注の入れ物の事だけどら、そうでもしないと、万が一落ちて割れたら、気が狂うからな。
察したとは思うが、エリクサーを一般的な錬金術師が生涯に作れるのはせいぜい1本、と言うのは単純に製作がクソ大変だからだ。
だって、一般的な錬金術師は結界魔法なんて使えないから、12時間セコセコやるか、知り合いの魔法使いに頼むかの2択。
それに加えて、12時間魔力を流し続けなければならない。この作業を連続してやらなければならないため、最低作業時間は24時間。魔力を流す作業で途切れてしまったら30時間を超える事もある。
この作業を、集中しながらやる必要がある。そのため、エリクサーを作製した錬金術師は、そのあまりにも苦痛で大変な作業を、“地獄の労働体験”や、“次の日は子供の感性が蘇る儀式”と、称している。
しかし、その分、金は50mlで1000万ゴールドと、ちゃんと高いリターンがある。
しかも、エリクサーは、苦行すぎるため、市場にも殆ど回らないため、場合によっては50ml1500万ゴールドまで上がることもある。
因みに俺がこれを作ってる訳は、この前ユニコーンのツノを丸々1本(1000万)買ってしまったため、非常に金がない。
そしてペガサスの血液は100ml100万ゴールドと、失敗も出来ない。これが失敗したら、結構ヤバい。
「まぁ仕方ないけど......さて、とりあえず今できる事は終わったし、ハイポーションと、ユニコーンのポーション売りに行くか。どうせ片方は売れないけど......というかそろそろ売れて欲しい......」
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