ミャーコ
幽霊騒動の原因かもしれない『絵』を詳しく調査する準備をするため、私は一度
時刻は、もう少しで夕暮れとなるころ。
工房を出たときに天頂にあった太陽はかなり低くなっている。
これから工房に戻って、道具の準備をしてから再びランティーニ家に向かう頃にはすっかり日も沈んでしまうだろう。
なので、今日のところは一旦調査は中断して、また明日の朝に訪問することになった。
そして私は、ランティーニ家の屋敷がある閑静な貴族街から賑やかな中心市街地を通り、再び静かな住宅地のある丘を上って住居兼工房に帰ってきた。
「ただいま〜」
ただいまの挨拶をしながら扉を開け中に入る。
すると。
「にゃ〜」
と、猫の鳴き声が聞こえたが、姿は何処にも見当たらない。
だけどそれはいつものこと。
私は鳴き声が聞こえた方……廊下の壁に掛けられた
「ミャーコ。お留守番ありがとうね〜」
「うにゃ〜」
私がお礼を言うと、ミャーコは一声鳴いて
そして私の足元にやってきて、甘えるように身体を擦り付けてくる。
「あらあら、甘えん坊さんね〜」
「にゃ〜、ゴロゴロ……」
私がしゃがみこんで喉の下を撫でてやると、気持ちよさそうに目を閉じてゴロゴロと喉を鳴らす。
その姿はどこからどう見ても普通の猫にしか見えない。
「お腹が空いたでしょ?直ぐにご飯にするわね」
「にゃー!」
ひとしきり可愛がってからそう言うと、ミャーコは嬉しそうな鳴き声を上げる。
……実はこの猫。
メイド姿の少女であるミャーコと同一人物 (?)だったりする。
彼女は、私が描いた魔法の絵に魂が宿り、現実世界に具現化して生まれてきた……私にとって実の妹のように大切な存在。
メイお母さんから貰った貴重な魔法触媒の数々を惜しげもなく注ぎ込んだ上に、それこそ魂を込めて描きあげた最高傑作である。
この世界でおそらく唯一の魔法絵師だと自負する私であっても、そうそう同じものは描くことができないだろう。
彼女はふだん私の仕事を手伝ってくれる時は少女の姿をとってるけど、こうやって甘えたい時なんかは絵に描かれた通りの黒猫の姿になることが多い。
私はミャーコを抱き上げると、夕食の準備をするためにキッチンへと向かう。
彼女もお茶を淹れるくらいは出来るのだけど、料理となるとまだまだ任せることはできないのよね。
でも本人はやる気があるみたいだから、少しずつ覚えてくれると良いと思う。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ごちそうさまでした」
「にゃ〜!」
私もミャーコも夕食を食べ終わり、ごちそうさまの挨拶をする。
彼女は猫の姿のままだけど、食事は私と同じものを食べている。
今日は私が留守にしていたから、暫くは甘えモード継続中みたい……と思ったんだけど。
彼女の姿が光に包まれると見る見るうちに大きくなっていき、メイド姿の少女となった。
「マスター、お片付けは私がしますニャ」
「あら、ありがとう。ん〜、いい子ね〜」
「うに〜……」
頭を撫でてあげると、ミャーコは目を細めて気持ちよさそうにしている。
ほんと可愛いわ〜、うちのミャーコは。
「マスター。お仕事の方はいかがでしたか?ニャ」
「あ〜、実は今日だけじゃ片付けなかったから……明日以降もランティーニ家に行ってくるわ」
「そうですか……ニャ」
明日も留守にすると聞いて、ミャーコは少し寂しそうな表情を見せる。
この子、見た目は十歳くらいだけど、まだ生まれてから一年ちょっとくらいなのよね。
母親とも言える私から長い間離れたら、寂しく思うのは当たり前か……
よし!
「ミャーコ、工房は暫くお休みにしましょう、今は他に急ぎの仕事もないし……だからね、ミャーコも一緒についてきて、お仕事を手伝ってくれるかな?」
「ニャ!はいですニャ!お仕事、頑張るですニャ!」
私の提案に彼女は大喜びで応える。
やる気も十分だね。
アンゼリカが魔法絵の事を知りたがってたし、この子を紹介するのも良いかもね。
可愛い可愛いうちの子なら、きっと彼女も気に入ってくれるはずだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます