第六話 たつのかみ
青葉は、穂波に頭を下げた。
「頼まれてくれるえ?」
「頼むって……まさか、俺がこまっちゃんの両親に聞きにいくっていうことか?」
穂波は眉をひそめた。
「昨日、神さんと話し合ったんよ」
例の事件から、まだ一日も経っていない。だが、できるだけ早く動かねば小町の中に眠る神がいつまた起きるかわからない。
「小町を連れていくのは論外。本当は俺が行ってやりたいけど、俺がおらんかったら小町の封印を直す奴がおらんことになってまう」
「それもそうや」
穂波は素直に納得した。
「せやけど、俺みたいな面識のない奴に話してくれるか?」
「俺から、電話しとくけん」
「そういえば、こまっちゃんの両親はお前のこと知っとるんか。あれやったら、俺が双神青葉ですって言ったるで」
青葉は、穂波の提案には気が乗らなかった。
「正直に言った方がええんちゃうかなあ。まあ、そこはお前に任す。とりあえず、電話してくるけんな」
青葉は穂波に一言告げてから、立ち上がった。
『――はい、佐倉です』
電話に、小町の母が出た。
「こんにちは。双神青葉です」
『ああ、小町がお世話になってるわね』
彼女は、感情のこもっていない声で礼を言った。
「ちょっと今、大変なことが起こっとるんです。小町の中にいた神を、封じたそうですね」
『な、何の話?』
初めて、小町の母は取り乱し始めた。
「悪いけど、話を聞かせてもらいます」
『ふざけないで。何の話か、わからないわ』
「実は今、もう東京におるんです。明日には、向かわせてもらいます」
青葉がハッタリをかますと、小町の母は口ごもった。
「小町が苦しんでるんは、あんたらの責任です。逃げることは許しません。ええですね!」
『は、はい……』
青葉の気迫に気圧されたのか、小町の母は怯えたように承諾した。
「明日、着いたら電話します。家におって下さい」
青葉はすぐに、電話を切った。
「青葉……」
気が付けば、近くに小町が立っていた。
小町は封印の影響なのか、眠ってばかりいた。今も、とても眠そうに目をこすっている。
「お母さんに、電話してたの?」
「せや。穂波にすぐ、東京行ってもらうけん。小町は何も心配せんと、寝ときな」
「――でも、穂波さん……迷惑じゃないのかしら」
「大丈夫やよ」
青葉は少し笑って、小町の向こう側を指差した。小町は振り向き、荷物を持って立つ穂波を見る。
「準備したで!」
『完了~』
穂波とすりーぷは、揃って敬礼した。
「小町、小町の家の電話番号を穂波に教えといて」
「わかったわ」
小町が穂波の携帯電話に、自宅の電話番号を打ち込む光景を何とはなしに見やりながら、青葉は深いため息をついた。
「ほんなら青葉。何かあったら、電話するから!」
「わかった。ほんま、ありがとな」
青葉が真剣に礼を述べると、穂波は照れ臭そうに笑った。
「どういたしまして。今のうち、恩を売っとくわ」
青葉は苦笑して、穂波の肩に手を置いた。
「無理はせんと。すりーぷも、よろしゅうな」
『はいはい~』
すりーぷはにこにこ笑って、手を振った。
「穂波さん、よろしくお願いします」
小町にも頭を下げられ、穂波は大仰に天井を仰いだ。
「嫌やなあ、みんな。ボス戦前の主人公を送り出すみたいに、辛気臭い顔してどうすんねん! ま、俺に全部任せ! ほんじゃな!」
穂波とすりーぷは、笑顔で出ていった。
そして翌日、穂波は「無事に話聞けたで」と言って、小町の母からもらったという和綴じ本や巻物を持ち帰ってきた。
青葉は自室にて、穂波と向き合って、話を聞くことにした。
「立川の家が祀っとったのは、
穂波の説明を聞いて、青葉はうつむいた。
「……よう、わかった。他に後継者が、おらんかったんな」
「そういうことや。神を宿したこまっちゃんは力が制御できんくて、ポルターガイストみたいなことを起こした。そこに、こまっちゃんが愛されなかった理由があるんやろな。限界やと思った冴子さんは、あのばあさんに頼んで封印してもらったんや。この資料は、冴子さんの母親の死後、冴子さんに託された立川の資料や。もういらんから持ってってくれ、言うてたで。冴子さんにも、ちょーっと霊力があったけど、こまっちゃんほどやなかったな」
穂波の話を聞き終えた青葉はふと、カザヒとミナツチを見上げた。ミナツチはともかく、カザヒまで黙り込んでいるのは珍しい。よほど、考え込んでいるのだろう。
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