第21話 静かな一日

 施設管理課でのゆるいような厳しい三日間が終わった。 

 親方を始め、施設管理課のみなさんは肉体派なだけあり、ご飯特盛り、酒は滝のように飲み干す強者ばかりだった。

 初日の夜に歓迎会として酒盛りを開いてくれて、それはとても嬉しい事だったのだが、いかんせんみなさんが酒豪すぎた。

 酒瓶が何本も転がり、突然寝出す人や腕相撲が始まったり女性の話になり、魔王城では誰それが可愛いだとか、誰と誰がくっついただの、実にカオスな宴会だった。

 そして次の日にはけろっとして仕事をしているんだから凄いよなぁ。

 俺はあまり酒が強くないので、弱めのお酒をちびちびと飲んでいただけだったのだけど。


「さて、クロードよ」

「はい」


 今日は光風のクレイモアの元でお仕事だ。

 けど司令官戦闘補佐という仕事内容があまり思い浮かばずに今に至る。

 

「何をしような」

「え?」

「お前は何がしたい?」

「何がしたい、と言われましても……」

「ま、そうよな」


 椅子に座り、ペラペラと書類をめくるクレイモアの姿をじっと見つめるが、一向に席を立って仕事、という感じにはなりそうになかった。


「実はな」

「はい」

「正直今はあまり仕事がない」

「えぇっ!?」

「ほれ、今は特にどこと矛を交えているというのはないからな。まぁ、あるにはあるが、そちらは今別部隊が出張中なんだよ」

「なるほど」

「あーどっか攻めてきてくれないかなぁ」

「物騒な事言い出しますね!?」

「だってそうだろう? 我ら魔族にとって戦いは--全てとは言わんが大事な事だ。軍人としてもな」

「戦うのがお仕事ですからね」

「うむ。まぁそこらへんにある資料でも読みあさっているといい」

「わかりました」


 今はクレア直轄の魔王軍が動くような激しい侵攻はなく、この数ヶ月は平穏そのもの。

 基本的に魔族には好戦的な種族が多く、もちろん争いが好きではない温厚な種族もいる。

 ピクシー族とかシルフィール族とか、結構いるみたいだ。

 そして軍属となっている者は大体好戦的な種族ばかりであり、最近軍部では集団スパーリングと称しての乱戦が多発している。

 スポーツ感覚で殴り合うんだから相当な肝いりだよ。

 魔王城敷地内には小型のコロッセオもあり、そこでは毎日のように対戦が行われ、常に満員御礼の人気スポットになってる。

 たまに四天王の方々やクレイモア、魔王クレアも参戦するらしいので人気の理由もわかるが。

 やはりクレアは魔王だけあり、圧倒的な強さを持ち、幼い見た目と反比例するその強さは多くの部下を惹き付けてやまず【クレア様ファンクラブ】なるものも密かに存在するという。

 クレア様のイラスト一枚いくら、なんていうアコギな商売も公認で行われているそうだ。

 コロッセオには魔王城のスタッフ以外、近くの街から観戦しにくる人達もいるし、遠くの街からはるばるやってくる人達もいて、なかなかの収入源になっている。

 

「よくやるよなぁ」

「ん?」

「あ、いえ、コロッセオの話です」

「あぁ、クロードも興味があれば参戦してみるといい。きっと盛り上がるぞ?」

「いえいえ、俺なんて一捻りされちゃいますよ」

「何を言っている。お前ではなく、お前が召喚したモンスターを戦わせればいいではないか」

「いいんですかそんなの」

「いいも何も、それがお前の戦い方だろう? それに対して卑怯だなんだというこすい輩はおらんよ」

「そう、なんですか」


 そう言われるとちょっとだけ興味が湧いてくる。

 誰を召喚しよう、どのタイミングで入れ替えよう、なんて妄想が膨らむ。

 あ、でも入れ替えたらそれはさすがに卑怯か。

 入れ替え禁止、一対一、正々堂々だな。

 今度の休みに覗いてみようかな。


「それと、コロッセオに出るならいつでもいいぞ? 既に登録は済んでいる。他の部署で勤務している時は知らないが、ウチで働いている時であればいつでも参戦可能だからな」

「いいんですか!?」

「対戦も立派な訓練の一つだ。実戦形式でのバトル、それこそ戦場で立つ魂を鍛え上げる。命のやりとりという点では違うがな」

「はぁ」

「もっともクロードは前線にも後方支援にも回れるオールラウンダーだろうがな」

「そう、ですね。どっちもいけると思います」

「ほう? 言うではないか」


 ぽろっとこぼした言葉にクレイモアが怪しい輝きを瞳に灯して反応する。


「ええ……そんな不吉な笑い方しないでください」

「かっかっか! 充分留意しておくとしよう」

「お手柔らかにお願いします……」


 クレイモアはひとしきり笑ったあと、再び手元の書類をペラペラとめくり始める。

 俺もそれにならい、適当に手に取った資料をめくる。

 そして室内にペラペラという紙擦れの音が静かに鳴り続けた。


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