第50話 今晩はお楽しみでしたね

 Tホークを披露し、ミーニャが一通り楽しんでくれた所でアストレアがデザートを手にやって来た。


「今日のデザートはハニーリボンチーズアイスクリーム、ショコラ、トリプルベリーソースのパンケーキでございます」


 つい、とテーブルに置かれた大きめの白い皿の上には、アイスクリームとチョコレート、可愛らしくデコレーションされたパンケーキが乗っている。

 甘い香りがふわりとただよい、それを嗅ぐだけで幸せな気分になれる。

 そんな幸せたっぷりのデザートを堪能し、いよいよお別れの時間になってしまった。


「今日はありがとうございました!」

「こちらこそ、楽しかった」

「私もです。あの、よければまたお会い出来ますか?」

「よろこんで。俺、こっちに来て友達いないからいつでも誘ってほしいな」

「わかりました! またホークちゃんと遊ばせてくださいね!」

「もちろんだよ」


 テラス前でそんな会話をすると、ミーニャが手を差し出してきた。

 きっとお別れの握手だろう。

 俺は急いで掌を腰でごしごしと擦り、その小さな手をそっと握り返した。


「それじゃ……おやすみなさい」

「うん。おやすみ」


 ミーニャは少し名残惜しそうな表情を浮かべたがすぐに笑顔に変わり、小さく手を振りながら去って行った。


「あ……」

 

 豊かな毛量の尻尾をゆっくりと振って去っていくミーニャの背に向けて、無意識に手が上がる。

 本当はもう少し話していたかったが、明日はミーニャも仕事があるだろうし、長く引き止めるのもよくない。

 

「……楽しかったな」


 伸ばした手を下ろし、ぽつりと呟く。

 魔王城に来てから仕事続きで交友関係なんかも薄かった俺に取って、今日の出来事はとても楽しかったのだ。

 それはもう、胸がドキドキと高鳴るくらいには楽しかった。

 

(また……か。今度は俺から誘ってみる、べきだよな)


 この高鳴りが恋なのかどうかはまだ分からないけど、ミーニャは気さくでとても優しい女性だった。

 今度は近くの街にでも出かけてみたいな。

 そんな事を思いながら俺は自室へと帰ったのだった。

 自室に帰り、着慣れない服を脱いでランドリーボックスに放り込む。

 ランドリーボックスにはそれなりに洗濯物が溜まっているが、明日あたりにはリネン係の人が回収に来てくれるだろう。

 リネンの回収は週に一度ボックスごと回収され、地下の洗濯場にて洗い上げられて翌日には戻ってくる。

 

「ふう……」


 部屋着に着替え、水をいっきに飲み干してため息を吐く。

 久しぶりに飲んだアルコールで喉が渇く。

 そして未だ高揚感が消えてくれず、このままでは眠りにつくのも難しい。

 窓を開けるとやや肌寒い風が舞い込んで部屋の中を踊るが、火照った体にはちょうどいい温度だ。

 遠くには街の明かりがいくつも輝き、空にも無数の星が輝いていた。

 ミーニャも同じように空を見上げていたらいいなぁ、なんて柄にもないロマンチックな事を考えてしまい、俺は自嘲気味に小さく笑った。

 明日の現場はクレイモアの所だ。

 この前介入した戦争は未だ続いている。

 一度は虎蜘蛛側が優勢だったのだが、敵側の大規模術式にはまり、戦況が覆されてしまった。

 今は膠着状態で双方睨みを利かせているようだ。

 

「しばらくは寝れなそうだし、敵情視察でもしますかね」


 ブルーリバー皇国軍を見つけた時と同じ無人機を召喚し、目的地へと飛ばす。

 

「あぁ、ついでにブルーリバー軍がちゃんと撤退してるかも見ないとな」


 あれ以来ブルーリバー軍の動きは聞いていないので、大人しく帰ったとは思うけど念のためだ。

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