第5話 カッターナイフは悪くない
もう八年程前の話になるのだが、会社に何やら危ない奴が入社してきたことがあり、何やらブツブツ独り言を呟いたり、自動販売機を足蹴にしたり、残業が多いと、労働基準監督署に訴えるぞとキレたりの、かなりのヤバイ系で、周りの人たちは首にしたほうがいいと何度も助言していたにも関わらず、人が少ない理由で残されていた(ひどい話だ)カスみたいな理由に思わず天井を仰いだ。危険極まりない奴だから外した方がいいと伝えてあるのに…「人がいないから仕方ないんだよ」苛立ちの滲む声で言われたが、苛立っているのはコッチだ!変に強い感情をぶつけられて無駄にエネルギーを消耗する。どうしょうもないなとため息をついてしまう。この時点で、なんとなくというか、かなり嫌な予感はしていたが、それは見事に的中してしまう。未明の朝、この男はカッターナイフから刃をチキチキと出して、親会社の人に「刺すぞー」と脅したらしい。重松清さんの『ナイフ』を軽く上回る驚愕な展開である。周りの人たちに取り押さえられて、会社に出入り禁止となった。履歴書の顔写真を大きく印刷し、警務室に貼り付けた。まるで容疑者扱いである。まあここまでされて当然といえば当然なのであるが、翌日に、会社の現場全体にカッターナイフ禁止令が施されたのには、開いた口が塞がらなかった。なんで? カッターナイフは悪くないやん。使用した奴がバカなだけで… 確かに危険と言われれば危険かも知れないが、なんなら三角定規とかでも危険なわけやし、ジェイソン・ボーンみたいにボールペンを武器に使う人だっている。今回はサイコパスがカッターナイフを使用して人を脅したからカッターナイフ禁止にしたんだと言うならあまりに安易すぎて、ため息しか出ない。カッターナイフをこまめに使用する者からすれば不便極まりない。物事を飛躍させすぎなのだ。被害者というか脅されただけで刺されてない人が、カッターナイフを全処分せよと言ったのか知らないが、それって、早い話私達も疑われていることになるからね。大体カッターナイフを無くしたくらいで根本的な問題は解決しないのだ。だって肝心のサイコパスは警察に補導されることもなく、出禁になっただけで、そのへん近辺をウロウロしているのだから。例えばサイコパスがコンパス突き刺すぞと脅されたら、コンパスを使用不可にするのか? トンカチで殴るぞと言われたらトンカチを処分するのか?処分すべきはサイコパスであって、凶器ではない。OLFAの社員からカッターナイフを侮辱するなと訴えられても何ら不思議でない。挙げ句に安全性のある新型カッターナイフを用意して、これからはこれを使用するようにと、理由のわからない妥協案を出してきた。クリーム色の見るからに高級そうなカッターナイフを一人に一つずつ配る。『高いんだから無くすなよ』知らんがな(笑)勝手に用意しといて何という言い草。勝手に使いやすいカッターナイフを処分して、使いにくいカッターナイフを用意して高級だから大事に使えときたもんだ。誰のせいやねん。此処にいる皆は無実やからね。カッターナイフも然り。それが八年経過した今でも使われているのである。誠に恐ろしい話である(笑)
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