父さん、

俺の父さんは無口だ。


俺の名前と、母さんの名前と

「I love you」だけは

毎日欠かさず言うけれど


父さんは

小さな頃に

じいちゃんの仕事の都合で日本に連れられていって

小学生から中学生まで日本で暮らした


引っ越した当時はろくに日本語もできなかった

それで無口になった

今は英語も日本語も話せるけれど

一度無口になった奴は

そう簡単には変わらない

父さんは頑固だし。


と、

俺は思っているのだけれど


父さんに言わせると

無口な理由はもっとシンプルで

「父さんはね、自分の声が嫌いなんだ」

だってさ。


あのさ


それを聞いた時に

俺はさ


「声変わり前の息子に、そんなこと言うか?」

って思ったね。


馬鹿正直にも程がある。


父さんの子供の俺だから、どんどん父さんの声に似ていくはずだ。

何日か前から喉がかすれてるから、もしかしたら、早ければ、明日にでも。


まあ俺は

気にしないけど

たとえば同じクラスのジェンが

父親にあんなこと言われたら

ナイーヴなあいつは

悩むだろうな


なあ、父さん、

「Good night」って

掠れた声で俺が言ったら


静かに笑って

「Good night, I love you」

って言ったけど


もし

明日の朝

俺が

父さんにそっくりの声で


「Good morning」


って言ったとしたら


あんたは、どんな顔をするんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕の声が嫌いだ 三波 雪 @melodyflag5

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る