人災錬金術師は金稼ぎに明け暮れる

赤はな

プロローグ「ロクでもない錬金術師」


「よし、行くか。」


 俺は試作品のポーションとパンを幾つか持ち、薄暗い部屋から外に出る。


 外に出ると、散らかっているゴミの山、それを漁っている子供が嫌でも目につく。


(毎回丁度良い所に居るなぁ......)

「よっす君達。」


「「「あ、ディザレント!」」」


 俺が一言呼び掛けると、すぐさま子供が集まってくる。

 今日の人数は3人か、十分だな。


「元気かい?」


「うん、この前あんがと。」

「お陰で助かった。」

「食べ物よこせ。」


「元気そうで何よりだよ〜。そういえば、また新しいポーションを作ったから、試しに飲んでくれないかな?今度は1人3個ずつだよ。」


 俺は子供にパンをチラつかせながらそう言った。

 此処はスラム街、しかも相手はゴミを漁っている子供......返答は1つしかない。


「あぁ!良いぜ!」


 リスクを知らない無垢.....もう今更感が凄い。実際、安全性は最低の最低限あると思う。

 相手も自分にも利点がある。Win-Winってやつだ。最悪は、死んで俺も逮捕されて、lose -loseで地獄行きだけども。


「あっ、ちなみに今回のポーションは、身体の一部を治せるポーションだ。身近な奴に試しても良いけど、飲むのは一口ずつ朝昼晩の3回に分けてで頼む。」


「まかせろ。」

「ためす!ためす!」

「あんがと。」


 ポーションとパンを渡し、子供は元気よく去って行った。

 スラム街の連中は、基本どっかしら身体に問題がある。実際、あの3人も、どこかしら身体の部位が足りない。そんなところにこのポーションだ。しかもただで、パン付き。例えリスクが有ったとしても美味しすぎる話だ。


「さ〜て、そろそろ良い時間かな。」


 俺は首に掛けている時計を確認し、一度家に戻る。そしてある場所へ向かう。



『冒険者ギルド』


 冒険者ギルドって言うのは、美人の姉ちゃん達が、自分の命を賭けた肉体労働を楽観視してるバカに媚び売って戦場に行かせる、ヤベー所だ。ギルドは国とか村とかから、依頼クエストを集め、冒険者に受けさせ手数料で儲けている。それに加えて、クエストを失敗した場合、クエストの報酬の半分の罰金が掛かるクソ仕様。

 しかも判断力を奪うため、酒場も併設されてる。考えれば考える程悪魔的。闇金だって金しか取らない。そう考えると、冒険者ギルドってヤバすぎる。


 ちなみに冒険者っていうのは、ギルドで命掛けの依頼クエストをこなす事で生計を建てているやつの事だ。

 初心者の一回の報酬は、目安として、1万ゴールド(1万円)位。中〜上級者は4万ゴールド位だ。


 因みに、普通冒険者はパーティを4〜6人で1組を作ってクエストを受けるから、1人の手取りは2000〜3000ゴールド位の上に、クエストに必要な武器は、安物で5万、良い感じのやつで10万位だ。


 何度でも言うが1日の手取りは複数クエストを受けたとしても、初心者じゃ1万〜2万位。しかも戦うのは、ちゃんと血を流して苦労するレベルのものばかりだ。


「..........」


 改めて考えると酷いな色々。まぁそんな奴らにポーション売り付けてるんだから悪口もここまでだ。


 入り口のドアに立つと、ギルド内の声が此処まで聞こえてくる。


 俺は勢い良くギルドの押すタイプのドアを蹴り開け、こう叫ぶ


「元気か〜ポーション売りに来たぞ〜」


 俺の呼びかけに反応してギルドの中が一瞬シーンとしたのも束の間、すぐに元の活気を取り戻す。


「げっ、ザレン(ディザレントの略称)が来たぞー!」

「今日はもう無理だな。」

「はぁ.....どっか行ってくれないかな.....」


「錬金術師の方々お疲れ〜昼まで労働とか羨ましいな〜流石っすね〜」


「ふっ、俺らはお前が来る前に最低限売ってんだよ!残念だったな!」


「何が残念なのかさっぱりだな。俺のは別で売れるし。」


「急に口調を戻すなよ。怖いから。」


 俺は、袋に入ったポーションを酒場のテーブルに並べ、少し大きめの声で


「ポーション!ポーションいかがっすかー!初心者からベテランまで!それぞれに適した神ポーションから、冒険の醍醐味をぶっ潰すクソポーションまで!幅広いポーションを取り扱っていますよ〜!効果も自分が確認したものしか置いてありません!いかがですか〜」


 俺が空元気よく客寄せをしていると、そこそこの列が出来た。


「ザレン、このポーションはなんだ?」


「赤色のやつは脳の能力を40%に引き上げるポーションだ。」


「なるほど......説明頼む。」


「脳の能力を上げることで、周囲が遅く感じたり、脳の指令能力も高くなるから、咄嗟の判断も抜群に良くなるし、無駄な動きもなくなる。効果時間は30分。代償として、使った夜に、寝る時間が12時間になるのと、使用後とんでもない息切れになる事くらい。お前みたいなパーティリーダーにこそ向いているポーションと言えるな。」


「なるほど。良いじゃないか。幾らだ?」


「25000ゴールドだ。」


「たけぇよ!」


「かなり高いが、その分効果は騎士団長と、指揮官のお墨付きだ。それに容量的に3回は使えるからな。」


「なるほど。大物相手ならかなり良いかもしれないな。一本頼む。」


「毎度。飲み過ぎると危ないからな。次の方!」


「僕は最近冒険者になった者なのですが......その......安めの魔力を回復できるポーションなんかはありませんか?」


「初めての人かいありがとう。安めのだったら、この青いポーションが良いかな?大容量1リットルタイプで、経口接種ですぐ回復できるぞ。使いたい分だけ別の容器に入れれば長く使えるし、戦闘中邪魔にならない。クエスト後に使うと考えて、50回くらい使えるぞ。お値段6000ゴールドでどうだい?」


(1日に何度もクエストを受けることもあるしそう考えると.....)

「安いですね!お願いします!」


「毎度あり。因みに容器は雑貨屋ヘリヤで買えるし、ポーションの容器は返してくれれば1000ゴールドキャッシュバックするから、うちを利用するんだったら覚えておいた方が良いぞ。」


「はい!ありがとうございました!」


 その後もポーションは売れ続け、


「はい!本日はもう十分売れました!ありがとうございました!」


 持ってきたポーションをほとんど売り切れた。唯一売れ残ったのは、解毒のポーションだけ。

 こいつは解毒の作用が物凄く、あらかじめ飲んでおけば、一時的に毒に非常に強い耐性を持つこともできる。

 デメリットは、強い解毒作用を持つ高級素材のユニコーンのツノをひとつまみ使用してるから、10万ゴールドと非常に高い上、一度きりしか使えないため、イカれてるくらいコスパが悪い。そりゃ誰も買わない。興味本位で作る物じゃない。

 しかも、一部の毒に対しては、ワンちゃん成分的な感じで、爆発する。


(ホント使えねぇなこのポーション。)


 売り切った俺は今日の分の場所代をわたすため、ギルドの受付に向かう。


 今日の売り上げは35万ゴールド。原価は確か15万位だし、利益20万円か。

 ギルドには場所代として、利益の1割を渡すことになっている。


「さ〜せ〜ん。今日の場所代を払いたいんですけど〜」


 俺は受付のちっちゃい姉ちゃんに用件を伝え、利益が入った袋を置く。


「あっ、ザレンさんですね。今日の場所代は幾ら程ですか?」ギュッ


「今日は20万の利益だから2万だな。だからその手を放せ安月給のピンクロリババアが!」


「はい、金貨1枚と銀貨10枚で2万ゴールド丁度ですね。有難う御座います。」ギュッ


 離さねぇ......表情はそのままで力強くすんの怖すぎないか?しかもコイツ140ないのに力は無駄に強いんだよな.....まぁ一旦このままで良いか....


「というかさ。」


「はい?」


「毎回思うんだけど、なんで売り上げを確認しないんだ?」


「どうせ月に何十万も納めてくれるじゃないですか。ちゃんと確認したところで別に私の給料になんら影響しないですし。」


「職務怠慢だな。」


「お金にならない事はしたくないんですよ〜貴方だって、お金のために道徳無くしてるじゃないですか。」


「話がすり替わってる......まぁ良いや。そういえば、あのクエストの結果どうだった?」


「あぁ、あのクエストですね。達成済みですよ。ちょっと待って下さいね。」


ドタバタネコババ


 よし、今のうちに袋を回収だ。


「お待たせしました。これですよ〜って!お金が無い!?私のやつが!?」


「お前のではねぇよ頭ん中スラム。」


「はぁ!?誰が頭の中ぐちゃぐちゃ粘液ですか?」


「スライムじゃなくてスラムだ。とうとう耳までも老化が始まったか行き遅れ。」


「は!?28はまだ行き遅れてませんから!」


「話が進まないから落ち着け。」


「凄い!急にまとも面ですか良いご身分ですねぇ!?」


「み、が1つ足りないぞ!足りないのは女性ホルモンだけにしとけ!」


「上等です!表出ましょうか!」


〈外野〉


「またやってるよ.....」


「受付のハナも少しアレだけど.....ザレンの煽りもエグいわよね.....」


「人のコンプレックスを抉る点ではマジで天才だよな.....」


「流石人災と言われるだけはあるよな。普通あそこまで色々と酷くは出来ないし。」


「はぁ.....明日は来ないと良いわね....」


「ん?なんでだ?」


「見回りの兵士から聞いたんだけど、明日は隣の国の王族が来るらしいわよ。なんでも今後の色々について色々話すらしいし、何やら偵察もするらしいわよ。」


「ふーん。あっ、アイツ余計な事ばっかり起こすから、ワンちゃん王族に.....」


「それは無いとは思うんだけどね......ザレンのポーションは性能が良いし、値段も安めだし、出来れば......」


「まぁ大丈夫だろ!アイツは3日に1回位しか来ないし。」


「そうね。大丈夫よね。」






次の日



「たのもー!」


 皆がクエストを選んでいる昼間に、ギルドに1人の男がきた。


 男は白髪で、不健康な目元を強調するかのような丸メガネ。そして、丸く中身がゆらゆらする赤と青のピアス.....


「「来ちゃったか.....」」




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