第49話 魔王クレアの場合

 我はクレア、魔王じゃ。

 今はクロードの初デートの様子を特等席で鑑賞中じゃ。

 クロードは知らん事じゃがあやつ、城の中ではアレで結構モテているという話を聞いた事があった。

 ホンマかいなと疑った時もあったのじゃが、事実らしい。

 モテてるというより、物珍しさから来る話題の男といった感じじゃがな。

 四天王やクレイモア達のわがままで分割異動などという、異例の配置をされたり――まぁこれは我の決断によるものじゃが――エイブラムスで城の外壁を打ち抜いたり、兵達をチヌークとやらで大量に運んだりと何かと話題性に事欠かぬ男じゃからな。

 クロードが通常のモンスター以外に異世界のモンスターを召喚できるという突拍子もない話や、仕事一辺倒で休みの日は自室に篭るか散歩をしているだけゆえ、目立った友人関係というのがない事も、クロードのミステリアスさを引き立てておるのじゃろう。

 魔族は強い者に惹かれる傾向がある、が、もちろんそれ以外の要因で惹かれ合う者達もおる。

 城内を歩いていると、女子達の間でクロードの噂話が話題になっているのも耳にした。

 可愛く言うと「クロードさんてどんな人なのかなぁ? ワクワク! 一回お話ししてみたいなぁ! うふふ!」と言ったところか。

 まぁ何にせよ、城の女子達にはあまり浮いた話がないゆえにワイバーンで魔界に突撃してきた新参者という話だけでも話題の種になる。

 偶然とはいえ、そんなクロードと接触したあのミーニャはすぐさま取得物の礼として食事に誘った。

その行動力の速さは賞賛に値するものじゃな。

さすがは配送係、速さには定評があるのう。

クロードに関しては一抹の不安材料があるにはあるが、我の城に来たからには充足した日々を送ってもらいたいものじゃ。


「凄い! 予備動作無しで飛び上がるなんて!」


 目の前ではいい感じになった二人が食事の手を止めて、クロードの召喚した異世界のモンスターを愛でておる。

 てぃーほーく、とか言うたかの、偵察やら監視やらが出来るという話じゃが中々どうして、奇妙なフォルムをしておるが愛くるしく見えるものじゃな。


(凄いのぅ、我も触りたいのぅ)

(クレア様シッ!)

(ぬ、すまぬ)


 ぐぬ、つい言葉が漏れてしまった。

 我の横にいるのはカルディオール、こやつが一番このデートを楽しみにしておったからな。

 きっとクロードとミーニャの様子を話のタネに、サキュバス共と一杯やるのじゃろうな。

 よし、我も混ぜてもらおう。

 飲みニケーションというやつじゃ。

 しかしながら……偵察に監視、か……一度クロードから話を聞いて、どんなモンスターを召喚出来るのか、リストを作るのもアリじゃな。

 魔族には空を飛べる種族も多数存在するのじゃが、我が魔王軍は空の戦いが得意ではない。

 有翼種の兵が少ない事が原因なのじゃが……それもクロードの協力があれば解決の道も見えよう。

 テイル王国がもし、もっとクロードへの対応をしっかりと行い、あらゆる方向から色々な策を講じていたのなら……人界の覇者はテイル王国にあったであろうな。

 かの国とは何度か交戦した事はあるが、モンスター頼りの節があり、兵達の練度は高いとは言えんかった。

 使役しているモンスター達も下位のモンスターばかりじゃったからの。

 そうじゃ、グリフォンじゃ。

 確かテイル王国ではグリフォンの空戦部隊がおったな。

 明日あたり一頭貸してもらおうかの、グリフォンの背に乗って空の旅に興じるとしよう。


「あっごめん」

「い、いえ、大丈夫、ですよ」


 ぬ? 何やらクロードとミーニャの手が偶然重なったようじゃの、何をしておる! しっかと握りしめんか! 

 あぁもう! 

 二人して赤ら顔か! くうう! もどかしいのう! 


(いけ! そこじゃ! 手をギュッと!)

(クレア様シッ! いい感じなんですから!)

(ぬううう! はよチューせんか!)

(気が早いですよ、あのクロードがそんな事出来るわけないじゃないですか)

(そうよなぁ、我もした事ない)

(クレア様も早く彼氏作りましょ? 合コン行きます?)

(ぬう、少し興味はある)

(! わかりました! セッティングします!)


 カルディオールめ何やら気合が入っておるようじゃが……この我のつがいは我を下した者のみよ。

 それ以外に……まぁ、あるやもしれんが、正直男との関わりが薄い我にとってそういう経験は皆無に等しいからの。

 自分の恋愛観がよう分からん。

 他人の色恋を見るのは好きじゃが体験した事がないからのう。

 はぁ、クロードめ、なぜ手を離すのだ……。

 ブレイブもちょっとがっかりしておるではないか。

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