第2話

「しかしマモル、お前らの科学ってのはスゲーな。 スマホなんて魔法よりすごいぜ。 昨日夜通し、かわいい子猫の動画見ちまった」


 そうガルムは大きな手のひ中にあるスマホを見せた。


「普通ガルムなら子犬じゃないのか」


「ははは、まあ僕たちみたいに魔法があんまり使えなくても、使えるからいいよね。 Wi-Fiが通じる所だけだけど」


 ラクレイは笑顔でうなづいている。


 この二人は俺と同い年の亜人だ。 ラクレイは鍛冶屋、ガルムは冒険者をしていたという。 冒険者とは依頼を受けてさまざまな任務をこなす職業だ。  俺も今、政府の募集に応じて冒険者となり、ギルドという組織に所属していた。


(お金のない俺は冒険者になるしかなかったが、登録するとこっちの世界を自由に動けるし、結構特典があったな。 まあ、死ぬ危険があるから、なりてはまだ少ないらしいが......)


 そう、わかれていた世界がひとつになったことで、世界が広くなり生活環境が大きく変わってしまった。 今や政府も領内の異世界だった国々との施政権や法整備の問題、未知の生物や病気の対策で忙しく。 人員が足りないため、諸問題を民間の冒険者ギルドに頼り、人を送らざるおえなかったらしい。


「気を付けろよマモル、今回はかなり強敵だぞ」


 ガルムが腰に差した剣をつかんでいった。


「で駆除はどんなモンスターだ」


 今回の依頼は俺たちの役場からのモンスター駆除の依頼だった。 


 モンスターとはさまざまな動物、植物、物質から生まれた異形の存在。 それらは人や動物を見境なくおそい、食べるでもなくただ殺すために攻撃してくるものが多い。 それゆえ外来危険生物と認定され駆除の対象となっている。


(まあ、役所が動物愛護団体の抗議を恐れて、駆除といいだしただけだが......)


 その愛護団体も最初モンスターを生物と言い張って駆除にも反対していたが、保護活動をしていた団体員が三桁ほど食べられたことで、駆除を許可した経緯があった。


「ラージアントだよ。 けっこう固いから気を付けてね」


 ラクレイが巨大な両刃の斧を両手でふりながらいう。


 俺はスマホでモンスターデータを検索する。


(ラージアント、巨大アリ...... 強酸性の蟻酸と刃物なみの切れ味のアゴ、樫木並みの外殻を持つ、Fランクモンスターか......)


 俺は冒険者の登録時に政府から支給された鉄製のブロードソードを握り、同じく鉄製の盾を前に向ける。 魔法がこめられており、とても軽い。


 森をついてすぐに拳ぐらいの大きさの甲虫が、茂みからとびだしてきた。 


「モンスターか!」


 俺は剣を振りかざし切ると、その体を切り裂いた。 半分になったそれは地面に落ちても動いている。


「フライビートルだ。 こいつは売れもしないな。 必死に倒したのに残念!」


 ガルムが笑った。


「うるさい、こっちは生活がかかってんだ。 バイト先のコンビニがモンスターに襲われてめちゃめちゃになってつぶれたからな。 まあどっちにしても県またぎぐらい遠くなったから、通うのは無理だったけどな」


「僕たちも同じだよ。 科学文明に接して生活がガラリとかわって、仕事も機械導入が不可避だからね。 僕のようなアナログ職人は鍛冶屋廃業さ」


 そうラクレイは両手を横にして首をふった。


「つまり俺たちはモンスター駆除や、遺跡のお宝入手で一攫千金をねらわにゃならんということだ」


 ガルムがうなづきながらいう。


「お前は元々冒険者だろうが」


「そうだ! 一攫千金を目指してたからな! それがロマンってやつだろ」


 ガルムは胸を張り豪快に笑った。



 俺たちは何体かのモンスターを倒しながら森を進み、洞窟へとたどり着いた。 洞窟はかなり大きく中は暗い。


「じゃあ、灯りをつけるね。 ライティング」


 ラクレイが何かを唱えると上に光のサークルが広がり、洞窟は明るくなった。


「やはり魔法はすごいな。 ラクレイ」


 そう魔法、魔力という未知のエネルギーをもとに、さまざまな記号、音の組み合わせで発動する現象、異世界ではこの魔法により文明が作られ、モンスターたちもこの魔力によって生まれたといわれている。  


「こんな初歩的な魔法誰でも使えるぞ」


「お前は使えないだろガルム」


「う、うるせえな...... ん? 音が聞こえる」


 そういうとガルムは耳をピクピクさせている。 


「近い...... ゆっくりいくぞ」


 俺たちは武器を構えて奥へと進む。 


 少し広くなっているところにつくと、奥にうごめくものが見えた。 それが明かりに照らされる。


「おい、この数......」


 それは人の半分ほどある巨大なアリの群れだった。 


「まずい! この数は逃げ......」


 その瞬間アリの大群が襲ってきた。 盾でなんとかそれを防ぐが押される。


「ガルム! ラクレイ! さっさと逃げろ!」


「できるか! バカ! お前らこそ逃げろ!」


「一人だけ逃げらんないでしょ!」


(ダメだ! 押しきられる! これはもう無理か......)


 そう諦めかけたとき、後ろで声が聞こえる。


「......ダークフレアエクスプロージョン」


 すると横を黒い火球がすり抜ける。 そして一瞬で巨大になりアリたちを全てのみこんだ。


「なんだ!? 魔法!!」


 後ろを振り向くと、暗がりに海坊主のようなものがいた。


「なんだこいつ!!」


 ガルムが剣をむける。


「まて! ガルム」


 よくみるとそれはコタツの毛布だった。


「......ゲーム、マモル」


 そういうと、毛布からひょっこりとアディエルエが顔を出した。


「アディエルエ! お前か」


 その時、ガルムとラクレイは膝まずいた。


「アディエルエさま! ありがとうございます!」


「魔王さま、ご助力感謝します!」


 二人はそうやって頭を下げると、アディエルエは顔を下に向ける。


「......いい、それよりマモル、ゲーム...... 勝負」


「まて!」


 俺はその場からアディエルエに手を引かれていく。


 そうアディエルエは魔王と呼ばれる存在だった。


 

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