第2話 やめます
「クロード・ラスト。軍会議で召集がかかっている」
現れたのは俺の直属の上司であり、軍のエリートであるアスター将軍閣下様だった。
クールで無表情、ゴーレムのようにただ淡々と職務をこなす真面目一徹のお方だ。
剣の腕は軍部でも最上位、きっと良い金貰ってんだろうなぁ! ちくしょう!
「あー……もうそんな時間ですか。わかりました」
脱力した手をふり、心の中で愚痴りながら重い体を引き上げる。
「相変わらず貴様はぐうたらとしているな。そんな事だから」
「小言はいーっす。わかってますよ」
「……ふん。行くぞ」
「うす。あ、俺、辞めますわ」
扉を開け放って待っているアスターの横を通り過ぎる際、俺はそう呟いた。
「な……! 本気で言っているのか!」
「本気ですよ。もうやってらんねぇっすわ」
「なぜだ!」
「なぜ? いやいいっす。ここで話しても疲れるだけなんで……会議の時に言ってやりますよ。どうせちくちくねちねち小言言われるんだし」
「クロード……」
「これはもう決めた事ですんで、はい」
珍しく狼狽するアスターを横目に、俺は会議室の扉を開いた。
「遅いぞクロード!」
「職務怠慢、やる気のない態度、目に余りますな」
「髪もボサボサで身支度ひとつ出来んのか貴様は!」
会議室に入るなりピーチクパーチクとお偉方が騒いでいるがいつものことだ。
どうせ溜まったストレスの吐口くらいにしか思ってないんだろうな……。
「すみません」
「ふん! この無駄飯くらいが!」
椅子に踏ん反りかえる砲術大隊長。
ピキ。
「何が召喚士だ。毎日毎日ぐうたらしているだけではないか」
机で手を組み、蔑むような視線を送ってくる機動歩兵大隊長。
ピキピキ。
「貴殿は演習にすら顔を出さんと聞いているぞ?」
出なくていいって言ったのはお前だろうが、騎兵大隊長さんよ。
ピキピキピキ。
「モンスターの管理? そんなもの誰でも出来る。現に出来ている。無能な貴様に席を与え、仕事を与えている我々に感謝してほしいものだな!」
ちょび髭をさすりながら吐き捨てるように言う第一方面軍司令官殿。
ブチィ。
と、俺の中で何かがキレる音がした。
「うるっせえええんだよ!!」
吠えた。
自分でもこんなに大きな声が出るとは思ってなかったのでちょっとびっくりした。
でも止まらない。
止められない。
長年貯めてきた鬱憤が今こそ我こそはと押し寄せてくる。
俺の怒号で場が静まり返り、お歴々の方々が目を丸くしてやがる。
「ごちゃごちゃねちねちくどくどと! 俺が何をして何をさせて何を考えて何の為に色々やってっと思ってんだコラァ!」
「き、きさま……!」
「黙れちょび髭! 貴様も殿様もあるか! ふざけんなよマジで! こちとら連勤二十二日目だぞ! 飯もろくに食えない、モンスターに関わる仕事を一切合切放り投げておいて仕事してないだ? 世話なら誰でも出来る? 誰でも出来るようにモンスターの個体ごとのマニュアルを作ってんのは誰だ!? 気まぐれでわがままなグリフォンの餌のレシピを作ってんのは誰だ!? その他諸々言いたいことはたくさんあるんだ! 上から知った口を聞いてんじゃねぇぞこのスカポンたん共が!」
「お、おいクロードやめろ」
「そうだな! やめる! もううんざりだ。俺は軍を抜ける。王国なぞ知ったことか!」
ハァ、ハァ、言った、言ってやった。
すげぇスカッとした……。
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