第42話 出会い
「クロの行動は別に咎めはせん。むしろ良くやった。褒めてつかわす」
「あ、ありがとうございます?」
「これでブルーリバー皇国が憤怒に任せて我らに殴り込みをかけるというなら……それもまた一興。全力で受けて立ち、正々堂々叩き潰すまでじゃ。くっくっく、楽しみじゃのう……最近どうにも腕が鈍ってる気がしてのー」
悪そうな笑みを浮かべで腕をぐるぐる回す我らが魔王様。
クレアの実力がどの程度なのかは知らないけれど、四天王や周囲の魔族の言葉を借りるとするなら『魔王として納得するほどの強さ』だそうだ。
妹のクレイモア曰く「姉の本気のグーパンは砦を粉砕する」そうだ。
全くもって意味がわからない。
見た目は十二、十三程度の幼い容姿でジムにある十キロのダンベルも持ち上げられなそうな華奢な腕をしているのに、である。
「どれ、ちょっとばかし闘技場でも荒らしてこようかのぉ」
報告を聞き終えたクレアは無邪気な笑顔を浮かべ、玉座からぴょんこ、と飛び降りた。
どうやら話はここで終わりのようだ。
ダレク達もそれを察したようで、スキップをするクレアを笑顔で見送り、その後に続いた。
もちろん俺も一緒に玉座の間を出ていく。
「それじゃ、また一緒になる時があったら頼むわ」
「はい、ありがとうございました」
「私の助けが必要だったらいつでも呼んでねー」
「はい」
「カイオワとか言うモンスター、非常に気に入った。今度貸してはくれまいか」
「構いませんよ。いつでも言ってください」
ダレク達は仕事に戻ると言って、別々の方向に向かって行った。
そして俺も元の現場に戻ろうと廊下を曲がった時。
「きゃっ」
「わっ」
廊下を曲がった途端、女性の魔族とぶつかってしまった。
身長差があって、女性魔族の頭がちょうど俺の胸の所にあたってしまい、思わず抱き止める形になってしまった。
咄嗟のこととはいえ、女性とこんな形で密着したことのない俺はそのまま氷漬けになってしまったかのようにカチコチに固まってしまった。
「あ、あのっ、その!」
「はああ!? ごめんなさいごめんなさい!」
ぶつかった女性魔族の事をがっちりとホールドしてしまっており、女性魔族がどうしたらいいかわからない、という表情で俺を見上げる。
慌てて手を引き剥がして平謝り。
「ふふっ、びっくりしました」
女性魔族は小首を傾げてにっこりと笑った。
口の端から小さめの牙が覗き、きりりとした切れ長の瞳はきゅっと閉じられている。
薄紫色の髪の毛から漂うシャンプーの匂いがふわふわりと俺の鼻腔をくすぐり、頭頂部から伸びる二本の獣耳が彼女の魔族的特徴を表していた。
「すみません。ぼーっとしてて」
「大丈夫ですよ。私こそすみません、急いでいたもので……」
女性魔族は小脇に包みを抱えており、それをどこかに届けに行く最中だったのだろう。
魔王城は広い。
ゆえに部署間やスタッフ間の配達を担当する輸送係という部門がある。
いわゆる魔王城内限定の〇〇運送みたいな部門だ。
彼女はそこのスタッフさんなのだろう。
「毎日配送お疲れ様です」
「いえいえ! ありがとうございます。確かクロードさん、でしたよね。私はミーニャって言います。今度色々お話し聞かせてくださいね!」
「え? あ、ちょっと!」
ミーニャと名乗った女性魔族はぺこりとお辞儀をすると駆け足で去って行ってしまった。
何で俺の名前を知っているんだろうか?
お話し聞かせて下さいと言われても何を話せというのだろうか。
どきどきと高鳴る純情な胸の鼓動を感じていると、キラリと光を反射する小さなイヤリングが床に落ちているのに気付いた。
「これ……ミーニャさんのだよな」
追いかけようにも既にミーニャの姿は無く、彼女がどこ担当の輸送担当かもわからない。
「落とし物……どこの担当だったっけなぁ……チーフに聞いてみるか」
ポケットにイヤリングを突っ込み、足早に現場へと向かった。
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