魔法の絵〈クワドロ・マジコ〉
翌朝。
私はミャーコとともに再びランティーニ家に向かった。
既に話しが伝わっているらしく、私の顔を見ただけで守衛の人が中へと通してくれた。
そして。
「おはようマリカ。待ってたわよ」
屋敷の玄関ホールで、アンゼリカが私達を迎えてくれた。
訪問する時間は伝えていたけど、随分タイミングが良いわね……
「おはようアンゼリカ。今日もよろしくね」
「それはこちらのセリフよ。こちらこそよろしくね。もう『絵』は作業場所に運び込んであるわ。……ところで、そっちの娘は?」
と、アンゼリカがミャーコの方に視線を向けて聞いてきた。
「この子はミャーコ。仕事を手伝ってもらうために連れてきたの」
「マスターの助手のミャーコですニャ。よろしくお願いしますニャ」
私が紹介すると、ミャーコも両手を揃えて頭を下げながら挨拶をする。
ピコピコする猫耳とゆらゆらする尻尾を見て、アンゼリカはこの子が獣人族だと思っただろう。
貴族の中には獣人族を毛嫌いしてる人もいるらしい。
だけど、昨日の聞き込みの際に使用人の中に何人かいたし、アンゼリカも普通に接していたから大丈夫だろうと予想していた。
「まあ、可愛らしい助手さんね。こちらこそよろしく」
にこやかに挨拶を返す様子を見れば、むしろ好意的みたいね。
まあ、ミャーコは可愛いからね。
この子は魔法絵から生まれた存在なので獣人族ではないのだけど……まあ、そのネタ明かしは後で良いでしょう。
「じゃあ、作業場所の部屋に案内するわ」
そう言って彼女は先導して歩き出す。
道すがら聞いた話によれば、作業場所とされたのは多目的用途の会議室のような部屋らしい。
そうして、私達は案内された一室に向かうのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「どう?ここなら広さも十分だと思うのだけど」
「ええ、十分よ。ありがとう」
部屋の中はかなりの広さがある。
もともと部屋の中にあった机や椅子、調度品の類は纏めて隅の方に避けられて、大きくスペースが取られている。
その床には、汚れないように大きなシーツが敷かれ、そこに昨日確認した『貴婦人』『紳士』『兄弟』の絵が額縁から外されて置かれていた。
これだけ大きい絵だとイーゼルに載せるのも難しいだろうから、床に置いたまま作業することになるわね。
「じゃあ早速始めるわね」
「お願いね。私もここで見てて良いかしら?」
「ええ、それは構わないけど……そう言えば、学校はどうしたの?」
確か、魔法学園に通ってるって言ってたけど。
昨日は休日だったから気にならなかったけど、今日は平日よね?
「ああ、それなら……校舎の改装とかでちょうど今週はお休みだったのよ」
「そっか」
学園か……
私もお母さんから入学を薦められたんだけど、出来るだけ早く独り立ちしたかったのと、魔法絵師としての研究の時間を取りたかったから断ったのよね。
でも、こうしてアンゼリカと話してると、
さて、そんな話をしている間にも私は準備を進めていた。
「マスター、これはどうしますニャ?」
「あ、それはまだ使わないから、まだ出さなくてもいいわ」
「了解ですニャ」
ミャーコと手分けして工房から持ってきた道具を床に広げる。
大きく分けて、調査用の機材と、修復のための画材だ。
「マリカは『幽霊』が現れる原因はこの絵にあるって思ってるのよね?まあ、状況的に私もそう思ってるけど」
「そうね。そして、こうして三点の絵を合わせて見たことで、それは確信に至ったわ」
「え!?」
『貴婦人』と『紳士』『兄弟』……家族が別々にあった時には分からなかったこと。
それが今、三点が一堂に会したことによって見えてきた事実がある。
「これは、
「!!」
そう。
今もやはり何らかの機能を果たすのに十分な魔力は感じられないのだけど、私はこれが魔法絵だと確信してる。
それも、これまで私が見たことがあるものよりも、かなり古い年代のものだろう。
もしかしたら魔法絵師が隆盛を極めていた時代のものかも。
その推測が正しいのなら、私がまだ知らない凄い技法が使われているかもしれない。
そう考えるとワクワクしてくる。
とにかく今は、その考えが正しいことを裏付けるために詳しく調査を行う必要がある。
そして、その技法や魔法術式が解明できれば……私の力で修復すれば、この絵は魂を取り戻すことが出来るだろう。
逸る気持ちを抑えながら、私はミャーコと共に準備を整え……そして、作業に取り掛かるのだった。
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