第16話

   ミ☆


 空、空、お空! 星と海のその間、どこまでだっていける場所。どこへだってつながる場所! 遮るもののないお空を舞って、コノは興奮し通しでした。ミマミマの目で、ミマミマの翼で、ミマミマの触手で、コノはお空を感じます。ミマミマとひとつになってお空の風に、コノはびゅうっと乗っかります。ああ、なんて心地。なんて幸せ。これが空を飛ぶってこと。自由ってこと。どこへでも、どこまででも行っていいってこと――!

 だけど、ちょっぴり不安もありました。だってここにはコノ<ミマミマ>だけで、ミマミマ<コノ>だけで、他には誰もいないのです。コノ一人で、どこまでいけるものかしら。ずっと一人で、飛べるのかしら。それは心細くもなるというものです。

 でも、そんな心配なんて、ぜんぜんいらないことでした。

『バカね、あんた一人に任せるわけないでしょ』

『そうだよコノ。ぼくたちみんなでミマミマを見る……でしょ?』

 光の粒が、人の形を描きます。コノもよく知るその二人。夏休みの間中、仲良くミマミマを見てきた友だち。間違いようがありません。ミッチにマツミ。二人はここに、生きていました。生まれ変わって二人もここに、ちゃんと一緒にいてくれました。絶対に離れないこの場所で、絶対に離れないよと一緒にいてくれました。怖いものなんてもうなにも、どんなとこにもありはしません。

『ねえ、どこまで行こうか?」

『決まってるじゃない。ね、コノ?』

 コノの隣で、二人が楽しげにわらいます。コノもわらいます。だってだって、うれしくって楽しくって仕方がないんだもの。どこへ行こう、どこまで行こう。それはもちろん、決まっていました。コノ<ミマミマ>はミマミマ<コノ>の触手の翼を、大きくお空に広げました。

 翼の側で、何かが爆発しました。

『戦闘機だ!』

 ミッチが指差し、叫びます。そこには鋭角的なフォルムの戦闘機が、二つ並んで飛んでいました。戦闘機が、ばららばららと、機銃でミマミマ<コノ>を撃ってきます。更には底面に備えたミサイルを、ばしゅうと勢いよく発射してきました。ミサイルは物凄いスピードで、一直線にミマミマ<コノ>へと向かってきます。

『あんなもん、びびることないぜ』

 ミッチともマツミとも異なる声が、コノ<ミマミマ>のすぐ側から聞こえてきました。それと同時にミマミマ<コノ>から、光る粒が大量に吹き出します。吹き出した光る粒は雪のようにゆっくりと、ゆっくりと下降していきます。そのゆっくりとした動きの粒が、直線的に進むミサイルへとぺたぺた付着していきました。するとどうでしょう。あんなにもすさまじい速度で飛んでいたミサイルが、勢い失い落下していったのです。

 二機の戦闘機も同様でした。戦闘機もミサイルと同じようにぺたぺた光の粒に全身包まれ、海の上へと落ちていきました。それでもう、おしまいでした。コノ<ミマミマ>たちを遮るものは、どこにもありませんでした。

『まったくよ。危なっかしくて見てられねえぜ』

 さっきとおんなじその声が、またまたコノ<ミマミマ>を呼びました。間違いありません。そこにいるのは――イワ。ミマミマに溶かされてしまったはずの、あのイワです。イワがいました。イワがいました。その事実にコノ<ミマミマ>はほんとにうれしくって、ミマミマ<コノ>の巨大な身体を操り、空中をぐるぐるとぐるぐると飛び回ります。そんなコノ<ミマミマ>にイワが『へっ』と、そっぽを向きます。

『お前らだけじゃどうにも心配だ。仕方ねえから、俺も付いてってやるよ』

 明後日向いてイワは一人、そんなことを言っています。だけれどイワのそんな言葉に、くすくすくすっとマツミがわらって、意地悪っぽく言いました。

『あらあらどうしてそんなこと。頼んでなんかいないけど?』

『こんなになってもイワはまだまだ、天の邪鬼のままなんだから』

『あ? んだと』

『ふふ、怖くなんかないよ。ぼくらはだって、ミマミマなんだから』

『そうよイワ、あたしたちはもうミマミマ。でもそれだからこそ、正しくなろうとがんばるの』

『きちんとはっきり言葉にしてさ』

『あんたの気持ちを、伝えなさいな』

 二人に散々やり込められて、イワはもう、言い返せません。言い返せるはずがなかったのです。だってイワの本心は、言葉とぜんぜん違うのですから。イワはぺたりと、コノ<ミマミマ>に触れます。

『あ、あのさ、コノ。その……』

 つっかえつっかえ、イワは言います。

『俺たちそのさ、またさ、そのさ、昔、みたいにさ、なれる……かな』

 とくとくとくとく、鼓動伝えて。

『ねえ。コ、コ、コ……コノちゃん』

 空色りぼんを、風になびかせ。

『俺ともっかい、友だちになってください』


 うん、イワちゃん!


 夜明けです。日の昇るこの世界を、みんなはびゅうんと飛びました。みんなで一緒に飛びました。世界中に光の粒を、ミマミマの光を届けるために。まっしろまくらが地上のみんなを、ふんわりやさしく包んでいきます。怖いのなんて、ありません。怒ったりなんかも、ありません。みんなみんな、生まれ変わっていくのです。みんなみんな、やさしく生まれ変わるのです。そうです、だってミマミマ<コノ・ミッチ・マツミ・イワ>は――――。

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