聞き込み


 大広間の『絵』を調べさせてもらったあと、私は本格的にランティーニ家の調査を開始した。

 アンゼリカさんからは、屋敷内は自由に出入りして構わないとの許可を頂いている。

 と言うか、引き続き彼女が案内役になってくれるみたいだけど。



「まず手始めに……目撃者の方からお話を聞かせてもらいたいのですが」


「ええ。さっきカルロに頼んでおいたから、もう集まってると思うわ」



 そして、案内された先は談話室。

 そこにはカルロさんの他、何人かの使用人たちが待ち受けていた。


「みんなお疲れ様。仕事中にごめんなさいね。ちょっと『例の件』について、彼女に話を聞かせてやってもらえるかしら?……あ、彼女は事件の調査をしてくれるマリカさんよ。調査の間、みんな可能な限り協力してやってちょうだい。ここにいない人達にも伝えておいて」


 アンゼリカさんは使用人たちを労いつつ、私のことを皆に紹介する。

 私は簡単に挨拶してから、話を聞かせてもらうことにした。


「え〜と……まず、一番最初に『幽霊』を目撃した方は……」


「あ、はい!私です!」


 そう言って手を挙げたのは、私よりも少し若いくらいの獣人族のメイドさん。

 見るからに見習いとか新人って感じだけど、ハキハキしてて先輩たちから可愛がられるタイプかも。



「あの日、私は屋敷内のお掃除をしていました。 それで担当箇所がすべて終わった……と思ったら、大広間に掃除道具を忘れていたのに気がついて、大急ぎで取りに戻ったんです。そしたら……」



 カーテンで締め切られ薄暗い大広間。

 そこで、ぼんやりと浮かび上がる白い影を見たのだと彼女は言う。



「それは、何時くらいでした?」


「あれは確か、お夕食の少し前くらいだったと思います」


 そうすると、大体18時前後くらいかしら?

 この季節だとまだ外は明るい時間帯ね。


 『幽霊ファンタズマ』に限らず、不死の魔物は陽の光に弱いという共通した特徴がある。

 だから、いくら薄暗い部屋とは言え出現するには少し早い時間帯のように思える。



「姿はどうでしたか?」


「かなりぼんやりとしていて、濃い霧状と言うか。かろうじて人形だったとわかるくらいで……私、パニックになって直ぐに逃げちゃったので、それ以上のことは分からないんです」


「うふふ……もの凄い悲鳴が屋敷中に響き渡ったくらいだものね」


「う……」


 アンゼリカさんが面白そうに言うが、当のメイドさんはバツが悪そうにしている。



「……っと、笑い事じゃなかったわね。今は実害もないけど、これからもそうだとは断言できないわ。雇用責任者としては労働環境の安全性を確保する義務があるし、なんとしても原因を究明しないと」


「ええ、力は尽くします。では、他の方も話しをお聞かせください」



 そうして他の目撃者の人たちからも話を聞いていく。


 目撃場所はやはり大広間が多かったけど、他にも廊下や別の部屋で目撃した人もちらほらと。

 その姿は、最初のメイドさんと同じように『かろうじて人型に見えた』とか、『何となく女性っぽかった』というものだった。

 中には『大広間の絵の貴婦人に似ていた気がする』という人もいたんだけど、それも何となく程度でハッキリしたものではなかった。


 時間帯はバラバラで、早朝や昼間、深夜まで満遍なく目撃例があった。

 そう聞くと、やっぱり魔物の幽霊ではなさそうね。

 そして、それを決定的に裏付けたのは……


「神殿から神官を派遣してもらったと聞きましたが」


「ええ。私はその場には立ち会ってないのだけど……報告によれば、神殿が擁する魔祓い師エゾルチスタの中でもかなり高位の方に来ていただいたみたいね」


 対アンデッドのスペシャリストである魔祓い師エゾルチスタ

 その中でも上位アンデッドにも対処出来るような人が来てくれたとのこと。

 不確かな情報でそんな人を派遣化てくれるのは、ランティーニ家がそれだけ有力な貴族家である証なのかもしれないわね。


「それで……実際にその方も『幽霊ファンタズマ』に遭遇されて、退魔の魔法をかけてくれたのだけど……」


 全くなんの効果も及ぼさなかった……と。

 例え上位のアンデッドであっても、退魔の魔法を浴びて無反応ということは有り得ないはず。


「……やはり、魔物の幽霊ファンタズマじゃないのは間違いありませんね」



 ここまで色々な話を聞いたけど、事前にカルロさんに聞いていた話を裏付ける以上の、新しい情報は無さそうね……

 でも、目撃情報からすると、やっぱり大広間になにか有りそう。

 別の目撃場所も大広間からそれほど離れていないみたいだし。



「皆さん、お話を聞かせて頂きありがとうございました。アンゼリカさん、次は現場を確認させて頂いても?」


「ええ、もちろんよ。お願いね」



 現場百遍とも言うし、次は目撃場所を調べさせてもらいましょう。

 特に大広間は重点的に……ね。


 それに、あの貴婦人の絵も、まだ気になる。

 もう少し詳細に確認したほうが良いかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る