憑き物


「いったいこれはどういう事なの!?答えなさいカルロっ!!」


「無駄よ、アンゼリカ。カルロさんは……たぶん何かに取り憑かれているわ」


「取り憑かれて……?」


 窓際に追い詰めたカルロさん……に取り憑いた何者かを逃さないように、視線をそちらから外さないようにしながら私達は言葉を交わす。

 その間、ミャーコが油断なく身構えて、いつでも飛びかかれるようにしていた。



「いったい何が取り憑いたっていうの?」


「それは本人に聞いてみないと。……あなたは何者なの?」


『ワレハ トザサレシ 箱庭ジャルディーノ ノ フウインヲ カイホウセシモノ』


世界ジャルディーノの……封印?解放せし者?いったいどういう意味なの?何で私を狙ったの?」


『ソレハ オマエガ 魔法絵師ピットーレ・マジコ ダカラダ』


 『世界を解放する者』が『魔法絵師』を狙う?

 なぜ?


「意味がわからないわ!!どういう事なの!?」


 痺れを切らしたアンゼリカが叫びを上げる。

 と、ほんの一瞬だけ彼女の方に意識が向いた……その瞬間!!


 バリィンッッ!!


 ガラスが割れる大きな音が響き渡った!!



「「「あっっ!!??」」」



 ごく僅かに生じた隙をついて、カルロさんが身を翻して窓を破って外に跳び下り、一瞬のうちにその姿が見えなくなってしまった。



「待てっ!!逃さないニャッ!!!」


「あ!?ミャーコ!!待って……!」


 すぐに我に返ったミャーコが、彼を追いかけるため窓から跳び出していってしまった。

 私の制止の声は、少しばかり遅かったようだ……




「アンゼリカ、この窓の向こうは……」


 この部屋は三階にある。

 窓から顔を出して外を見ると、ミャーコが地面に着地して走り去るのが見えた。

 流石にミャーコを追いかけて飛び降りるには高すぎる。



「そっちは中庭よ。みんな行くわよ!!」


 アンゼリカが警備の人たちに指示しながら、自らも駆け出す。


 いや、あなたは危ないから待ってたほうが……

 という間もなく、私達は急ぎ外に向かうのだった。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「ミャーコ!!どこ!?」


「カルロ!!出てきなさい!!」


 中庭にやってきた私達。

 声を上げて二人を呼ぶが、何の反応も返ってこない。


 ランティーニ家の中庭はかなり広く、大きな木や植込みなど隠れる場所は多い。

 警備の人たちも警戒しながら辺り捜索するが、二人の気配は感じられなかった。



「あの子、どこまで追いかけていったのかしら……?」


「聞いた話だとミャーコちゃん相当強いみたいだけど……心配ね」


 本当に。

 あの子があんなに強いのは、私も昨日はじめて知ったんだけど。

 でも、あまり無理はしてほしくないわね……


 カルロさんに取り憑いた『何か』。

 あれは多分……あの魔法絵『家族の肖像』が封じていた存在なんじゃないかしら……?


 そうだとすると……最近まで封じられていたのなら、きっとまだ本来の力を取り戻していない可能性がある。

 できることなら、今のうちに何とかするべきだろう。

 何とかカルロさんの身体から引き剥がしたいところだけど……いずれにしても二人を見つけないと。




 どうやら、もうここにはいないようだし、どうしたものか……と、思ってると。



「……にゃ〜」


「あ!!ミャーコ!!」


 クロネコの姿のミャーコが植込みの陰から姿を見せた。

 カルロさんを追跡するために猫の姿になったみたいだけど、トボトボとした足取りから察するにどうやら見失ったらしい。




「マスター……すみません、逃がしてしまいましたニャ……」


 獣人の姿になって、そんなふうに謝るけど。


「ううん、あなたのせいではないわよ。無事で良かったわ。それに……」


 私はミャーコの頭を撫でながら言う。


「また、私を護ってくれてありがとう。私が無事だったのは、あなたのおかげよ」


「にゃ〜……」


 なでなで……




「結局、アレは何だったの?」


「詳しくは分からないけど……多分、あの家族の肖像の魔法絵が封じていたのが、アレだったんだと思う」


「魔法絵が封じていた存在……昨日あなたを襲ったのも、アイツなのよね?」


「そうでしょうね」


「……あら?でも、それはおかしいわね。カルロ、昨日の夜は普通だったし……今朝も変わった様子はなかったけど」


 ふむ、そうすると……


「取り憑く相手を自由に変えられるってことかしら?……そうすると、かなり厄介だわ」


 カルロさんの安否も心配だし、別の人に取り憑いていたら探し出すのが困難になってしまう。



 どうする?

 何とか作戦を考えなければ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る