第3話少額生

もう10年以上も前で、時効の話なのだが、かつて出戻りでウチの会社にいた人で、S田さんて人がいた当時御年55歳。この方がまた、言っちゃあ何なんですが、出戻りの割に恐ろしく仕事が出来ない。そんなこんなで、窓ぎわのトットちゃん的な職場に置かれるも、金の無駄だと、当時の上司が、辞めさせるために、追い込みを仕掛けていた。で、S田さんは苦労してるのか、年齢よりもかなり老けてみえた。独身かなと思っていたが、娘さんが三人いる大家族である。なら尚更頑張れよと言いたいところだが、やる気はあるけん身体がついてこん的なユンケルのCMを彷彿させる状態なのだろうと勝手に認識していた。で、今まで我慢に我慢を重ねてきた上司がいよいよS田さんに、最後通告をする日がやってきて、とことん抵抗するのかと思いきや、あっさりと身を引いて退職をすることになった。S田さんは、唯一仲良くしていたY村くん(当時24歳)を呼びつけて、今まで仲良くしてくれてありがとうと御礼を言った。『Y村くんには本当に本当にお世話になりました。こんなお爺さんやけど、仲良くしてくれて本当にありがとう、これ餞別というか、つまらないものやし、少なくて恥ずかしいけど受け取って…』と出されたものが、裸のままの小銭250円である(笑)いや、笑っちゃいけないんだけどね(笑)しかし、ワンコインよりも少なくて、3COINSでも何も買えない(笑)だったら壱万円とか高額だったらいいのか?と言われるとそういうことでもない。しかし重い言葉で託されたのが250円…これがもしかしたらS田さんの全財産かも知れない。250円だけど(笑)餞別で受け取った250円は、コンビニでお高めのカップラーメンを買えば瞬殺だし、少年ジャンプは買えない。コンビニでカップラーメン食べながら『S田さん…』とか過去の色んな出来事を思い出してたら余りに切なすぎるだろ(笑)非常に重たい250円である(いったい何回言わせる気なのか(笑))で、実を言うと私はこの現場を見てなくて、この話をY村から直接聞いた。深刻な表情の彼は、S田さんから餞別をもらいましたと裸のままの250円を見せてきた。『僕はどうしたらいいんですか?』知らんがな(笑)好きなもの買ったらええやん。本人もそのつもりで渡してるんやし、『この250円が、僕にとってめっちゃ重いんです。サファイアやダイヤモンドより』明らかにサファイアやダイヤモンドの価値を知らん奴が、比較の対象に口にすな!つか250円は、何がどうあれ250円や!マイケル・ジャクソンが遺族の為に残した250円で無い限りわな!(もし、それが証明されたら、250円やない、推定2億5000万や)おーくせんまん!おーくせんまん!や(笑)そんな重いなら返せや(そんときに)貰ってから、これ、めっちゃ重いすわ、どうしましょう?知らんがな(笑)自ら浴びた銃口を俺に向けるな(笑)深刻そうな顔を見れば見るほど浅はかな正義感を浴びせられているかのようで、ムカつきが治まらない。だいたい貰った金額を俺に言う必要もないしね(笑)もう250円が頭から離れんわ(笑)使えないなら使えないで、寄付するか隠すか捨てるか届けるか埋めるかしたら良い。単にお爺さんの世話を僕が一生懸命した結果がこれですよと俺に言う軽っぽさが、ゆとりの所以だなと思ったし、自慢したいのか馬鹿にしたいのか狙いすらもわからない。呪術廻戦の夜蛾正道学長が、楽巌寺嘉伸に呪いの言葉を吐いた瞬間を思い出す。呪いを連鎖させたいだけなのかと。これから妻に『今日の小遣いは250円よ』と言われるたびにうなされなければならないのか(笑)250円が…250円がああああ アホか(笑)いったいこの話だけで何回250円と言わせる気なのか(笑)まるで茶番のようなしょうもない滑る話に付き合わされて、挙げ句に250円が貞子の呪いのように感じてしまう。いったい俺に何をさせたいのだ。これならまだ『S田さん、辞めることになって、僕に世話になったからと金をくれたんですけどたった250円ですよ。こんなん今どき牛丼も食べれないですよ』と爆笑しながら言ってくれた方が救われる(それもそれで酷い話なんだけどね)で、俺も少なからず、S田さんとは絡んでいたし、そこそこ仲良くはしていたと思うのに、何でY村に250円渡して、俺にはくれへんの?というシャボン玉より軽い嫉妬心は、聞かされて芽生えていたんだけどね。まあそれがもしY村より少ない150円とかならかなり悲しいけど(笑)人間の価値はお金じゃないんだけどさ(笑)こいつは250円を渡すに値しないレッテルを貼られたことにはちょびっとだけムカついた(笑)

で、お次は、このY村の話。ウチの元課長は、辞めたいという社員がいたら、すかさず80円のフルーツオレを買ってきて個室に呼び出し、『お前辞めるとか言うなよ〜頑張れよ〜』と引き止め工作にかかる癖を持っていた(癖と言うのか?)まあ変癖である。だいたい辞めたい奴らも死ぬまでにフルーツオレが飲みたいなんて一言も言ってないのに、こちらの好みも聞かずしてフルーツオレである。缶コーヒーよりも安く済ませようというセコい魂胆まるわかりである。しかもろくに現場に来ないで、あいつ辞めたいとか言ってるらしいんですよ〜という噂話を聞きつけて、仕事できるできない関係無しにフルーツオレを買ってきて『お前辞めるとか言うなよ〜頑張れよ〜』と同じ言葉を延々浴びせるだけである。語彙力がないとかそんなレベルじゃない。普通に引き止め工作を行うならば、そいつの取り柄なり長所なりを言って、辞められたら困る的なノリで話せばいいのに、辞めるとか言うなよ〜頑張れよ〜を延々と連呼されて、いったい誰が考え直すと言うのか?しかし以前に同僚のTくんが辞めたいと言ったとき、またも課長がフルーツオレを買ってきて個室に呼びつけてお前辞めるとか言うなよ〜頑張れよ〜とセコい引き止め工作を講じた後、何故かその後、俺を呼びつけて、『Tの奴な、辞める言うてたけど、俺がよーく説得したら考え直してくれた』はあ?フルーツオレと辞めるなよ~頑張れよ〜で辞めるのをやめた?最初から辞める気無かったん違うんか?『しかもな、あいつ、涙ぐんでたぞ〜』てか何でそれを俺に言う?ホンマに泣いてたのかは知らんけど、完全にディスってるやん(笑)あるいは俺の感動的な話で人を泣かせたというのを他人に言いたいほどナルシストなのか?普通に俺の話を聞いてアイツ泣いてたぞ〜なんて小学生でも言わないと思う(笑)聞かされる身にもなって欲しい。で、暫くしてY村が辞めたいと言ってきたときに、またも課長がやって来た。脳内は踊る大捜査線の室井さんのテーマである。片手にはしっかりフルーツオレを持っている(笑)『お前、ちょっっと来い!』でたー!必殺引き止め仕置き人。キョトンとしつつ、課長についていくY村。『お前、これでも飲めー』差し出されるフルーツオレ。『お前辞めるとか言うなよ〜頑張れよ〜』海援隊の歌詞に出てきそうな言葉の羅列を繰り返す課長。Y村は少しの間、課長を凝視して、『課長…』と呟いた。『ん?なんや?どないした?考え直してくれんのか?』問い詰める課長。『あの、首に醤油ついてますよ…』『へ?』固まる課長。どうやら課長が着ていた白地のタートルネックのシャツに、何かをこぼしたのか醤油の染みが付いていたらしい。辞めるのを引き止めようとする人に対して、服の染みを指摘する若者(笑)どうでしょ?この間口の広さと言うか温度差は(笑)まあ笑っちゃいけないとこなんだけど。結果として、Y村は辞めることになり辞めたし、今回の件がよっぽど堪えたのか、課長の必殺引き止め仕置き人は、このあと完全に消滅した(笑)誤解を恐れずに言わせていただくと、控えめに言って、ただただザマーミロである(悪い奴やな〜)ちなみに課長の戦績は1勝9敗である(笑)ユニクロの柳井正氏か(笑)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る