第48話 ピクシーダンス
「そんな事があったんですね……ひどい方です。人界はみなそうなのでしょうか」
「うーん……どうかなぁ、他の国の軍部はブルーリバーしか知らないし、知ったと言ってもホルンストという一個人の考えだけだ。それだけで全てを判断するのは難しいね」
「そうですよね……」
「ミーニャは人間の事をどう思っているんだ?」
「どう、とは?」
「ほら、弱いくせによく吠えるとかさ」
「あー、うーん、どうでしょう。私の出身は北にあるのですが、そこ人間がくることはないんです。ドがつくほどの田舎ですからね。だから正直可も無く不可も無く、といった所でしょうか」
「魔界は広いもんな。そういう事もあるか」
「私の出身は雪国で、これといった娯楽もない、平々凡々とした村でした。とっても綺麗なんですよ? あたり一面銀雪に覆われて、そこで入る温泉なんてそれはもう格別なんです」
「雪かあ、見た事ないなぁ」
「そうなんですか!? じゃあ今度私の村に来てください。案内しますよ!」
「あはは! 機会があったらお願いしようかな」
「はい、ぜひ!」
ミーニャはワンピースから突き出した尻尾をふりふりと揺らし、とても楽しそうだ。
クロードも朗らかに笑っている。
あんな顔を見るのは初めてだな。
人事ながら私も嬉しくなってしまう。
そんな二人の光景を、ハイドで隠れたみんなも同じように眺めて、思い思いの感情を抱いているのだろう。
きっとクレア様はハンカチを噛みしめて涙を浮かべていることだろう。
あの人は変に涙もろいところがあるからな。
ここに誰が来ているかは分からないが、確実にゴリアテとカルディオールはいる。
クレイモアはどうか分からんな、あやつは色恋よりも戦時訓練の方が性に合っていると言っていたし。
姉であるクレア様とは真逆の趣味をしているな。
ちなみにここの金木犀達はゴリアテが人界から仕入れた種を栽培し、試験的に植え込みとして使っている。
幾度となく嗅ぐが、金木犀の香りはとても良いものだ。
二人のいい感じの空気にも、金木犀はきっと役立っているはずだ。
夕日は沈み、青と黒が混じり合った空に星の煌めきと月の姿が浮かぶ。
料理も四種目に入っており、クロードの緊張もだいぶ解れているようだ。
「あの、お聞きしてもいいですか?」
「ん?」
「クロードさんは異世界のモンスターも召喚できるともっぱらの噂なのですが……」
「本当だよ」
「おおー! み、みたいです!」
「みたいって……うーん……」
「駄目なんですか?」
「駄目ではないけど、可愛らしいもんじゃないよ?」
「構いません! 異世界のモンスターがどのような姿形なのかが気になって……話には聞いているんですよ? エイブラなんとかが魔王城の外壁をぶち抜いたとか、魔王軍の部隊をそっくりそのまま遠い場所へ運んだとか」
「あー……はは……うーん、小型……小型……何かあるかな……」
目をキラキラさせてせがむミーニャは子供のようで、クロードもせがまれて満更ではない様子。
だがクロードは頭を傾げ、何か悩んでいるようだった。
そして何か閃いたように顔を上げた。
「じゃあ小さいのを」
「やった! ありがとうございます!」
「サモン:RQ-16 Tホーク」
クロードが床に手を向けると、小さな魔法陣が浮かび上がり、せりあがるようにソレは姿を現した。
「これは……?」
「Tホークって言ってね、攻撃能力はないけど偵察とか監視とかをメインにしてる無人機だよ」
「へぇー……小さい子なのに凄いですね。まだ赤ちゃんですか?」
「赤ちゃん……いや、これはこのサイズが、うん、まぁ大人かな」
「ちょっと大きなピクシーのようですね。かわいいです! 触ってもいいですか? 噛みませんか?」
「大丈夫だよ、噛まない噛まない」
「わあい! こんにちはホークちゃん、いいこいいこ」
ミーニャは椅子から降り、クロードの召喚したホークなるモンスターの頭部を優しく撫でる。
撫でられても微動だにしない所をみると、しっかりと教育されているようだ。
少し変わった見た目ではあるが、見ているとなんとなく愛着が湧いてきそうなフォルムをしている。
あれがペットではなく、監視や偵察を担うというのだから侮れない。
「飛ばしてみようか」
クロードが指を弾くとホークは僅かに動き、そのままゆっくりと上昇を始めた。
「凄い! 予備動作無しで飛び上がるなんて!」
ホークはミーニャの頭上まであがり、その場でくるくると旋回を始めた。
まるでダンスをしているピクシーのようにも思える。
(凄いのう、我も触りたいのう)
(クレア様シッ!)
(ぬ、すまぬ)
私のすぐ横でクレア様のお声が聞こえた。
まさか横にいるとは思わず、私も少し驚いてしまった。
確かにクレア様のいうこともわかる。
是非とも触ってみたいものだ。
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