第31話 人間の同士

「サリア、御前に。クレア様、一体全体どうしたんですか?」

「カレン、御前に。クレア様がお呼び立てするなんて……」

「ダレク、御前に。俺何かしちまったかと思ってるんですが、悪い事しましたか?」


 

 膝をつき、頭を垂れる三人を横目でチラ見しながら俺も挨拶を済ませる。

 施設管理部で修繕工事をしていたら、急にクレアが呼んでると言われて来てみたら……一体何事だというのだろう。

 というより、魔王城に人間がいる事は聞いていたけど実際会うのは初めてなんだけど……なんかどこかで見た事あるようなないような。


「人間軍が進行してきているのは知っておるな?」


 クレアの言葉に全員が首を縦に振る。

 魔王城内部でその事実を知らない者はいない。


「なんかのう、変なんじゃよ」

「変とは?」


 クレアの言葉に質問をなげかけたのはサリアという女性。

 黒いローブを羽織り、分厚い本を手に持っている。

 本の表紙は複雑な魔法陣が描かれており、なんらかの魔導書だというのはわかる。

 ローブのせいで細部はわからないけど、眠たそうな目をしているのは分かる。


「進行してきているのはブルーリバー軍なのじゃがの。きゃつら何かを探しているのうなんじゃ」

「何かというのは……分からないのですよね」

「まあの」


 次に口を開いたのはカレンという女性。

 サリアとは違い、ドレスとローブを合わせたような不思議な服を身につけているが、切れ長の瞳が涼やかで涙袋がぷっくりと出ている可愛らしい顔立ちの人だ。

 

「もしかして……俺達に直接聞いてこい、とか仰いませんよね?」

「なはは! よう分かっとるじゃあないか!」

「ああもう! そうなると思ったッスよ!」


 頭を軽くかきながら苦笑いをするのはダレクという戦士風の男性。

 赤みがかった茶髪を短く切り揃え日に焼けた肌がとても健康的かつ、筋肉がより引き締まって見える。

 頬に付いた大きな傷跡が特徴的だが、人相はそこまで悪くはない、と思う。

 多分。


「ダレクの言う通り、お主らにはブルーリバー軍の元に行き、何をしているのかを聞いてきて欲しいんじゃよ。人間であれば向こうも多少の警戒はあるやもしれんが話をしてくれるじゃろ。魔族が行くより数倍良いわい。それと、警告もしておけ。このまま進むのなら容赦せんぞ、とな」

「それは分かりましたけど……聞くだけ聞いて帰ってくればいいんですか?」


 と、純粋な疑問をぶつけてみる。


「それで良いよ。じゃがもし……」

「もし?」

「もしも宣戦布告をしてくるようなら排除してもかまわんぞい。ま、五万程度で喧嘩を売るような馬鹿じゃないと思っとるがの」

「わかりました」

「それと、探し物が分かり協力出来そうなら協力してやれ」

「いいんですか?」

「当たり前じゃ。困ってる時は手を差し伸べてやらんとな。それに--」

「それに?」

「ぶっちゃけ目障りじゃからな」

「あっはい」


 クレアは髪の毛先をいじり、枝毛を探しながら無造作にそう言った。

 自分の支配地域にずかずかと乗り込まれ、うろうろされたらやっぱりそうなるよな。

 自分の庭にお隣さんが乗り込んでくるようなもんだからな。

 

「領土侵犯とかで潰しちゃえばいいじゃないですか」


 サリアが眠たそうな目をさらに細めて物騒な事を言い出した。

 それは正論なのだけど。

 他国で許可もなく行う軍事行動は侵略と見做されても仕方ない事だ。

 

「潰すのは簡単じゃがの。そうしない為の警告じゃ。手を出すのは簡単じゃが引くのは中々難しいでの」

「はーい」

「では各自よろしく頼む。現地まではクロードに運んでもらうとよいぞ」


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