כה

 オレが飛ばされた先。そこには鏡があった。水の鏡。垂直に、どこどこまでも続く壁のように聳えし水鏡。その先にミカが、ベルがいると、オレには感じ取れた。理屈ではなかった。理屈でなく、それが判った。だからオレは、その鏡の前に立った。

 鏡の向こうに、“私”が映る。てのひらを見る。赤い、赤い、己の手。その手をオレは、“私”に伸ばした。力を込めて、“私”を押す。鏡が歪んだ。鏡の向こうの“私”も歪んだ。泣きじゃくるように顔を歪め、滲んだ赤が向こうへ達した。それでもオレは力を緩めず、鏡を、“私”を、押し続けた。触手のように伸びゆく赤が、鏡のすべてを染め上げた。

 甲高な音を立て、赤い鏡が割れ砕ける。そこにはもう、“私”はいなかった。

 “私”のいなくなった鏡の向こうへ手を伸ばし、そうしてオレは、落ちていった。「助けるんだ」とつぶやきながら身を投げ出して、ミカの埋まった穴の底へと落ちていった。

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