怪盗ナバーロの奮闘 『狐獣人の少女』

ふむふむ

第1話

 角を曲がったところで、いきなりそれが目に入った。

 兵士二人による私刑リンチ


 しかも、その対象は、年端もいかない少年だった。


 狐のそれに似た、太い金色の尻尾に、頭には、同じ色の三角の耳がのっている。その特徴からして、少年は狐獣人ルナールなのだろう。



 シュトーリヒ伯爵家。

 その立派な門の前で、うずくまるようにしている少年を、兵士二人がわるわる蹴りつける。


「姉ちゃんを……。姉ちゃんをかえせ」


 少年は、うずくまった状態のまま門の奥を睨みつけた。



「おい、ガキ。さっさと諦めやがれ!」

「いくらお前が騒いだところで、もう姉ちゃんは戻って来ねぇよ」

「恨むんなら、エイドリアン様の目にとまった不運を恨むんだな」

「まあ、伯爵様が飽きたら解放してもらえるかもな。でも、そんときはもう……」



 動かなくなった少年に、少しだけあわれむような目を向けた兵士たちは、そう声をかけた。



「何やったんすか? その少年」


 声をかけたのは、門の前に現れた二人の猫獣人みゃうのうちの一人だった。


 歳は20歳くらいだろうか。

 男性としては少し小柄な160センチほどの身長。

 細く鋭い目つきに、小さめの鼻。

 短めの髪は、青みがかったグレー。その髪のうえに同じ毛並みの猫耳がちょこんと乗っている。

 

 白いシャツに動きやすそうな生地の黒いパンツ、黒のジャケットという軽装。腰に巻いた太めのベルトには、ふた振りの短剣がぶら下がっていた。


 そして腰の下あたりには、猫のそれに似た細長い尻尾がついていた。尻尾の毛並みも髪と同じで青みがかったグレーだ。


 彼の名をルイス・ナバーロと言った。



「ああ、ちょっとな。このガキが屋敷の中に入ろうとするから、きゅうをすえてたところよ」


 困ったような表情を浮かべて、兵士は首を振ってみせた。



「あっ、こら、そっちに入るんじゃねぇ」


 もう一人の兵士が声をあげる。

 そちらに目を向ければ、少年がって門の中へと入ろうとしていた。



 兵士は慌てて駆け寄ると、ぐしゃっと音がしそうなほど、少年を踏みつけた。


「ぐぅ」


 少年のうめき声が漏れる。

 同時にルイスの眉が跳ね上がった。


「ちょっと待てよ!」


 ルイスは腰の短剣に手をかけて、兵士を睨みつける。




「ちょっ。ま、待ってくれ。俺たちもそのガキにここを通られちゃ困るんだよ。そんな顔するくらいなら、そのガキを連れて行ってくれねぇか?」


 不本意だと言わんばかりに、兵士が訴える。




「ティト!」


 ルイスは連れていたもう一人の名前を呼んで、少年をあごで指した。

 ティトと呼ばれた猫獣人みゃうは、急いで少年に駆け寄ると、彼を抱き起こす。




 ルイスと同じ青みがかったグレーの髪は、肩のあたりまで伸びている。

 ルイスとは対象的な180センチを超える長身。まじめそうな黒ぶち眼鏡の奥には、大きめの瞳が優しそうな藍色の光を称えている。


 髪色と同じ猫耳と尻尾。

 身に付けているのも同じ色の上下だった。そして、背中には彼の身長ほどもある長い魔銃を背負っている。


 彼の名はティト・ナバーロ。

 ルイスの弟だ。




「うぅ」


 ティトに抱きおこされた少年は、小さく呻き声をあげた。


「きみ、大丈夫かい?」

「姉ちゃんを……」

「ごめん。今はまだ無理だけど、きっとなんとかするよ。とりあえず、一旦ここを離れよう。いいね」


 ティトが優しく言うと、少年は小さく頷いた。

 そして、気を失ったのかティトの腕の中でぐったりとする。


 ティトは少年を抱き上げると、ルイスに頷いて見せた。


「そういうことだ。あの子は俺たちが預かる。文句は無いな?」

「ああ、そうしてくれると助かる」


 兵士は、ほっとしたようにルイスに頷いた。

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