現場調査
「ここが目撃場所の一つよ」
引き続きアンゼリカさんの案内のもと、私は屋敷内の調査を進める。
やって来たのは『幽霊』の目撃場所の一つである廊下。
一見して何の変哲もない廊下であり、何らかの痕跡が残っているようには見えない。
そして、周囲を注意深く調べてみても特に変わった点は確認できなかった。
私がこれまで解決したことがある『魔障怪異』の原因は、大きく分けて二つのパターンがあった。
つまり、『人為的』か『偶発的』か。
……まあ、その分け方なら二パターンしか無いのだけど。
仮に、今回の事件が人為的に引き起こされた場合……誰か犯人がいるとすれば、何かしらの目的があるはず。
単なるイタズラかもれないし、別の目的があるのかもしれない。
その点を踏まえ、私はアンゼリカさんに質問する。
「アンゼリカさん。『幽霊』騒動の前後で、使用人の皆さんの間でトラブルとかはありませんでしたか?」
「トラブル?……いえ、そんな話は聞いてないわね。まあ、些細なトラブルなんかはわざわざ私に報告が来るとは思えないけど」
「そうですか。……では、待遇に不満を持っていそうな人は?」
「……うちの雇用条件は、他の貴族家と比べてもかなり高待遇だと思うのだけど。労働環境も悪くないはず……『幽霊』が出る以外はね。ついでに言うと、ランティーニ家に恨みを持ってそうな人物にも心当たりはないわ」
アンゼリカさんはそんなふうに、私の質問の意味を察して先回りして答えてくれた。
「不快な質問をしてごめんなさい」
「いえ、必要な確認だという事は分かってるわ」
『恨まれたりはしてないか?』という、結構失礼な質問だったので念のため謝ったのだけど、彼女は特に気にした様子はなかった。
割とさっぱりした性格のようね。
……結局、ここでは何の手がかりも得られず他の目撃場所にも向かったのだけど、やっぱり結果は同じ。
ただ証言通り、何れも大広間に比較的近い場所であることが確認できた。
「やっぱり、あの大広間が本命かもしれませんね。もう少しあそこを調べさせてもらえますか」
「その前に少し休憩しない?ちょうどティータイムだし……もう少し貴女のことも聞きたいし」
もう一度、大広間を調査しようと私が言うと、アンゼリカさんがそんな提案をしてきた。
まだそれほど時間も経ってないし、何の成果も上がってないのだけど。
「私のこと……ですか?」
「ええ。最初に会ったときに言ったでしょう?『魔法絵師』について興味があるって。ぜひお話を聞かせてもらいたいの」
「はあ……まあ、良いですけど……」
別にそれは構わないのだけど、調査の方は良いのかしら……
まあ確かに喉は渇いたから、ティータイムにはちょうど良いかもしれないわね。
ということで、私はアンゼリカさんとティータイムを過ごすことになった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「あなた……メイリュール様の娘さんなのよね?」
魔法絵師に興味があるなんて言いながら、彼女が最初に聞いてきたのはそんな事だった。
アンゼリカさんに誘われてやって来たのは彼女の自室の居間。
さすが高位貴族令嬢の部屋というだけあって、かなりの広さがある。
落ち着いた雰囲気の調度品に混じって、ぬいぐるみや人形、花が飾られているのが、年頃の少女の部屋といった雰囲気ね。
仄かに漂う芳香は、何らかのお香を焚いているためだろうか。
私は先ほどメイドさんが淹れてくれた紅茶のカップに手を伸ばしながら、先の質問に答える。
「確かに、私はメイリュールの娘です。養女ですけど。……よくご存知でしたね?」
「それはもう、あの方が娘を溺愛してると言うのは有名な話だから。その娘が不思議な魔法の使い手ということも」
……そんな噂になってるなんて知らなかった。
実は、私の義母メイリュールは、このチェレステ王国の筆頭宮廷魔導士だったりする。
フルネームは『メイリュール・ローナ・エルジュ』。
エルジュ家は『
だから私の名前は、本来『マリカ・エレデ・エルジュ』となる。
だけど、私はエルジュ家を継ぐつもりがないので、これまでフルネームを名乗ることはほとんど無かった。
メイお母さんも私の意思を尊重してくれてるし、もともと一代貴族のつもりで家を誰かに引き継ぐことは考えてなかったと言っていた。
……まあ、私が家を継ぎたいと言えば、喜んでそうしてくれるとは思うけど。
アンゼリカさんが言った通り、あの人、私に対しては超甘々だから……
「……だから、家格は貴女のほうが上なんだし、私に畏まった喋り方する必要はないわよ。歳も近いし、もっと気軽に話してくれた方が嬉しいわ」
……おや?
なんだか少し顔を赤らめてそんな事を言うのは……
もしかしてこれは、『お友達になりましょう!』ってことなのかしら?
「……分かったわ、アンゼリカさん」
「わ、私のことはアンゼリカって呼び捨てでいいわ。わたしも『マリカ』って呼ぶから」
……可愛い。
もしかしてこの娘、
聞いた話によれば、彼女は王立魔法学園の生徒なんだそうだ。
何でも以前からメイお母さんに憧れていて、今回の件で娘である私に会うのを楽しみにしてた……ということを恥ずかしそうに言うものだから、やっぱり可愛いなこの娘……なんて思った。
そして、最初に言ってた通り『魔法絵師』についての話も聞かれたけど、言葉で説明しても中々伝わらないのよね……
せっかく仲良くなれたのだから、そのうち実物を見せてあげようと思うのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
しばらくティータイムと会話を楽しんでから、私達は再び大広間に向かうことにした。
「さて……何か見つかると良いのだけど」
「私達も何度か調べてるんだけど、特に何も見つかってないのよね……」
当然ながら、私がここに来る前にも調査はしてるでしょうね。
さっき私が確認した時も『幽霊』に繋がるようなものは確認できなかった。
だけど、やはりあの婦人の絵は気になる……
とにかく、今度は些細なことも見逃さないように、より詳細に見いきましょう。
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