19話 ポンコツ?な弥生

 とりあえず、パーティー装飾が買えるような装飾品店のブースに足を運んだ俺たち。

 飾りつけのイメージを頭の中で育てるために、一度店内を一周してみることにした。


 しかし家で結婚式をするということ自体、もはや前代未聞。

 置いてある品物もパーティー装飾がメインのため、なかなか合いそうな装飾が見つからない。

 かろうじて披露宴では使えそうなものがいくつかあったが、結婚式で使えそうな装飾はほとんどなく、俺は一人頭を悩ませていた。


「なんかいいものはあったか?」


 店内に入ってからここまで一度も言葉を交わしていなかったことを思い出して、隣にいる弥生に声をかけてみる。

 見ると彼女はどこの何を見ているわけでもなく、ただくうを一点、ものすごく渋い顔つきで見つめていた。


「……大丈夫か?」


 あまりにも眉間にしわが寄っていたものだから、こちらも思わず苦笑してしまう。


 笑顔や怒っている顔はもちろん、涙を流す姿まで絵になってしまうほどの美貌の持ち主である弥生。

 そんな彼女がここまで美貌を崩している姿は今まで見たことがなかったため、余計に口角が上がってしまった。


「……なに笑ってるの」


 対して弥生はそんな状況じゃない様子。

 よほど絵やその他芸術的センスが皆無らしい。


 それも含めて、愛らしかった。


 とりあえず、ごめんごめんと謝っておく。


「っていうか、まず弥生は結婚式に行ったことはあるのか?」

「CMとかでイメージを見たくらいで、行ったことはない。朝陽君はあるの?」

「前の母さんに弟がいて、その人の結婚式に行ったことはある。と言ってもその時は俺もまだ小さかったから、あんまり覚えてないんだけどな」

「なんというか、絶望的だね……」


 二人とも結婚式の土台がほとんどなく、その上芸術的センスも皆無。

 一瞬ネットに頼ることも考えそうになったが、せっかく家族で結婚式をするんだからそれに頼りたくない気持ちもあった。


「……とりあえず、結婚式のイメージを考えてみよう。披露宴はある程度イメージできたから、結婚式の方な」

「す、すごいね」

「じゃあ例えば、結婚式にはどんな色のイメージがある?」

「えーっと……」


 問いかけると、弥生は数秒間じっくり考えて。


「……赤?」

「ん?」

「とか、緑、とか?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 俺のイメージしていた色とかけ離れすぎていて、思わず待ったをかけてしまう。


「な、なに?」

「赤とか緑は、どっちかと言うと披露宴のイメージじゃないか?」

「え、そうなの?」

「あんまり彩度の高い色だと、俺の結婚式のイメージとは離れちゃうな。披露宴もそうだけど」


 結婚式は、よく教会やなんかで静かに行われる気がする。

 対して披露宴は、ホテルの一室を借りて華々しく行われるイメージだ。

 そして結婚式と披露宴に通じて、主に白を混ぜた柔らかい色を見る気がする。


 細かいところは世間のイメージと相違があるかもしれないが、大体あってるよな……?


「そ、そうなんだ。だったら……黒?」

「それだと葬式みたいになっちゃうんじゃないか?」

「そ、そっか……」


「…………」

「…………」


「……弥生」

「は、はい」

「もしかしなくても、ポンコツ?」

「だからさっき言ったでしょ! 絵とかは苦手なんだって!」


 顔を真っ赤にして怒る弥生。


 いや、これは絵がどうこうとかそういう問題じゃないと思うんだが。

 弥生が見ていたCMは、本当に結婚式のやつだったのだろうか。


「でもそれじゃあ、あと思いつく色は白くらいしか……」

「いいんじゃないか? 俺のイメージも白を基調とした柔らかい雰囲気の色だし」

「そうなんだ。……確かに、言われてみればあのCMもそんな感じの色合いだったかも」

「本当か?」

「なに、疑ってるの?」

「そういうわけじゃないけど……」


 だって、さっき弥生の言った色が色だからな……。

 そう思ったのだが、段々と彼女が不機嫌になってきている気がするので口には出さないでおこう。


「結婚式は白めの造花をたくさん買って、それを飾ればいいんじゃないか?」

「あっ、確かに。お花ってイメージだもんね」

「ざっくりしてるなぁ」

「そしたら、手芸用品店なんかで白い布生地とかも買ってく? 何かと使えそうじゃない?」

「いいかもしれないな。バックに天井から脇にかけて垂らせばそれっぽくなりそう」

「それだったら、カーテンを白いものにした方が感じ出る気がする。いい感じにしわも付きそうだし」

「確かに――」


 そんなこんなで、少し会話を交わせば一気に結婚式のイメージができるようになった。

 弥生もセンスが皆無というほどではなく、俺が少し例を挙げれば様々な案を出してくれるようになった。

 俺の披露宴のイメージにまで口を出してくれたほどだ。


 彼女が思ったよりも、彼女に苦手なことはないのかもしれない。

 芸術的センスも最初はボロボロだったが、少しイメージできればそこからは人並み以上のセンスを見せてくれた。


 もっと言えば、もともと苦手だと言っていた勉強だって克服できているし、料理だって少し教わればすぐにできるようになるだろう。

 片付けだって、さわりが分かれば克服できそうなくらい今の彼女はとても頼もしかった。


 店を出る頃には、彼女の入る前の不安げな表情がかけらも見当たらなかった。

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