魔法絵師〈ピットーレ・マジコ〉


 調査二日目は『貴婦人』に引き続いて『紳士』と『兄弟』の魔法絵について調べた。

 『貴婦人』の調査によってある程度の技法の傾向などは分かっていたので、二日目の調査はスムーズに行うことが出来た。

 二日に及ぶ調査によって、これら三点の魔法絵の修復についても目処がたった。



 そして今日は依頼を受けてから四日目。

 いよいよ修復作業に入る。

 魔法絵として復活させれば、これまで目撃されたような『幽霊』は出現しなくなるはず。

 もし、ミャーコみたいに意志ある存在を具現化するものなら、直接話を聞くことも出来るかもしれないわね。

 ここからが私の魔法絵師としての力の見せ所よ。



「いよいよ修復作業にはいるのね……楽しみだわ」


 そう言いながらわくわくした表情を見せるアンゼリカ。

 本当に魔法絵師について興味があるのね。



「あ、そうだ……修復作業に入る前に確認なんだけど、この部屋って魔法は使っても大丈夫?」


「え?あ、そうか……魔法絵の修復なんだから、そりゃあ魔法を使うよね」


「うん。もちろん攻撃魔法なんかと違って、周囲に影響を与えるものじゃないけど……結構な魔力を使うから、一応確認しとこうと思って」


 王城なんかだと、一定の魔力を感知すると警報がなる仕組みがあるって聞いたことがあるから。

 高位貴族のランティーニ家なら、同じような仕組みがあってもおかしくないかな……と、思ったのよね。



「周囲に影響がないなら大丈夫よ」


「ありがとう。じゃあ作業を始めるわね。ミャーコ、お手伝いよろしくね」


「ハイですニャ!マスター、頑張ってくださいニャ!」



 そうして今日もミャーコを助手として、私は魔法絵の修復作業を開始するのだった。






 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 作業部屋の中に、私が放つ莫大な魔力の波動が満ちていく。

 それは私が持つ絵筆に凝縮されていき、高密度となった魔力が燐光を帯び始めた。



「……っ!!」


 魔力が放つ波動に気圧されたのか、アンゼリカが驚愕の表情で後ずさる。

 かなり魔力を使うとは言ったけど、ここまでとは思わなかったのでしょうね。



「な、何なの?この魔力の量は……下手したら特級魔法クラスにも匹敵しそうじゃない……!」


「絵に魔力を定着させるためにはこれくらい必要なんだけど……無理やり力づくみたいなとこがあるからね、まあ効率悪いわよ」


「……まさか、作業中ずっとその状態なの?」


 恐る恐る……というふうに彼女は聞いてくる。


「ええ。とは言っても、流石に何時間ももたないから、こまめに休憩は挟むけど」


「いやいやいや、普通は数分ももたないでしょ……マリカ、あなたの魔力量、どうなってるのよ?」


 今度はちょっと呆れの表情が混ざってる。


 確かに、一般的な魔導士を遥かに凌駕するくらいの魔力量を私は持ってると思うけど……


「お母さんの方がもっと凄いわよ?」


「いやいや、メイリュール様はこの国……どころか世界でも最強の魔導士と言われている方よ?比較対象が既におかしいわよ。……本当は実子なんじゃないの?」


「そんな事はないけど……」


 それは違うとハッキリ断言できる。

 それに、私がこれ程の魔力を持つ理由も何となく察してる。



「はぁ〜……魔法絵師が今の時代にいない理由、分かった気がするわ。こんな馬鹿みたいに魔力を使うんですもの。普通の魔導士じゃ無理だわ」


「マスターは凄いのです!!ニャ」


 それは私も理由の一つとして考えてたものだ。

 彼女の言う通り、例えやり方が分かっても実践できる人が限られるから。

 それに加えて『絵』を魔法陣として見立てるための膨大な知識も必要となるのだから、衰退してしまったのは仕方ないかもしれないわね。



 そして私は魔力を宿した絵筆に絵の具を乗せる。

 この絵の具も、普通のものとは異なる魔法絵のために特別に調合されたものだ。

 調査した絵に合わせて、予め調合を済ませておいた。


 それから、『貴婦人』の絵に向かって慎重に筆を置いていく。

 これから本格的な修復作業に入る。

 アンゼリカも私の集中の妨げにならないように、固唾をのんで見守ってくれていた。





 さあ、いにしえの偉大な魔法絵師の傑作よ、蘇るのよ!

 かつて喪われたその御業は、いま私の手に……

 現代の魔法絵師ピットーレ・マジコたる私が、再びあなた達に生命いのちを吹き込んであげるわ!

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