僕の声が嫌いだ
三波 雪
余命
僕は僕の声が嫌いだ
理由なんて知らない
いつからかなんて
覚えてもいない
小学2年生の頃にはもう
「無口なやつ」
と認識されていた、と思う
とにかく静かにしていたかった
風の音
葉と葉が擦れる音
海の波の音
同級生同士の笑い声
パリパリとした何かの咀嚼音
蜜蜂の羽音
様々な靴音
ブランコの鎖が揺れる音
ギター、ピアノ、ヴァイオリン、
ハープ、ドラム、カスタネット
響く歌声
家を建てる音
赤ん坊の声
世界は
楽しそうな音で溢れているから
(それだけではないことは、とっくに知っているけれど、幸いにも、とにかく僕の世界では)
邪魔をしたくなかった
静かに居たかったんだ
だから声を出さなくても生活できる仕事を選んだし。
だけど
僕
不思議なことに
守りたいひとに出会った
守りたいひとも産まれた
ふたりを守るためになら
僕の声が嫌い、なんて、瑣末なことにできる
だから今は声を出している
だいすきだよと
少しだけ震える時もあるけれど
毎日、毎日。
それでもいつか
きみが
きみたちが
僕の声が嫌いだと
言う日が来たとしたら
その日が、
僕の声の命日だ。
その日からは、黙って、笑って、許されるならばただ隣にいるんだ。
そう決めている。
そう決めていて
だから安心して僕は
今日も
きみたちの名前を呼ぶ
きみたちは
今日も
この世で一番美しい声で
僕に返事をしてくれる
ただそれだけのことで
僕の嫌いな声の余命など
どうだって良いんだ。
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