第41話 相いれない理由

「クロード・ラスト以下三名、只今帰投しました」

「うむ。ご苦労じゃった」


 カイオワで魔王城に帰投した俺達は、すぐにクレアの元を訪れて細かい報告を行った。


「探し物はクロじゃったか」

「はい」

「にしてもブルーリバーめ。というよりそのホルンストとかいう男じゃな。我が魔族を愚弄しおってからに」


 クレアはホルンストが言った言葉にだいぶご立腹な様子。

 そりゃ薄汚いだの畜生だのと言われたら誰だって怒るよなぁ。

 そういえば俺がテイル王国にいた時も、似たような事言われてたな。

 そうだよ。

 普通は怒ってしかるべきなのに、あの時はただ愛想笑いで誤魔化すくらいしかしてなかった。

 慣れって怖い。

 俺はその時素直にそう思った。


「今更な事聞いてもいいですか?」

「む? なんじゃ、申してみぃ」

「どうして魔族は人間から毛嫌いされているのですか?」


 根本的な原因、魔族が人間の敵だという大前提、戦争が絶えない理由、対立する源。

 それが分かれば何かしらの道が生まれるとは思うのだけど……。


「知らん」

「そ、そうですか」

「なぜ我らがそんな細かい事を気にしなければならんのじゃ。人間の行動理由なんぞ興味もないわ」

「でもそれじゃ争いが続くだけじゃ……」

「それのどこが悪いのじゃ?」


 あーそうだ。

 魔族は戦いヒャッハーだった。

 争う事に忌避感を抱かないし、むしろ喜んで参加するような生き物だった。

 そしてこの時、人間と魔族は絶対に相容れないのだと悟った瞬間だった。

 人間は争いに理由を付ける。

 理由なき暴力は悪だと思っているからだ。

 だが魔族は争いが好きだ。

 理由も些細な事だったり、理由も無いのに争いを楽しむ。

 目が合ったから、という理由だけで戦争をおっぱじめるヤンキーみたいな種族もいる。

 魔族にとって暴力とはコミュニケーションの一つであり、争いは祭りでありスポーツと同じような意味合いなのだ。

 分かり合えるわけがない。

 あぁ、だから人間は魔族を悪だと言うのか。

 人間には理解出来ない、相容れない存在を悪とし、嫌悪する風習があるしな。

 けどこうして一歩歩み寄れば人間なんかよりよっぽどマシな気がするけどな。

 それともこれも、狡猾な魔王クレアの策略なのだろうか。

 だとすれば俺はまんまとクレアの智謀に踊らされているということになるけど……別にいいよな。

 こんだけ高待遇なんだから踊らされてて充分結構だ。

 週休完全二日制、有給手当に残業手当、福利厚生もバッチリで、なんなら残業すら無いこの職場のどこに文句をつけようというのだ。

 いや無い。

 あるはずが無い。

 なんなら一生踊らせてくれって話だ。

 サリアやダレク、カレンを見る限り本気でクレアに忠誠を誓っているみたいだし、魔王城にいるどの魔族を見ても演技をしているふうには見えない。

 これが策謀だというなら、俺一人に対して規模がデカすぎるだろうに。


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