2 デートだよ。楽しいね。

 デートだよ。楽しいね。


 フラワーパーク 夢と希望と愛の国 (恋人同士のお客様には、『特別なプレゼント』があります。入り口で係りの者に申し出てください)


 そんな可愛らしくて甘酸っぱいキャッチフレーズの書かれた、(そして、いらないサービスのある)とても恥ずかしい名前の大型施設のファンタジー風の装飾のなされた立派な白い門の前で、すみかは一人で、さっきから三十分くらい立ちっぱなしのまま、一人の知り合いの女の子のことを、ずっと待っていた。

 隣を歩いて通り過ぎていくのは、幸せそうな家族連れと若い恋人たち。

 そして、とても仲の良さそうな親友同士と思えるような、高校生や中学生くらいの女の子の集団たち。

 みんなすごく幸せそうな顔をして、その白い門をわくわくしながらくぐっていった。

 あまり楽しそうじゃない顔をしているのは、すみか一人だけだった。

 それもそのはずで、すみかは遊園地という場所があまり好きではなかった。

 いや、遊園地に限らず、人の多い場所は苦手だった。

 だから普段であれば、すみかは絶対に遊園地のような場所にくることはないはずだった。

 そのすみかがなぜ、一人でフラワーパークという恥ずかしい名前の、すみかの住んでいる地方にあるあまり規模の大きくない、知名度の低い、地元の人しか名前を知らないような遊園地の白い門の前で、こうして待ち合わせをしているのかというと、それには深いわけがあった。

 すみかが待っている知り合いの女の子はすみかと同い年の中学一年生の、すみかと同じ中学校に通っている、すみかとは違う教室の女の子で、名前をいばらと言った。

 すみかといばらは、小学校のある時期まで家が隣同士で、いわゆる幼馴染の関係だった。(いばらの家族が同じ街の違う場所に引越しをしたことで、家は隣同士ではなくなった)

 ある日、いばらが放課後の教室ですみかに、「あのさ、すみか。実はお母さんから、このチケットをもらってさ。二人分あるから、良かったらすみかと一緒に遊んできなさいって言われたんだけど、……どうする? 一緒にいく?」とちょっとだけ照れた顔をしてすみかに聞いていた。

 すみかは恥ずかしいし、遊園地も好きではないので最初、その誘いを断ろうと思った。

 でも、すみかは、「わかった。いいよ。遊園地に行くのは、今度の日曜日でいいかな?」といばらに言った。

 いばらはそのすみかの言葉を聞いて、「えっ」と言って、本当に驚いたという顔をした。(いばら本人は、どうやらすみかが断ると思っていたようだった)

 そんなことがあって、二人は日曜日の今日、隣の街にあるフラワーパークの白い門の前で待ち合わせをしたのだった。

 すみかがいばらの誘いを受けたのには理由があった。

 それは最近のいばらの様子がどこかおかしいと思っていたからだった。

 その理由を知りたいとすみかは思っていた。

 もしなにか悩み事があるのなら、自分にできることなら、いばらの悩みの相談に乗ってあげたいと思ったのだ。

「お待たせ」という声がした。

 すみかが声のしたほうを見ると、そこには見慣れた中学校の制服姿ではない、私服姿のいばらがいた。

 ……暖かい三月の春の風が、二人の周囲を吹き抜けた。

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